抱えきれなくなったこの気持ちは
土日、更新できずすいませんでした…(土下座)
しばらくは笑われていることに憮然としていたウィリアムだったが、二人で立ちっぱなしになっていることに気付いたらしく、勧められるまま三人がけのソファに隣り合って座った。
一度空気が落ち着いてしまうと、どこからどう切り出したら良いのかわからず、一言目が出てこない。
それはウィリアムも同様らしく、うろうろと視線を彷徨わせては、口を開いたり閉じたりを繰り返していた。
「「……あの…!」」
しかも、意を決して口を開けば、間の悪いことに完全に二人の声が重なってしまう。
そのことにも顔が熱くなり、どうしようかと思っていたら、ウィリアムが視線でシェリルを促してきた。
遠慮することも頭をよぎったが、このままではきっと埒が明かない。
覚悟を決め、ぎゅっと膝の上で拳を握ると、ばっと勢いよく頭を下げた。
「……ごめんなさい、ウィリアム様!」
「…ど、どうした?何を謝っているんだ」
「せっかく街に出る機会をいただいたのに、あれから避けたような形になってしまって…とても失礼なことをしたって、思ってます。本当に、ごめんなさい……」
「っ……、君が気にすることじゃない。避けていたのは、私の方だ」
「それも、クレアさんから聞きました。私のため、だったんですよね?」
「……あいつ、余計なことを……」
そうっと頭を上げると、苦虫を噛み潰したような顔をしたウィリアムが、寮の方角を睨みつけている。
それでもすぐに視線がこちらに戻ってきたことにほっと胸を撫で下ろし、これだけは必ず言っておこうと心に決めていた言葉を口にした。
「…私、街で嫌な思いなんてしてません。とっても綺麗で、お腹を空かせて泣いている子供も、帰る家がなくて道端で生活している人も、一人も見かけませんでした。みんな生き生きして、楽しそうに働いていました。あの街の人たちを、ウィリアム様が大切にしていることがすっごく伝わってきて…すっごくすっごく、楽しかったです」
「………」
「だから、街の人たちの話は、まあ…ちょっと、怒っちゃいましたけど。でも、私はちゃんと知ってますから。ウィリアム様がすっごく優しくて、素敵な人だって。いつかきっと、街の人たちもわかってくれます。だって、こんなにウィリアム様は街の人たちを愛してるんですから」
そう、街の人たちをウィリアムは愛している。
そうでなければ、あんなに街の人たちが幸せそうに暮らしているはずがない。
みんな心にゆとりを持っていることがわかる、根は優しいとわかる人たちばかりだった。
だからこそ、ウィリアムのことだけが随分と誤解されている事実に、じわりと心の中に悲しみが広がる。
思い出すだけで胸がいっぱいになってしまって、思わず目が潤みそうになるのを堪えて精一杯の笑顔を向けると、それまでずっと黙っていたウィリアムが、ぐぅ、と喉を鳴らすように呻いた。
その顔がなんだか一瞬泣きそうに歪んでいて、しかしそれを確かめる前にウィリアムの腕が表情を隠してしまう。
「……っ、君は、本当に…!」
———そこから何が起こったのか、シェリルは咄嗟に理解ができなかった。
しかし、気がつくと視界が真っ暗になっていて、何か温かいものが身体を包み込んでいる。
あっという間に身動きが取れなくなったところに色濃く香ってきたのは、いつもウィリアムに近づいた時、仄かに鼻先をくすぐるコロンの香り。
(……え、これ…抱きしめられて、る?)
ようやく辿り着いた答えの衝撃に、一気に頭が沸騰する。
慌てて離れようともがいてみたけれど、殊更強く抱きしめ直されただけで、何も効果はなかった。
そもそもウィリアムとシェリルでは体格が違いすぎるから、本気で来られてしまったら敵わないのは当然ではあるのだけれど。
それでも、シェリルに対していつも紳士的な態度を崩すことのなかったウィリアムの強引な態度に、驚きと共に胸に込み上げたのは戸惑いだけではなかった。
服越しにも伝わってくるウィリアムの熱に、心拍数がみるみるうちに上がっていく。
肌がぞわぞわと敏感になっていて、耳元で聞こえる呼吸の音にも、胸いっぱいに吸い込んでしまった爽やかなコロンの香りにも、強く抱きしめてくる腕の強さにも、頭がくらくらしてしてまってろくに息もできなかった。
「えっ…ちょ、あのっ……ウィリアム、さま…っ!」
「……君は…」
「………え?」
「君は……優しすぎて、困る………」
しかし、一人パニックに陥っていたシェリルの耳にぽつりと落とされたウィリアムの声が、少し潤んでいることに気付いてしまえば、もう逃げようと思う気持ちもどこかに消えてしまう。
代わりに込み上げてきたのは、自分でも制御できないほどの激情だった。
この気持ちをどう表現したら良いのかわからない。
ぎゅうっと胸を鷲掴みにされたような苦しさと、今すぐどこかに走り出してしまいそうな衝動。
目の前で僅かに声を震わせながら泣くのを堪えている、自分よりもよほど大きくて強い存在を、自分が守ってあげたいと強く願う。
どこか縋っているようにも思える、苦しいくらいの腕の強さすらも愛しいと思う、この気持ちは。
(———愛しい?)
心の中に唐突に浮かんだ言葉に、急に視界が開けたような気がした。
と同時に、唐突に自覚してしまった恋心が、想い人に抱きしめられている現実を認識してしまって、このまま溶けてしまうのではないかというくらいに身体の熱を上げていく。
それでも、今だけはきっと自分を必要としてくれているのだと思えば、これ以上ウィリアムから逃げるなんて選択肢はなくなってしまった。
そうして結局、ウィリアムが我に返って土下座せんばかりの勢いで謝り倒すまで、シェリルは複雑な気持ちを抱えたまま、黙って腕の中に収まっていたのだった。
やっとここまできたよー!!!!!!(狂喜)
長かったよ…やっと自覚したよ…ちょっと甘くなってきたよ…!!←
しかしここからまた二人がもだもだし始めます。
もう暫しお付き合いくださいませ。。。




