それから
それからは早かった。
やって来たアンドリュー殿下は即断即決で、話した翌日には継承権を破棄するつもりだという噂が聞こえて来たくらいだった。
まあ、王妃様がショックを受けているようなのだが、俺様なアンドリュー殿下は気にせずに進めているようだし、他の王子様方もアンドリュー殿下の決定を支持しているらしいので早々に決着はつくだろう。流石にそこまでは関与していられない。
そんなことより、ようやく俺とシンディはペッパー領に行けるようになったので、最近は荷造りを頑張っている。
シンディも向こうに行ったらあれしたいこれしたいと生き生きとしている。やはりどれだけ兄夫婦や両親が親切でもお客様である以上色々と気を遣っていたのだろう。
それから俺達はアンドリュー殿下の継承権放棄が明確になったところでペッパー領への引っ越しを行った。数日馬車に揺られるだけの日々だったが、開放感に溢れていて、世界がとても明るく見えた。
「テリー様、テリー様。渡り鳥ですよ。あんなに沢山どこに向かうんですかね」
「どこだろうな。でもきっと幸せになれるところだよ」
シンディに敬語を使わなくて良いと言われた為、開放感も手伝って数日前から普通に話すようになった。それだけで距離がグッと縮まった気がする。
勿論、あんまり気を抜くと前世の記憶に引っ張られてしまうところがあるから気を付けないといけないのだけれど、それでも本当の夫婦になれたみたいな気がした。
まあ、シンディは未だに敬語なんだけどね。
でも未来はどうなるか分からない。
勿論、良き夫婦関係を今後も続けていくつもりではあるけれど、それは努力あってのことなのだ。お互いの気持ちを思いやる気持ちを、相手をきちんと見て声を聴くことを忘れてはならないと思う。
「幸せになれるところ、ですか。私にとってのペッパー領もきっとそうですね!」
「きっとなんかじゃないさ。例え違っていても俺が幸せにするからな」
「テリー様……私はテリー様と居るだけで幸せですよ」
「なら、もっともっと幸せになろう。俺達2人なら出来るはずさ」
「……はいっ、私も頑張りますっ」
やっぱり、シンディと結婚出来て良かった。
本当にその点だけは感謝しますよ、アンドリュー殿下。
「………………で。どうしていらっしゃるのでしょうか、アンドリュー元殿下」
「二度も言わせるな。お前が紹介した領地だろう。少しはお前も頭を捻れ」
ペッパー領に越してきてからしばらくは平和だった。
いや、勿論ペッパー領について勉強したり、色々と政策を初めてみたりと忙しくはしていた。でもシンディと2人でペッパー領を盛り立てていくのは楽しかった。
だから、すっかり忘れていたのだ。この2人のことを。
「おや、客人でしょうか」
ある日、書類と格闘していると、偶々いた執事が窓の外を見てそう言った。
俺も振り向くと、門のところに馬車が止まっているのが見えた。
「ん? 今日は来客の予定なんてあったか?」
「いいえ、ございませんね。少々確かめて参ります」
「ああ、よろしく頼む」
気にはなったが、書類格闘の方が大事で、書類に向き直って没頭していた。のだが
「たたた、大変ですっ」
「なんだ、騒がしい」
「すみません。ですが、それどころではないのです!」
「緊急か?」
「緊急です。アンドリュー元殿下がお越しになられておりますっ」
「………………は?」
という流れがあり、今俺は応接室でアンドリュー元殿下とキャロル嬢というお騒がせ夫婦と対峙しているのだ。
しかも要件はアンドリュー元殿下が言った通り、領地経営の助言。
何これ、と言いたい。言いたいのだが、腐っても元殿下だ。
「そもそもポニョン子爵様はどうなされたのですか? そちらにご相談するべきでは?」
「引退した。今は俺が子爵だ」
「!?」
確かに殿下が婿入りしてきた以上、爵位を譲るのは理解できる。出来るが、まだアンドリュー元殿下……じゃなかった、ポニョン子爵は領地経営出来ないはずだ。
勿論書類作業が出来ないとか、数字が読めないとかそういうことではない。国の経営と領地の経営は違うのだ。そしてポニョン子爵は国の経営しか習ってこなかったはずだ。いや、知識としては領地の経営も持っているかもしれないけど、知識だけで出来る程甘くない。
「い、引退されていても家にはいらっしゃるでしょう?」
「居るわけないだろう。折角だからと譲ってすぐに夫婦で旅行に出かけたからな」
マジかよ……。
領地を立て直そうと頑張っていた人格者だったはずじゃないのか? いや、この俺様なポニョン子爵が自信満々に出来ると言い張り、追い出した可能性の方が高いか。
って、それで俺達に泣きついてくるなら何の意味もねえじゃねえか!!
マジでなんなの?
お前ら、シンディを一方的に捨てただろ?
なのに何で今更俺達に絡んで来るの?
俺達は俺達で幸せに暮らしてるの!
そっちも王にならずに済んで幸せなんだろ?
勝手に幸せになってればいいじゃねえか!
しかもこれ、どう考えても今後も絡んでくる気満々だ。
くそっ、マジウゼえ……。
尚、その後俺達の心境とは裏腹に、本当にポニョン子爵夫妻は俺達に絡み続け、周りからは非常に仲良しだと勘違いされるのだった。
そして更にその噂を聞いたポニョン子爵夫婦が遠慮なくやってきて、なし崩し的に俺達は俺様なポニョン子爵に振り回されることになる。
本当に、心から、マジでウザい。
テンプレばかり書くのはいい加減やめなきゃな……と思ってはいるけれど、筆が乗ってしまうのです。
まあ、書いてしまったものは仕方がないので投稿します。暇つぶしになれば幸いです。