夢の終わりと後悔
初投稿です!
ノロノロの歩みになるかもしれませんが、なるべく毎日更新目指して頑張ります。
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本日は3話投稿予定です。
———ドンッ!
…自分に何が起きたのか、わからなかった。
先ほどまで感じていたぬくもりは一瞬で消え去り、堅く冷たい床の上に尻餅をついていた。
ひりついた痛みがどこか遠く感じるのは、あまりに現実味のない状況のせいなのか、はたまた昨夜の失態がもたらす二日酔いのせいか。
いや、もしかしたら現状を受け入れたくない自分の、無意識の現実逃避だったのかもしれない。
ほのかなムスクの香りと、肌触りがよく、ほのかな汗と石鹸の匂いが混じったシャツの感触。
まるで母親に抱かれているような圧倒的な安心感をもたらす、弾力のある筋肉と体温。
いつの間にか慣れたものになっていたそれらを、心地よい微睡の中で享受していた幸せな時間は、なぜか一瞬で消えてしまった。
驚きに大きく見開いた瞳が映したのは、顔面を蒼白にして信じられないものを見るような視線を寄越す。
永遠にも感じた、痛いくらいの沈黙を破ったのは、硬質な扉を控えめに叩く音と、こちらの様子を伺う訝しげな家令の声だった。
「…シェリルさん?大きな音がしましたが、どうかされましたか?」
「…ぁ……」
起きたばかりで乾ききった喉からは、掠れたような声しか出ない。
それでも、凍りついてしまったその場の緊張感を壊すには十分だったようだ。
ベッドの上で呆然としていた人物は、弾かれたようにベッドから降り、そのままシェリルの横を通り過ぎる。
それでもその場から動くことができなかったシェリルは、だからこそ彼がどんな表情をしていたのか、窺い知ることはできなかった。
「っ、ウィル!?お前、どうして…!」
突然開かれた扉の向こうでは、予想もしていなかった人物が出てきたことで驚きの表情を隠しきれない家令が、足早に去って行く屋敷の主人とシェリルを交互に見遣っている。
舌打ちを一つし、「失礼」とその場を去っていく背中を見ながら、シェリルはぼんやりと『ああ、嫌われたんだな』と他人事のように感じていた。
こんなことになるのなら、勇気なんて出さなければよかった。
こんなことになるのなら、恋なんてしなければよかった。
こんなことになるのなら、出会わなければよかった。
あのとき、そのままいなくなってしまえれば…………