あなたの役に立ちたいです
いつの間にかソファから立ち上がっていたウィリアムが、シェリルのすぐ傍まで来て膝をついている。
そのまま覗き込むように、シェリルと視線を合わせてきた。
「……大丈夫だ。これまで会話してきた中だけでも、薬草への造詣が深いことは十分わかっている。それに、こいつはこう見えて教えるのも上手い。知らないことがあれば学べば良いだけだ」
「『こう見えて』は余計よ、ウィル」
じとりとクレアがウィリアムを睨みつけるが、ウィリアム自身は見向きもしない。
じっとこちらを見上げる真摯な瞳が嘘をついていないとわかるから、余計にどうして良いかわからなくなってしまう。
「………あの、でも、そこまでご迷惑をおかけするわけには…」
「迷惑だなんて思っていたら、こんな提案はしない」
「そこまでしていただく理由なんて……」
「君のことが、心配なんだ」
「っ………!」
「それだけでは、ダメだろうか?」
いつになく急くような様子で言い募るウィリアムの言葉に、シェリルは目を白黒させるしかできない。
そんなシェリルの様子に気づいたのだろう、クレアが助け舟を出してくれた。
「ちょっとウィル、シェリルちゃんが困ってるわよ」
「………クレアは黙ってろ」
「ま、私としてはウィルがこんな必死になってるのは面白いんだけど。このままじゃ、シェリルちゃん逃げちゃうわよ」
「………、しかし…」
「はいはい、わかったからちょっと待ちなさい」
未だ納得していない様子のウィリアムを押し退けて、クレアもシェリルの顔を覗き込む。
困りきった様子のシェリルに苦笑いをこぼし、その頭をぽんぽん、と撫でた。
「シェリルちゃん。実際問題、あなたの脚じゃまだ歩くこともできないでしょう?リハビリの期間だって必要だわ。その間、どうやって食べていくつもり?」
「っ、それは………」
「ここなら、私がいるからリハビリをしながら働くことだってできる。食堂が無料で使えるから、食事の心配だっていらない」
「………」
「もし、リハビリ期間が終了するまで働いてみて、無理だと思えばシェリルちゃんの思う通りにここを出ていっても、遅くはないと思わない?」
そう言われて、シェリルは確かにそうかもしれないと思い直し始めていた。
リハビリをしながら仕事ができるなら、それに越したことはない。
治療費だって稼げるし、何より救護隊にいれば、ウィリアムの役に立つことだってできるかもしれないのだ。
意を決して顔を上げ、クレアとウィリアムを交互に見遣る。
「………本当に、私なんかで役に立てるのか。正直全然自信はないんですが…」
言いながらも、期待と不安が交互に胸の中を占拠して、そわそわと落ち着かなく視線を彷徨わせる。
そんなシェリルに気づいていたが、二人とも決して返事を急かすことはせず、シェリルの言葉を待ってくれていたのがわかった。
その視線に勇気をもらうように、何度も嚥下を繰り返して、ようやく口を開く。
「もし、本当にご迷惑でないなら、こちらでお世話になっても、良いでしょうか…?」
「………ああ、もちろんだ。歓迎する、シェリル」
「よろしくね、シェリルちゃん」
シェリルがようやく口にした言葉に、ウィリアムがほっとした様子で息を吐くのがわかった。
先ほどまで難しそうに寄せられていた眉間のしわもほどけていて、そのことにシェリルも安堵したように息を吐く。
ふふ、とつい笑いがこぼれると、それを見たウィリアムがわざとらしく咳払いをし、立ち上がって扉のほうに視線を向けた。
「では、オリバー。シェリルのための部屋を用意しておいてやってくれ」
「承知しました、主」
「クレア、シェリルはいつから受け入れられる?」
「うちは今日からでも大歓迎よ」
「……さすがに今日は無理だな。来週の月曜からにしよう。それで良いか、シェリル?」
「え?は、はいっ!」
いつの間に部屋に来ていたのか、オリバーに部屋の話をすると、そのまま一礼して外に出て行ってしまった。
さらには業務開始の日までとんとん拍子で決められて、シェリルは話についていくので精一杯だ。
それでも、いつになく心が浮ついていることを自覚してしまって、シェリルは興奮に赤くなった頬を覚ますように、両手で顔を覆うのだった。
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