転校生 1
次の日、俺は学校へ急いで向かった。
なんとなく、そこに行けば彼女に会えるような気がしたから。
でも彼女はいなかった。
当たり前だ。
担任からは転校生の話を聞いてないし、もちろん友人達も話してない。
そりゃそうか、すぐに転校生が来るとは限らないのか。
俺は彼女が転校してくるのが待ち遠しかった。
次の日も、その次の日も、俺は転校生が来るという連絡を待った。
彼女と出会って別れてから2週間が過ぎた頃、俺は彼女が言ったことが嘘だったのかもしれないと少し思うようになっていた。
またどうせいつも通りの朝のHRが始まるのだろうと頬杖をつきながら先生の話を聞いていた。
今か今かと期待をするのは少し疲れた…そう思って先生の話を聞き流していると急にクラスが騒がしくなった。
なんだと思って話に集中すれば「転校生」というワードが聞こえた。
それも女子。
来週から転校してくるらしい。
そして、席は俺の隣になるという。
俺は驚いた。
驚きすぎて変な声が出そうになった。
転校生!?と叫びそうになった。
でもグッと堪えた。
クラスが騒がしくなっている中、俺は冷静になるように努め、状況を整理しようと考えを巡らせる。
(本当に彼女なのか…?あれから2週間…確かに、もうすぐという言葉も当てはまる。俺としてはもっと短いと思ったが…それに、俺の隣の席か。まぁ確かに俺以外はみんな隣いるしな。ってことは彼女が言ったことが当たってることになる。つまりは…)
そう考えていると前から声をかけられる。
「ねぇねぇ!転校生だって!!女子っていうし楽しみだなぁ!!可愛い子だといいなぁ!いや、でも綺麗系でもあり!!ん〜どっちだろ!?ねぇ!!どっちだと思う!?ってか千尋の隣でしょ!?ぼっち卒業だっ!おめでとっ!!」
そう言って元気よく俺に声をかけてくるのはよく一緒にいる翔だ。
ブラウンのクセのある髪に色素の薄い茶色い目。
童顔な彼は、その顔と性格とが相まってより幼く可愛く見える。
「別にぼっちじゃないでしょ。それに可愛いとか綺麗とか決めつけちゃったら転校生に失礼だと思うよ〜」
俺は彼女の顔を思い浮かべながらそんなこと言う。
「そっか!ごめんごめん!気をつける〜!あ〜でも楽しみだなぁ!僕仲良くなれるかなぁ!?」
翔は良いやつだ。
悪かったと思えばちゃんと謝る。
でも、なかなか治らないけどな。
そう思い苦笑しながらも「翔だったら誰とでも仲良くなれるよ。俺も仲良くなりたいな〜」と答える。
「えっ!!!珍しいね…千尋が女子と仲良くなりたいって言うの」
心底驚いたという顔でそんなことを言われ、俺はしまったと顔を顰める。
俺には特に仲のいい女子はいない。
クラスにも、学校内にも。
小学生、中学生の頃にはいたにはいたが、仲良くなった子は皆何故か告白してきた。
俺はその子たちに恋愛感情はなかったから毎回断っていたが、泣かせてしまうのが辛かった。
仲良くなると毎回期待させてしまうようで、その事に疲れた俺は自ら女子と仲良くなろうとはしなかった。
そんな俺が仲良くなりたいと言ったのは皆予想外だったようで、クラスにまた別の騒ぎができた。