彼女への小さな恩返し
「ちゃんと行ってきましたよナンパ、結果から言うと連絡先をゲットして来ました」
そういうと彼女は、ぱっと目を開き驚いた声で話す
「えっ!それってお付き合い始めたってことですか?」
「交換しただけだよ、というかそんなに驚く?どんだけ可能性がないと思われてたんだよ、俺」
「いえっそういうわけではないのですが、そのぉー...連絡先を教えていただいた方とお付き合いするんですか?」
「俺から声をかけといて申し訳ないですが、その人とは付き合いません。俺にはやらないといけないことがありますから」
そういうと何故か彼女は少しうれしそうな表情をしていた。
俺は彼女に恩があるから彼女との約束の方が大切だ、自分のことはすべて後回しにするに決まってる。
彼女は少し咳ばらいをして
「では、秋夜君のナンパのお話を聞かせてください」
俺は、海であったことを身振り手振りですべて話した。話してる際、彼女はずっとくすくす笑って聞いてくれていた。
話を終え彼女に感想を問う
「どうでしたか?これが俺の、というか俺の友達のナンパの話です」
彼女は大きく息を吸い満足げに
「はい、とても面白かったです、ありがとうございます」
と笑顔で答えてくれた。
「秋夜君のお友達はとても楽しい人なんですね、お話を聞いているだけでも楽しい人なんだって伝わります」
「まぁあいつは、ノリだけで生きてるような奴だけどな、でも頼りになるいいやつだよ」
「良いお友達が居てうらやましいです」
「あいつのことは置いといてさ、有希さんのやりたかったことは他にどんなのが有るんだい?」
「そうですね、やりたいことはまだたくさんありますので構えててくださいね」
「では、次にお願いすることは、そうですねぇ...うーん」
人差し指を顎に当てながら考えるように唸り始めた。
「たくさん有るんじゃないんかい!」
「いやいやたくさんありますから、では、お墓参りへ行ってください」
「え...お墓参りって有希のお墓ですか?それとも...」
彼女は小さく頷き、俺の目を見つめながら話し始めたが、俺は反射的に目をそらしてしまう。
「秋夜君、お願いします。ちゃんと行ってきてください秋夜君の為にも、あとついでに私のお墓参りをお願いします」
「有希さんのお墓参りだけではダメですか?自分のことはまだ」
目を合わせようとしない俺に、顔を近づけ話し続ける。
「ダメです、ちゃんと弟さんのお墓参りに行って弟さんに話してきてください」
彼女はずっと俺の目を見つめる、きっと俺が折れない限り彼女は諦めないんだろうな、彼女の瞳からそんな意志を感じる
「分かったよ、有希のお願いだしそれに俺の気持ちにケリをつける為にも、家族の墓参りに行ってきます」
そういうと、彼女は笑顔になり話す
「よろしい、ちゃんと私のお墓参りもお願いします、あっお供え物におはぎお願いします。大好物なんです」
「おはぎ好きなんてなんかおばあちゃんみたいですね、分かりました大量に買っていきますよ、有希は自分のお墓がある場所は分かっているの?」
「たぶん、私のお墓がある所はたぶんあそこだと思いますのでお願いしますね」 でも、おばあちゃんみたいって、私はおばあちゃんっ子ってだけですし
何か小さく話していたが、聞き取れなかったためあえて話題にしないようにした。
「それじゃ家族と有希の墓参りに行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
俺はまたベンチで目を瞑り風や揺れる葉の音に耳をすませ、意識が遠のいていく。
自分の部屋で目がさめる、目を擦りながら俺は早速スマホで有希から聞いた住所を調べる、そこは一つ隣の県にあるお寺だった。
そういえば優もそこの県の学校から転校してきたとか言っていたな、少しは分かるかもしれないしあいつも連れていくか。
その前に、有希に言われた通りにまず、家族の墓参りに行かないといけないよな。
失ってから、一度しか行っていない家族が眠っている場所、そこに行くと独りぼっちなのを改めて自覚させられるから俺はずっとそこを避けていた、
だけど、夢で出会った彼女のおかげで今ならその現実に立ち向かうことが出来るのかもしれない。
最寄りの駅から、電車で30分そこから徒歩で12分俺は家族が眠る場所へ足を運んだ、移動中はずっと何も考えないようにしていた、少しでも考えてしまうとそこへ向かうことから逃げてしまいたくなるからだ。
