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ヘタレ領主とへっぽこヒーラーの恋  作者: 小鳥遊 ひなた
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何を言っているのかわかりません



「マリーさん、久しぶりね!」

「あら、店長さん。ご無沙汰しております」

「今日はどうしたの?」

「はい、今日は新しくうちの救護隊に入った子と一緒に買い物をしてまして」

「あ、この子が前に言っていた子?」



マリーの肩越しにひょこっと顔を出したのは、二人の会話からしてこの店を取り仕切っている人物のようだ。

おそらく40代半ばくらいのその女性は、少し白髪が混じりかけているブラウンの髪を頭の上のほうでお団子にしている。

こちらを覗き込む、同じくブラウンの瞳には、なぜか憐憫の色が混じっていた。



(え?どうして?)



初対面の人にそんな視線を向けられる謂れがわからなくて首を傾げていると、マリーがその妙な空気を打ち破るように口を開く。



「そうなんです。ちょっと特殊な事情でうちに来たもので、色々と足りないものが多くて。シェリルさん、何が欲しいんでしたっけ?」

「あ、えっと…身だしなみを整えられるようなもの一式と、そう言ったものを整理するための小物入れが欲しいな、と…」

「それならこっちにおすすめのものがあるわよ。値段も手頃だから、好きなものを選んでいって」

「ありがとうございます。行きましょうか、シェリルさん」

「あっ、はい!」



女性の案内に従って店の奥へと進んでいくと、白と水色を基調とした瓶が並ぶ一角に連れていかれた。

ふんわりと可憐な香りが鼻腔をくすぐり、ふっと気分が上がる。



「…すごい、良い匂いですね…」

「すずらんの香り付けがされたスキンケアのシリーズよ。ちょうどその子と同じくらいの年代に一番人気があるの」

「まあ、可愛らしいですね。どうですか?シェリルさん」



促されるまま商品を手に取り、蓋を開けてくん、と匂いを嗅いでみる。

こうしたものを手に取ることなんて一度もなかったのでわからないが、少なくともシェリルはこの香りがすごく気に入ってしまった。

くるりとマリーを振り返り、頬を紅潮させてこくりと頷く。



「これに、します」

「ふふ、わかりました。では、ここにあるものを一式と、小物入れは…そうですね、こちらなんてどうですか?」



マリーが選んでくれた木製の小物入れも、とても可愛らしい。

初めて手に取るそれらにふわふわした気分のままそれらを店長に渡すと、一度店長が奥に戻っていき、金額の書かれた紙と商品が入った袋を手に戻ってきた。

お金が足りるかどうかビクビクしていたけれど、なんとか手持ちで支払いができる金額でホッとする。

しかし、無事に買い物ができたことに安堵して袋を受け取ったシェリルの手を突然店長がぎゅっと握りしめ、必死な様子で見つめてきた。



「あ…あの、何か……?」

「……あんた…いくら助けてもらったからって、あんな悪魔の元で無理に働かなくて良いんだよ」

「………え?」

「店長さん!やめてください!」

「あの屋敷の救護隊に入ったんだろう?怖い目に遭わされてないかい?まさか、無理やり脅されてるなんてことはないだろうね?」



(なに、どういうこと?)



マリーの静止の言葉も聞こえていないのか、店長の女性はシェリルに向かって質問をぶつけてくる。

しかしその内容はどれも、シェリルには全く理解できないものばかりだった。



「……あの、悪魔って、誰のことですか?」

「あの屋敷の主に決まってるだろう!あんな奴の元で働いてたら、いつか殺されちまうよ!?」

「殺される、って…どうして、そんな……」

「店長さん!」



戸惑ったままのシェリルに、興奮した様子で捲し立てる内容はどんどんと不穏なものになる。

マリーが焦って間に入るが、それも全く効果はないようだ。

最初は店の外で待ってくれていた護衛の兵士たちも、店長の大声に異変を感じたように、急いだようにこちらへ近づいてきているのが視界の端に見えた。

店の中にいた他のお客も、シェリルたちのただならぬ様子にこちらをちらちらと窺っている。



「あいつが魔族の子供だからさ!あいつのせいで、一度貴族が皆殺しにされてるんだよ!?」

「…………え…?」



(魔族の、子供?……ウィリアム様が?)



衝撃の言葉に呆然としているシェリルを、マリーが背に隠すように立ちはだかった。

人混みをかき分けてシェリルたちの元にやってきてくれた兵士が、なおも追い縋ろうとする店長を取り囲むようにして引き離し、その隙にマリーがシェリルの手を引いて店の外に出る。

されるがままになっていたシェリルは、気づけばマリーたちによって、街の中心部にある公園の噴水近くにあるベンチに座らされていた。

隣に座るマリーが気遣わしげにシェリルの手をとって、こちらを覗き込んでいる。

そこに、兵士の一人が手に飲み物を持ってこちらに走ってきていた。



「……大丈夫ですか?シェリルさん」

「これ、よかったら飲んでください」



兵士が手渡してくれたコップを受け取るが、口をつける気にはなれなくて、ぎゅっとそれを握り込む。

頭の中に渦巻いているのは、先ほどの女性から浴びせられた、ウィリアムに対する心無い言葉の数々だった。


ウィリアムが、普通の人ではないというのは、薄々気付いていた。

兵士であってもなかなか見かけることのない大きな体躯や纏う雰囲気はもちろんだが、何より、人間ではあり得ない金色の瞳。

まさか魔族の子供であるだなんて思ってもいなかったが、それでも何か特別な出自であるというのはわかりきっていたことだったのだ。


しかし、シェリルはこれまでウィリアムとの会話の中で、彼がとても心優しい人物であるということを知っている。

あの女性が言っていたように脅されたり、ましてや殺されるだなんてそんなこと、あるはずがない。

それなのに、どうして彼女はあんな心無いことをさも真実であるかのように話していたのか。

それに、彼女が言っていた「貴族が皆殺しにされた」という言葉も、引っかかっていた。





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