彼の晴れぬ暗い空
寒さで目が覚める、辺りはもう暗くなっていた。
エアコンの掛けすぎで喉がカラカラに乾いていため、ソファーから立ち上がり、冷蔵庫の扉を開ける、中には食材などの物はなくスーパーで買ってきた水だけが入っている。
その水を掴み蓋を開け喉を潤す。
「そっか、さっきまでのは夢だったのか、だとしてもやたらハッキリ記憶に残ってるな」
蓋を閉め水を戻す。
そして、夢の出来事を思い出す。公園で彼女と会い、話をした。ほんとに体験したように鮮明に内容が頭に残っている。こんな事もあるんだな、などと考えていると、ぐーっと腹が鳴る、飯でも食いに行くかな。
優のやつでも誘うか。携帯を取り出し優希にかけるプルルっとコールが3回なりやっと出た。
「はいっ愛しの優希です、なんですか? 寂しくなっちゃいましたか?」
通話を切る、直後に携帯が震え音が鳴りだす。ため息をひとつ入れ電話に出る。
「もしもし」
「なんで切るんだよ!酷くないか? 一瞬泣きそうになったわ」
「そんなアホなことをしてるからだろ、それはいい、これから飯食いに行かないか?」
「あぁ、良いぞ、じゃぁいつものファミレスでいいか?」
「分かった、早く来いよ。」
電話を切り、出かける支度をして家を出る。数分歩くとファミレスが見えてくる、そこは24時間営業だけあって、いつでも行けるので重宝している。
軽く店内を見るが、まだ優希は着いてないようだ。
先入って、くつろぎながら待つか、店内に入り連れが1人遅れてくる事を店員に告げる、店員は聞いているのか分からない反応をして席を案内を始める、席に着きドリンクバーとパスタを頼み待つ。
料理が届くと同時に優希が入ってきて謝る動作をしながら近づいてくる。
「いゃぁーすまんすまん、遅くなって」
「良いよ別に、突然誘ったのは俺の方だしさ」
「気にすんなって良いってことよ、で、どうした?急に、あっすみません!ドリンクバーとこいつと同じやつお願いします。スマン飲み物取ってきていいか? 喉がカラカラで」
そう告げると駆け足てドリンクコーナーに行ってしまった。
落ち着きがないのは、相変わらずだよな本当、行ってしまったのはしょうがない、パスタでも食べてるか。
そうしている間に、優希が戻ってきた。持ってきた飲み物を一気に飲み話し始める
「よし、お待たせ本題に入ろうか。どうした、俺が居なくて寂しくなったのか?」
「なんでお前はそっちに持っていこうとすんだよ! ちげーよ、ちょっと聞きたいことがあってさ、優ってさ見た夢とか結構覚えてる方か?」
「ん?なんだその質問、エロい夢でも見たのか? そうだな、覚えてる時は結構あるぜ、昨日だって両手にバーガーを持ったドナルに追いかけられた夢を見たしな、いや、カーネルかな、曖昧になってきたわ」
「覚えてないじゃねーか!まぁいい、俺さっき夢見てたんだけど、実際に体験したような、凄く現実みたいな夢を見たんだよ、今までこんなにはっきり覚えている夢は初めてでさ」
「なるほど、その興奮のあまりに俺と話したくなったと。」
「その通りだな、ただし興奮はしてねーけどな」
「秋夜が興奮して忘れなくなるほどの夢ってどんな内容だったんだい?」
夢で起こった出来事を最初から全て優希に話した。
「へぇー、で、その子は可愛かったのか?」
「その質問関係あるか?」
こいつは、何を考えてんだ?呆れて話す気すらなくなるわ。一旦無視してパスタ食うか
優希は自分が無視されていることに気づき、俺に向かって声をかけたり手を振ったりしている。
「何となく聞きたくなっただけだから、無視しないでくれ! 悪かったって、真面目な質問するから」
