そして始まり
いつもと同じ放課後。
いつものように友達とふざけて帰る帰り道。
普段と変わらない日常。
そうなると思っていた。
あの子と出会うまでは…
「千尋ー!帰ろーぜー!」
いつものように雄也が声をかけてくる。
隣には翔がいて、いつも3人で一緒に途中まで帰る。
「ちょっと待って」と返事をしてスクバを手に取りドアの前で待ってる友達の元へ走る。
「よし、帰ろう」そう言って廊下に出れば女子からの挨拶。
「千尋くん、またね〜」
「あぁ、またね」そう言って返す。
「さっすがモテる男は違いますねぇ〜」
「俺も女子達にバイバーイって言われてぇ」
「からかうなよ、お前らも声かけられてるだろ」
「ははっ、まーな。」
「まぁねぇ〜」
今日もいつもと同じように友達とじゃれあって帰る。
分かれ際、「またね」と友達に挨拶して1人歩き出す。
「あのっ」いきなり後から声が聞こえた。
(ん?俺?)
振り向かないのも失礼だと思い後ろを見る。
「俺ですか?」
「はいっ…」
声をかけてきたのは長い髪をなびかせた俺より少し年上の女の人だった。
(誰だろ?どっかで会った?てか泣きそうな顔してる…どうしたんだろ)
そんなことを考えていると、彼女は意を決したような力強い眼差しでこちらを見た。
「あの、私、将来あなたの恋人になるんです!」
「は?」
突然のことに驚き、素っ頓狂な声を上げてしまった。
眉間にしわが寄り、何言ってんだこいつという顔をしてしまう。
(何を…言ってんの?頭おかしいのか?…でも、ふざけてるようにも聞こえない…なんなんだ?)
そう思って見つめていると、彼女は焦ったような表情で説明を始めた。
何を言っているのかよくわからなかったが、彼女が嘘をついているようには見えなかった。
だから、彼女のお願いを了承した。
それで彼女を救えるのなら…と。
でも、次に見せた彼女の笑顔で俺の考えは変わった。
とても綺麗に嬉しそうに笑うその顔に一目で恋に落ちた。
もし、もし本当に彼女の言ってることが正しいのなら彼女を助けたいと思った。
関わらないなんてできるはずがない。俺が絶対助けてやる。
そう思って彼女の名前やいつどこで死ぬのかを聞いた。
でもその声は届かなかったみたいで、彼女はどんどん透けていく…
彼女の口が感謝と別れを告げそのまま消えていく。
後に残ったのは残酷なまでに朱色に染まった夕焼けの空だった。
わかったことは少ない…
でも、絶対に助けてみせる。
それが彼女の死んだ世界での俺の望みでもある気がしたから。
きっと、彼女が死んだ世界での俺は彼女を本気で愛していただろう。
助けられなかったことを、その時そばにいなかったことを悔やんでいるだろう。
何故かはわからないが確信できた。
だから…必ず…!
そう心に誓い、とりあえず俺は家路を急いだ。
彼女が言ったことを忘れないようにスマホにメモをとりながら。