あなたは誰ですか?
(あったかい…………)
優しいぬくもりを感じて目を開けたシェリルの視界に飛び込んできたのは、ぐっと眉間にしわを寄せてこちらを見つめる、一人の男性の姿だった。
とても大柄で、190cmはあるのではないかというその身体には、見たこともないほどしっかりとした筋肉がついている。
緩くウェーブしている黒髪は短く刈り込まれ、無造作に整えられていた。
前髪の間から覗く切れ長の瞳は金色に輝き、鋭い目つきをしている。
常人ではあり得ないその色合いは、それでもなぜか目の前の人物にはよく似合っていた。
しかし、すらりと伸びる手がこちらに向かっていて、先ほど感じたぬくもりが男のものであることを認識した途端、シェリルは大きく目を見開き、咄嗟に身体を大きくこわばらせた。
「っな……、あ、なたは……っ」
思い出すのは、意識を失う寸前に自分を痛めつけた男たちの姿。
目の前の男ほど屈強ではなかったが、もしかしたら彼らの仲間かもしれない。
(怖い、嫌だ、助けて…………!)
突然様子がおかしくなったシェリルに慌てたように、目の前の男がすっと手を離す。
そして、シェリルから少し距離を置くと、そのままその場に膝をついた。
恐ろしいと思っていた巨躯が小さくなり、逃げようとしていたシェリルの意識が男に向けられる。
そこには、大きな体を窮屈そうに縮こまらせ、こちらを窺う男の困り果てた姿があった。
「……何もしないから、まずは落ち着いてほしい」
「あ………」
「私は、ウィリアム・キーストンという。君の名前を、聞いても良いだろうか」
相変わらず眉間に皺は寄っているが、発せられた声は低く落ち着いていて、優しい響きをしている。
この人は、安全だ。
本能でそう理解した途端、こわばっていた身体がふっと弛緩したのを感じた。
「……シェリル、です。あの、ここは…」
「キーストン辺境伯家の屋敷ですよ、シェリルさん」
ここはどこかと尋ねようとしたシェリルの声に被せるように、少し高めの甘やかな声が響く。
声のした方に振り向くと、黒い執事服に身を包んだ細身の男性が、女性を伴ってティーセットを持って扉から入ってくるところだった。
シェリルの視線を感じたのか、扉を閉めてこちらを向くと二人ともにこりと笑みを返してくる。
女性が室内に入ってきたことで、ようやくシェリルは余裕を持って室内を見渡すことができた。




