見捨てられてしまいました
本日2話目。
今日はあと1話投稿します。
※少し暴力的な描写があります。苦手な方はご注意ください。
『人生、何が起こるかわからない』
本当にその通りだなあ、と他人事のようにぼんやりと思うのは、これで一体何度目だろうか。
背を向けて逃げて行く、つい先ほどまで仲間だったはずの人たちをぼんやりと見遣りながら、動かなくなってしまった両足を投げ出したままシェリルは緩く笑った。
逃げられないようにと痛めつけられた足にはもう感覚がなく、それ以外の場所も目の前の男たちに押さえつけられて1ミリも動かせない。
最初に張り手を食らった右頬がじんじんと痛み、まるで顔に心臓があるような鼓動を感じるが、両足と顔以外に手を出されなかったのだからまだマシなのかもしれない。
いや、それもこれから目の前に立っている男たちの慰み者になるのだろうから、何もよくはないのだが。
「何笑ってんだよ、気持ちわりぃなあ」
「あれだろ、仲間に見捨てられて気でも狂ったんじゃねーの?」
「ひどいもんだよなぁ、俺らに勝てないと思った時点で尻尾巻いて逃げ出してさ」
「ひでーのはお前だろ、これ足の骨折れてんじゃね?」
「仕方ねーだろ、暴れんだから」
ひゃひゃひゃ、と下卑た笑い声を上げる男たちの声が遠い。
もしかしたら、最初の攻撃で鼓膜がダメになってしまったのだろうか。
いや、それももうどうでも良い。
いっそこのまま力尽きてしまえれば……。
そう思って目を閉じたときだった。
「お前たち、何をしている!!」
「っが…っ!!!!!」
凛とした低い声に、その場の空気が一瞬で変わった気がした。
何かが潰れたような鈍い音と共に、自分の上にのしかかっていた重みが急になくなり、周囲が一気に騒がしくなる。
何が起こったのかわからなくて、重たくなった瞼をゆっくりと開けると、霞んだ視界の中に黒くて大きな人影が映った。
こちらを見下ろしているであろうその男は、周囲に何かを命じながらしゃがみこんでくる。
「オリバー、クレア!こっちに来い!」
「ウィル、どうし…ああ、これは酷い」
「あらまあ、大変。大丈夫?私の声が聞こえる?」
男の声に、急いでこちらに駆けてきた二人の人物も同様にしゃがみこみ、こちらを覗き込んできた。
瞼をきっちりと開けられないせいで表情はわからないが、声の様子からおそらくこれ以上痛めつけられることはなさそうだ。
ひんやりとした細い手が頬にそっと添えられ、身体の力がふっと抜ける。
そのことで、知らず知らずのうちに体をこわばらせてしまっていたことにようやく気がついた。
「………ぁ……」
「意識があるのね。もう大丈夫よ。私たちはあなたを助けに来たの。応急処置として、簡単な治癒魔法をかけても良いかしら?」
シェリルが少しでも声を出したことで安堵したのだろう、こちらを心配そうに覗き込む女性がほっとしたような声で語りかけてくる。
うまく声が出せないので、代わりに少しだけ顎を下に動かすと、了承の意が伝わったのだろう女性が、こちらに向かって手をかざした。
ぬるま湯に浸けられたような心地よい感覚と共に、身体中の痛みがすっと引いていく。
圧倒的な安堵感に包まれて、シェリルはゆっくりと意識を手放した。