両親の名前が彫ってある墓石へゆっくりと向かう、一歩、一歩と踏みしめるたびに息が苦しくなってくる、心臓を握られているようだ、今すぐでも逃げ出したい、そんな気持ちを押し込めて前へ歩みを進める。
気が付くと俺は、両親と弟が眠っている墓石の前へ立っていた、あれから何年も来ていないのに墓石には汚れが少なく小綺麗であった、きっと叔父さんと叔母さんが墓参りの時に掃除などもしていたのであろう。
俺は、家から持ってきた線香に火をつけ墓石の前へ置く。
「父さん母さん、夏輝、久しぶり、今まで来れなくてごめんな、ほんとはもっと早くここへ会いに来ないといけなかったんだよな、でもさ頭の中では分かっていたんだ、もう家族には会えないと、けどさ、
それを心のどこかで受け入れることが出来なかったんだと思う。でも、今は大丈夫なんだ、ある人から自分の悲しみに立ち向かう力をもらったんだ、そして一人で耐えれないときは一緒に耐えてくれる奴にも出会えたんだ。
だからさもう安心してくれ、俺はこれから前に進んで頑張っていくからさ、だからさ...」
暖かい風がそっと頭を撫でる。小さい頃よく母が撫ででくれた様だった。
その瞬間心が軽くなり暖かくなているように感じた。
眺めに手を合わせ墓石を後にする。
来た時と同じ道を通り帰る、来た時と違い心はすっきりしていた。
帰り駅のホームで、スマホを取り優に電話をかける。
「はい、こちら優希の電話でございまーす」
いつものように電話に出る優希、今回ばかりはこのテンションに救われる。
「優、お前ってさ〇〇県から引っ越してきたんだよな?」
「あぁ、そうだけどどうしたんだ?なんかあったのか?」
「ちょっとさ行きたい所があるんだけど、付き合ってもらっていいか?」
「あぁ、いいぜ、どこまでもお供致しましょう。で、どこなんだい?」
「N市にある〇〇寺っていう所なんだけど、代わりに墓参りをしてきてくれって言われてさ、前話した夢に出てくる子だよ」
優に彼女が眠っているであろうお寺の住所を伝えると、優は先程と変わってくらいトーンで
「えっ...まさか、んなわけないよな」何か小声で話し始めた。
「おい、優なんかあったか?」
「すまねぇ秋夜、何でもない俺の考えすぎだと思うから気にすんな、いいぜ、了解した」
「優、早速だけど駅に集合してくれ」
「分かったぜ、すぐ向かうよ」
20分後、優と合流し彼女のお墓があるお寺へ向かう。やはり隣の県だけに遠い、電車を何回も乗り継ぎをし最寄りの駅に着いた、優いわくそこから結構目的のお寺までまだ長いらしい、俺たちはタクシーで向かうことにした。
車に揺られ、30分やっと彼女が眠っているであろうお寺に着いた。
タクシーを降りるなり優が話をかけてきた。
「目的地に着きましたけど、秋夜はその夢の美少女に頼まれた墓参りをしに来たんだろ?」
「そうだけど、なんだよ探さないといけないんだから手伝ってくれよ」
「いいけど、名前を教えてもらわないと探すに探せねぇーよ」
「そういえば、名前を言ってなかったっけ、目的の墓は彼女のなんだ、彼女が言うにはトラックとの交通事故で無くなってしまって、その墓参りをするように頼まれたんだよ、
そして彼女の名前は有希っていうんだ、苗字は聞いてないから分からないけど、聞いてこればよかったわそういえば」
俺が話し終わっても反応がない為聞いてんのか聞こうとして優のほうへ顔を向けると、優は目を大きく開き何かつぶやいていた。
「おい、秋夜それは何かの冗談だよな、その名前は誰から聞いた?」
突然大声で俺に問いただす。
「冗談のわけあるか、俺は有希にこの寺の住所を聞いて自分の墓参りをしてきてくれって頼まれたんだよ、いきなりどうしたんだよお前、大声なんて出してらしくないぞ」
「わりぃ、お前からその名前が出てくるなんて思っていなくてさ、最初ここの寺の名前が出た時驚いたんだ、それで余計取り乱しちまった」
優が何を言っているのか全く分からなかった。勝手に分かり勝手に話を進んでいく。
「優、言っている意味が分かんねぇ、分かるように説明してくれ」
「すまん、お前が探している有希って子の墓はここにはない」
「それはどうゆうことだ?というかなんで優がそれを分かんだよ」
優はゆっくりと俺が聞き逃さないように、はっきり話した。
「まず有希は俺の双子の妹だ、そして有希はまだ死んでいない」
優はそう告げた。
読んでいただきありがとうございます。
なかなか続きを書く時間が取れずに遅れてしまいました。
何があっても完結まで行きますので、気長にお待ちください。