始まりの始まり
目を開けるとそこは見慣れた景色。
(あれ?なんでここに…?)
そう、ここは初めて千尋に出会った街。
千尋と過ごした街だ。
(どうして?さっきまでお葬式だったのに)
身体は軽く、物には触れない。
私は幽霊のままだ。
だけど、なんだろうこの違和感。
よく知っている街なのに何かが違う。
「このお店…確か潰れて違うお店に変わったはずじゃ…」
あれも、あのお店もそうだ!
同じお店だけど何か新しい…
「もしかして…!」
(本当に時間が巻き戻った、の?)
人には姿が見えず話せないから、近くのコンビニで新聞を見て年月を確かめる。
「今は…3年前の5月7日!?……やっぱり…時間が戻ってる」
3年前の5月7日ってことは千尋と出会う少し前。
千尋の17歳の誕生日の3日後だ。
(あぁ、神様…ありがとう…時間を戻してくれて)
ぽつりと頬を暖かい何かが流れ落ちた。
(急いで千尋を探さなきゃ!)
なんとなくわかる。
今の私にはそんなに時間が残されていない。
「今だと…千尋は高校生だよね。」
時間を確認すると午後の4時をまわっていた。
「ちょうど学校帰りか…急いでいけば帰宅途中の千尋に会える。」
急いでコンビニを出て高校へ向かう。
(どこ?千尋はどこ??)
千尋の通りそうな道を片っ端から探し回る。
「あっ!」
見つけた。
今よりも少し幼く、制服に身を包んだ高校生の千尋の姿。
(相変わらずかっこいいなぁ)
(どうしよう…友達といるみたいだし…もうちょっと様子見しようかな)
「じゃーなー!」
「バイバーイ」
「またね」
そう言って千尋は友人達と別れた。
(今だ!!)
聞こえるかどうかはわからない。
見えるかどうかもわからない。
一か八かだ。
「あのっ!!」
後から声をかけたせいか驚いた様子で振り返る千尋…
(あぁ、声が届いた…やっと見てもらえた…)
嬉しさのあまり涙がこぼれそうになる。
不審がった様子で「俺ですか?」と尋ねてくる。
涙をこらえ「はいっ…」と答える。
(時間がない…残された時間は数分もないだろう。何故かわかる。不審がられてもしょうがない。早く要件だけは伝えないと…!)
「あの、私、将来あなたの恋人になるんです!」
「は?」
眉間にしわを寄せ、何言ってんだこいつというような顔をされる。
(あぁーーー!!何言ってんの私!?もっと言い方ってものがあったでしょ…!!!)
「おかしなことを言ってるってことは分かってます!信じなくてもいいので話だけは聞いてください」
「私、もうすぐあなたの高校に転校してくるんです。同じクラスになって席は隣。それから色々あって3年になって付き合って…同じ大学に行って…そして…」
「今から3年後、あなたのいない所で私は事故にあって死ぬんです。あなたを悲しませて、それが辛くて…心残りで…だから!…だから、私が転校してきても関わりを持たないでください。私がなんて言おうとも、何かあっても関わらないでください」
「お願いします」頭を下げて懇願する。
自分で言ってても思う、本当に頭がおかしな人だと…
「えっと…とりあえずわかりました」
困惑した様子で了承してくれた姿にホッと安堵する。
おかしな人でもいい。
これで千尋を悲しませなくて済むのなら。
寧ろ良かったのかもしれない。
こんな変な人とは千尋も関わりたくないだろう。
そう思うと自然と笑みがこぼれる。
「よかった…ありがとう」
そう笑顔で言うと、彼は目を見開き驚いた顔をした。
頬が赤く染まったような気がしたが、きっとそれは気の所為。夕日に照らされてそう見えただけ。
時間がきた。
千尋が何か言っているようだけどもう聞こえない…
身体はどんどん薄れ、意識も薄れていく。
最後に、「ありがとう」と言葉にはならなかったが口を動かす。
今までの感謝を伝え、精一杯の笑みで別れを告げる。
「さようなら」と…
涙が1粒こぼれ、目が霞む。
これで本当にお別れだ。