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ヘタレ領主とへっぽこヒーラーの恋  作者: 小鳥遊 ひなた
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思いもよらない誘い




あの日から、ウィリアムはちょくちょくシェリルの元に顔を出すようになった。

そうは言っても忙しい身の上なので、何か特別なことがあるわけではない。

訓練と仕事の合間に少し顔を出し、「調子はどうか」「困ったことはないか」などお決まりの質問をされ、他愛もない会話を少しすると、その日の手土産を渡して去っていく。


初めのうちはシェリルも緊張していたし、何だかウィリアムもよそよそしい様子だった。

しかし回数を重ねていけばそうしたぎこちなさもなくなり、今では毎日扉が開くのを心待ちにしてしまう自分がいる。

怪我が治るまでは移動もできないので、確かに退屈はしていたのだ。

いつしかウィリアムとのひとときが、シェリルにとっても大きな楽しみの一つになっていった。







「んー……うん、そろそろ大丈夫そうね」

「本当ですか!?」

「ええ、ちょっと待っててね」



そう言って、クレアがシェリルの脚に手をかざす。

口の中で何か呟くと、初日に頬に感じたのと同じ白い光が現れ、すぐに消えていった。




「はい、これで骨も綺麗に繋がったはずよ。ゆっくりで良いから、ちょっと立ってみてくれるかしら」

「はい!……っと、わっ…!」

「危ない!」




クレアの言葉に嬉しくなって、慌ててベッドから立とうとしたが、脚に力が入らずぐらりと身体が傾げる。

思わず声をあげ、衝撃に備えて目を閉じたが、予期していたような痛みは訪れなかった。

そっと目を開くと、そこにはウィリアムが焦った顔でシェリルを抱き止めている。

驚きに目を見開くシェリルを余所に、ウィリアムはシェリルの膝裏に腕を差し込んで軽々と抱き上げると、ベッドの縁にシェリルを座らせた。




「危ないだろう、シェリル」

「ウィリアム様、すみません……嬉しくて」

「一ヶ月も寝たきりだったんだ、筋肉が衰えていて当然だろう」



呆れた様子でシェリルの不注意を嗜めるウィリアムに、しょんぼりと肩を落とす。

すると、こちらを見ながらくすくすと笑うクレアの声が聞こえてきた。



「あらあら、随分仲良しになったのね」

「………うるさい」

「ふぅん、まあいいけど」



にやにやとウィリアムを見上げるクレアの視線に、ぐぐっと眉根に力が入る。

そんなにいつもしわを寄せていたら跡がついてしまいそうだ、と、呑気なことを考えていたシェリルだったが、ウィリアムの目が少し赤いような気がして首を傾げる。




(……あれ?もしかしてウィリアム様、照れてる?)




どうしてだろう、という疑問が頭をよぎったが、二人の視線がこちらに向いていることに気づき、そんなものはすぐに霧散した。



「さて、シェリルちゃん。ちょっと今後のことを話しましょうか」

「今後の、ことですか?」

「そう、これからシェリルちゃんがどうするかを、聞いておこうと思って」



改まった様子のクレアに、シェリルも背筋を伸ばして向き直る。

ウィリアムもその話のためにここに来たのだろう、特に口を挟むこともなく、手近なソファに座って真剣な目でこちらを見ていた。



「どう、と言いましても……どこかでまたギルドに入って、働いていこうと思っています。ここでの治療費をお返ししたいですし、手持ちも全くない状態なので、どこかに移動できる費用が貯まるまでは近くの街に滞在しようかなって…」



そう、ここでお世話になっている間、折に触れてずっと考えていた。

さすがに元のギルドで、彼らの元に戻ることはできない。

元々信頼しきっていた仲ではなかったが、あれだけ明確な裏切りを受けた後で、元通りに接することはできないだろう。

それに、ウィリアムの屋敷でここまで手厚く看病してくれたことに対するお礼が全くできていない。

幸い、マリーたちに聞いたところ近くの街には大きなギルドがあるということだったので、そこで依頼を受けつつ、当面の生活費と治療費を稼ごうと思っていた。


そう口にしたところ、クレアがぱちん、と手を叩いてにっこり笑った。



「あら、それじゃあうちに来れば良いわ!」

「へ?」

「正確には、ウィリアムが持ってる軍隊。その救護隊に入らない?っていうお誘いよ」



クレアの思ってもみない提案に、目を丸くする。

慌ててウィリアムの方に視線を移すと、予め聞いていたのか、特に驚く様子もなく、シェリルに目線を合わせてしっかりと頷いてくれた。



「うちの隊は結構待遇も良いし、希望者には寮も提供されるの。衣食住がきちんと保証されてるから、安心して」

「え、で、でも……!私なんかに務まるか、どうか………」



言いながら、どんどん自信がなくなって声が小さくなっていってしまう。

前にいたギルドでも、シェリルはそんなにてきぱきと依頼をこなすことはできていなかった。

好意で迎えてもらっても、お荷物になってしまうだけかもしれないのだ。


この優しい人たちに、失望されたくない。

そんな思いで辞退を申し出ようと口を開くと、ウィリアムの力強い声に遮られた。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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また、お陰様で、短編シリーズ(予定)も非常にご好評いただいてます。

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