突然のプロポーズ
※注意事項※
この物語は“ざまぁなし”です。
ざまぁ系、復讐系、勧善懲悪系をお求めの方は御覧にならないようお願い申し上げます。
「好きです。私と結婚して下さい」
先程までの何とも言えない嫌な空気から一変、目の前で行われる恋愛劇に一部の人が歓声を上げるのが聞こえた。
俺だってこれを外から見ていたのなら、嬉々として野次馬に励んだことだろう。
だがそんなことは出来ない。
何せここで公開プロポーズをしたのは誰であろう俺なのだから。
俺はテリー・ペッパー。
ペッパー侯爵家の次男だ。
我が家は嫡男である兄が継ぐことになっているが、俺も俺で領地の代行官をすることで兄を支えることも既に決まっている。
だから当然それなりの家の令嬢を迎え入れる為の婚約をしなければならないのだが、卒業までは好きにさせて欲しいとお願いをしてフリーで居る。
こんなことをすれば売れ残り令嬢と婚姻する羽目になるかもしれないのにと思われるかもしれない。
けど、俺には前世の記憶がある。
そしてここが乙女ゲームの世界だと知っている。
と言うことはだ。
素晴らしいご令嬢がフリーになる可能性があると言うことなのだ。
これを逃すバカは居ない。
俺は学園に入ってから注意深くメインキャラ達を観察した。
メインキャラ達の性格や関係性にゲームとの違いはなかった。
本当にゲームからそのまま出てきたみたいな人達で、オタク心が疼いてしまったくらいだ。
そうしているうちにヒロインが編入してきた。
よくある私生児で貴族家に引き取られたというやつだ。
そこら辺はどうでも良い。
俺が気にしているのは本当にゲーム通りにストーリーが進むかだ。
俺は正直言ってゲームの内容は良く覚えていない。
何せ絵師さん目的でゲームをしていたのだから。
でも全てのスチルをゲットする為にそれなりにやり込んだ。
お陰様でどのルートがどう動くかくらいは朧気に覚えている。
だからヒロインがどのルートに進もうとしていて、どれくらいの攻略度なのかは把握することが出来た。
ああ、勿論俺はヒロインを邪魔する気は全くない。
ライバルとなるご令嬢達も処刑されるとか国外追放になるとかそんな物騒な結末にもならないのだから、手を出す必要もないだろう。
まあ、ヒロインがきちんと勝ち取った立場に相応しい態度を取らないような人なら考えなくもないけど、ゲーム通り努力家で良い子ちゃんのようなので放っておくことにしたのだ。
そういうわけで俺は存分にモブとしてリアルで繰り広げられる恋愛模様を観察させてもらった。
絵としては非常に見ごたえのあるシーンばかりで精神的に充実した日々を過ごさせてもらうことが出来、感謝感激だ。
本当に御馳走様でした。
そうして今日、俺はラストシーンとなる卒業パーティーでの婚約破棄をいつも通り観察させて貰ったのだ。
が、ここでライバル令嬢をただで退出させるわけにはいかない。
ゲーム観察は楽しかったが、俺の本懐はお嫁さんを確保することだ。
だから、気丈にも「失礼します」とピンと背中を伸ばして立ち去ろうとしたご令嬢の前に進み出て、胸に挿していた一輪の花を差し出しつつ、跪いて公開プロポーズをしたのだ。
***
私の名はシンディ・パレット。
アンドリュー・クランストン第一王子殿下の婚約者でした。
幼い頃から婚約者として努力して参りましたが、学園に途中編入してきたキャロル・ノックス男爵令嬢とアンドリュー殿下が徐々に御心を通わすようになりました。
王族ですから妾としてお召上げになられるのだと思っておりましたが、アンドリュー殿下はどうやら本気でキャロル様を思っていらっしゃったようです。
本日、学園を卒業するこの日に私ではアンドリュー殿下の御心を癒すことが出来ないことを理由に婚約を破棄することを宣言されました。
正直とても悲しかったです。
私は今まで何の為に頑張ってきたのでしょうか。
泣きたくなりながらも、私は曲がりなりにも侯爵家の娘だと前を向いてその場を立ち去ることにしました。
しかし、
「好きです。私と結婚して下さい」
立ち去る私の前に跪いて一輪の花を差し出されるなど、思ってもみませんでした。
彼がどなたなのかは存じております。
しかし、このような想いを抱かれていたとは思ってもみませんでした。
「テリー様……」
「今すぐにご返答頂かなくて構いません。ですが婚約がなくなりご自由になられた今なら私が申し込んでも失礼にはならないでしょう。是非ご検討下さいませ」
花を握らされ、そして立ち上がって馬車のところまでエスコートをして下さいました。
別れ際には
「後程パレット侯爵様に申し込みさせて頂きます」
とおっしゃって下さいました。
どうやら本気でお申し込みして下さったようです。
まさか今夜、殿下に婚約破棄をされ、そしてその直後に婚約をお申し込みされるなど思ってもみませんでした。
とても濃い一夜で、頭も心もぐるぐるしています。
けれど一つだけ言えるのは、そんなに悪い気分ではないということでしょうか。
短編にしては長くなってしまったことと、連載を投稿してみたいという欲望が合わさり、連載形式での投稿にしました。
全6話なので、やっぱり短編でも良かったかもとは思っています。