さっそく調合してみましょう
シェリルの気持ちが落ち着いたのを見計らって、ハナが殊更明るい声で今後のことを教えてくれた。
「あのね、まずは今のシェリルちゃんがどれくらいの技術や魔力を持っているのか、教えてもらおうかなって思ってるの。ギルドで仕事を受けられるくらいには調合の知識はあるってことだったけど、どれくらいの出来上がりなのかは、まだ誰も知らないでしょ?あと、魔力がどれくらいなのかっていうのも、詳しく隊長は知りたいみたい。だから、実はまだシェリルちゃんは調合部隊に入るって決まった訳じゃなくて、後方支援と調合、どっちも体験してもらおう!みたいになってるの」
そんな説明に、シェリルは驚きを隠せない。
気持ちのまま大きく目を見開くと、にかっと明るい笑顔を見せてくれた。
「もちろん、後方支援の方はいきなり討伐に同伴する、とかじゃなくって、さっき見た兵士さんたちみたいに、訓練中に怪我した人を治すっていうやつね。これは、また後日隊長から話があると思う。ただ、まあシェリルちゃんはこれまでにもずっと調合やってたって話だったから、まずは慣れてるほうから、ってこと」
そう言われて、ほっと肩の力を抜く。
意気込みすぎて、肩に力が入ってしまっていたのだろうか。
右の手のひらで胸の辺りを擦っていると、ハナが手にしていた書類をテーブルの上に置いて、シェリルのもう片方の手を優しく撫でてくれた。
「実はね、私もほとんど魔力がないんだ。だけど、ここでは魔力がなくたって、知識と技術で役に立てる。だから、シェリルちゃんも大丈夫だよ。ジャックさん、こう見えてめっちゃ教えるの上手だから!」
「ほっほ、『こう見えて』は余計じゃがね」
その言葉に、シェリルはじっとハナを見つめる。
魔力が少ない、とハナは言ったけれど、シェリルが常に持っている劣等感のようなものは全く感じられない。
それはきっと、調合部隊として軍の役に立てているという誇りがあるからなのだろう。
「……はい、ありがとうございます。私、頑張りますね」
「うん!頑張ろう!」
シェリルが答えると、それに応じるようにハナは立ち上がった。
ちょいちょい、と手招きされてシェリルも一緒に立つと、ジャックの後ろにある作業机の前へと連れていかれた。
「じゃあ早速なんだけど、まずは何か作ってもらうのが早いかなって。ここにはある程度の材料があるから、そんなに難しいものじゃなければなんでもいいんだけど……そうだな、ひとまず筋肉増強剤を作ってもらおうかな」
「筋肉増強剤、ですか?」
「うん。使用前後で結果がわかりやすいかなって」
筋肉増強剤は、主に荷運び屋に需要が高いポーションだ。
また、戦いの場においては、肉弾戦になったときなどに使用されることも多いという。
シェリルもまた、これまでいた村では荷運び屋からの依頼ということで、ギルドを介して作っていた。
知識があること安堵しつつ、ハナに頷く。
「あっちの棚にあるものは使ってしまって大丈夫ですか?」
薬品棚を指差して問いかけ了承をもらってから、薬品棚に近づいた。
後ろから視線を感じるのに少しの緊張感を覚えつつ、間違えないよう慎重に材料を取り出していく。
(筋肉増強剤は、アシンの葉っぱと、スーザの根と……それから、キリルの花)
ひとまず一人分の材料を選んで作業机に戻り、必要な道具を揃えた。
アシンの葉っぱは50度お湯で10分煮出し、柔らかくなった残りもぎゅっと絞ってエキスを最後まで出す。
根っこは既に乾燥しているのですりつぶして、煮出したエキスに混ぜた。
キリルの花はめしべの奥に蜜が入っているので、それを慎重に取り出し、混ぜる。
その状態で今度は沸騰する0まで温め、5分経ったら布で濾して、冷めるまでしばらく置いたら完成だ。
手早く作業を終えると、最後までその様子を興味深そうに見ていたハナから、質問が上がった。
「ねえねえ、どうしてキリルの花を使ったの?」
「え?」
「普通、筋肉増強剤っていうとキリルの花じゃなくて、ジーデンの根っこを使うよね」
そう。
一般的に出回っている筋肉増強剤のレシピでは、確かにジーデンの根を使う。
シェリルもそれを知っているので、この質問は絶対にされると思っていた。
「あ、あの……ジーデンって、崖に生えてますよね。なので、私一人では材料を取りにいけなくて…他の材料でなんとかならないかなって思って…それで、色々試してみて、花の蜜が一番効果が高かったので……」
「だめ、だったでしょうか?」と恐る恐るシェリルが尋ねると、しばらくじっと出来上がったポーションを見ていたハナが、急に目をキラキラさせながらシェリルに振り返った。
「———早速、試してみよう!!」




