薬聖ソフィー
今日も間に合わず…本当、すいません…orz
唐突に過去の話を持ち出され、シェリルは思わず目を丸くする。
しかし、クレアの真剣な眼差しにこくりと喉を鳴らし、懐かしさすら覚えるようになった名を口にした。
「……私が生まれ育った村に常駐していた薬師の…『ソフィア』さんです」
「村の名前は?」
「えっと……セインの村、ですけど……」
「……!やっぱり……!」
「え、ええ!?もしかしてそれ、『薬聖ソフィー』さんなんじゃ…!?」
答えを聞くなり突然落ち着かない様子になったクレアとハナに、今度はシェリルがきょとんと首を傾げる形になる。
二人の興奮度合いが全くわからず、置いてきぼりになった状態となったシェリルに気付いたのか、ウィリアムが助け舟を出すように声をかけてくれた。
「……私も名前を聞いたくらいしかないのだが…おそらく君の先生はとんでもない人物だったようだ」
「え?とんでもないって…普通のおばあさんですよ?」
「いや、そうではなく彼女は…」
「何言ってんのシェリルちゃん!あの『薬聖ソフィー』だよ!?」
「え、いえ、だから、その……」
「『薬聖ソフィー』って言ったら、もうほとんど伝説級の人じゃん!ていうか実在したんだ…!」
「……えええ?」
一週間前の初調合騒動よりも数倍興奮している様子のハナに、訳がわからなくて情けない声が出てしまった。
そんなシェリルに苦笑いを一つこぼし、ウィリアムがようやく説明をしてくれた。
「おそらく、君の先生はかつて『薬聖ソフィー』と呼ばれた人物だったんだ。15歳で国の調合士試験に当時最年少で主席合格して、その後薬学に対する様々な発見をし、この国の薬学の歴史に名を残している。60歳で引退されて、その後はご自身の出身地であるセインの村で、薬師をされていると聞いた」
「……え?ソフィーおばあさんが…国の認定調合士…?」
「そう。ちなみに、この時の最年少記録は未だに破られていない。彼女はすでに亡くなられたと聞いたが…それまでは本当に、生ける伝説だったんだ」
ウィリアムの話に、シェリルの目がますます大きく見開かれる。
もはや驚きすぎて声も出なくなってしまったシェリルにかまうことなく、こちらもいつになく興奮した様子のクレアがさらに言葉を重ねた。
「そうよ。しかも彼女は、引退されるまで一切弟子をとらなかったの。だから…もし本当にシェリルちゃんに知識を教えたのが『薬聖ソフィー』なら、あなたは唯一の彼女の弟子、ということになるのよ」
「………唯一の、弟子…私が……?」
「それに、本当に彼女が知識を授けたのなら、あなたのその知識量や観点にも納得ができるわ。そんな、これまでの常識を覆すような発見…『薬聖ソフィー』なら十分あり得る話だもの」
「ねえねえシェリルちゃん!さっきの魔力量の話って、やっぱりソフィーさんから教えてもらったの!?」
頬を紅潮させて質問してくれるハナに、場も弁えず思わず涙が出そうになる。
今まで、この話をこんなに真剣に聞いてくれる人たちなんていなかった。
ハナだけでなくクレアもウィリアムも、シェリルの話を本当に信じてくれているとわかる眼差しをしている。
それが例えソフィアのおかげだったとしても、それでも話を聞いてくれるだけで、シェリルは本当に嬉しかった。
だからこそ、きちんと話を伝えようとぐっと涙を堪える。
「えっと…この仮説を立てて検証してくれたのはソフィーおばあさんなんですけど…発端は、私だったというか……」
「?どういうこと?」
「最初は、ソフィーおばあさんがポーションを作っているところを私が見ていて…そしたら、使われていた薬草が、なんだかちょっと元気がなさそうに見えたんです。色が悪くなったというか…」
最初にシェリルがそれに気付いたのは、6歳の頃だった。
当時5歳で家族から虐げられていたシェリルを気の毒に思ったソフィアが、調合についての知識を授ける授業の中で、実際に調合をしてみせてくれたときのこと。
それまで綺麗な色をしていた薬草たちが、調合の過程で必ず色が悪くなる瞬間があった。
しかし、そんな薬草は一部だけで、大抵はポーションとして綺麗に混ざり合う最後の瞬間まで綺麗な色を保っていた。
だから不思議に思って、ソフィアに尋ねたのだ。
『ねえ、ソフィーおばあさん。どうしてこのやくそうは、いつもここできたないいろになるの?』
『……え?汚い色、だって?』
『うん。ほかのやくそうはさいごまできれいなのに、これだけいっつもこのまぜるときにきたなくなるのは、どうして?』
そうしてシェリルが尋ねた瞬間が、まさにソフィアが薬草に魔力を込めている瞬間だったのだ。
この話をしてから、ソフィアは頻繁に、シェリルに調合の場に立ち会うことをお願いするようになった。
そして、シェリルが薬草の色について指摘をしたものを重点的に調べ、魔力を込めすぎると力を失う薬草の存在を知ったのだ。
「…薬草の色が見える…」
「そう、なんです。なぜかソフィーおばあさんには見えなかったから…それから一緒にいろんな薬草を調べて、魔力を極力少なく注ぐようにする方が良いものを調べていきました。魔力の込め方を調整すれば、どの薬草でもきちんと正しく力が引き出せて、良いものが作れるから…」
ソフィアと一緒になって、いろんな薬草のことを調べていく過程は本当に楽しかった。
そのとき、魔力の込め方を調整する方法を教えてくれたのもソフィアだ。
この知識があったからこそ、シェリルでもここまで食いつないでいくことができたのは、間違いない。
「なるほど……奴らがこぞって欲しがるわけだ……」
「…それに、この話が事実だとすると、シェリルちゃんの技術は相当とんでもないってことになるわね…」
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なるべく毎日更新を心がけておりましたが、家族の進学やら仕事の納期やらが重なっているため、4月は休日のみ更新をお休みさせていただきますm(_ _)m
数は少ないと思いますが、楽しみにしてくださっている方には本当に申し訳なく…
でも、全て更新を続けていくためですので!引き続きお楽しみいただけますと幸いです!
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