「真面目な質問とやらを言ってもらおうか? また変な質問したら飯おごれよ」
「その、夢で見た子って実際に見た事とか有ったのか? どこかですれ違ったとかさ」
彼女をどこかで見た事が有るか、記憶を遡り思い出してみる。やっぱり分からない、たとえすれ違った事があったとしてその人の顔を覚えているかって、無理だろ、完全記憶能力とかあれば違うだろうけど、そんなのファンタジーでしかないだろうし。
「いや、見たことはないと思う、なんでこんなこと聞いてきたんだ?」
「この前テレビでさ、寝てる時に見る夢は、その日に起こった出来事を脳が整理する時に見るってテレビで言っててさ、どこかで見てたのかと思ってな」
「なるほど、気づかないだけで何処かで見たのかもな、ありがとな、変な話の相手をしてくれて」
「良いんだよ、いつでも呼んでくれ、すぐ向かうから」
俺は、優と別れ先に店を出る。外に出ると太陽は完全に沈み月が登っていた、まだ蒸し暑いが昼間に比べるとだいぶマシに感じる。
店の外から優を少し見た、一人でいるあいつは、少し暗い表情をしていた。何かあいつにもあったのだろうか。今度飯食う時は、おごってやるか。
家に着き、部屋の明かりをつけエアコンのスイッチを入れる。
テレビをつけるとニュースがやっていた、内容は通り魔の逮捕、交通事故など暗い話ばっかりでこっちまで暗くなってしまう。
時計を見ると時刻は23時を回っていた。
「風呂入っとくか」
着替えとともに脱衣所に向かい、服を脱ぎ浴室に入る。シャワーをさっと浴びて浴槽に浸かり一つため息、なんでだろうな風呂に入ると必ずため息が出る。
風呂から上がり、いつもの日課を行う。日課といってもそんな大層なものではない。仏壇に線香をあげ今日の起こったことを話すだけだ。
仏壇の前に座り、写真を眺める。写真には三人の人物が笑顔で写っている、俺の両親と弟だ。そう、今の俺には家族がいない、あれは三年前の話だ、俺が部活の合宿で家を空けているときの出来事。
宿舎の食堂で朝食を食べながら、テレビを見ていたら、「緊急速報が入りました。〇〇住宅地で一家惨殺事件が起こりました。犯人は事件直後に通りかかった警察に逮捕されたとのことです。
犯人の供述によると金品目的の強盗との事で、被害者の男性、女性、小学3年生の男の子は病院で死亡が確認されました。」
テレビでは、他にも話していたが俺の耳には何も入ってこなかった、ただ被害者の所に、俺の父、母親、弟の名前が載っていた。その直後強い吐き気に襲われ、その場に倒れこみ気を失った。
気が付くと病院のベットで寝ていた、ベットから起き上がると、叔父叔母が近くに座っていて。俺が目を覚ましたことに気づき、叔父が近寄ってきた。
「秋夜君、大丈夫かい?その…。大丈夫なわけないよな…すまない」
そう言うと、部屋から出て行ってしまった。
「秋夜君、お葬式の準備とか分からないでしょう?だから、そうゆう事は叔母さんたちで、やっておくから今は休んでて」
叔母さんも部屋を後にした。その日俺は、何も考えられなくてベットで寝たまま天井を眺めていた。次の日には、退院して家へ帰ることができた。退院する時叔父が迎えに行くと言ったが、怪我をしていわけでもないので遠慮して歩いて帰った。
家に着き玄関を開け入る、家の中は恐怖が襲ってくるように感じる程、静寂に包まれていた。
自分の部屋に入り、ベットに寝転がり、病院にいた時と同じように天井をただ見つめる。このままいたら母親がご飯だと呼びに来るのでは、弟が遊んでとせがみに来るのではないかと感じたからだ。
スマホの呼び出し音で気が付く、太陽が沈み部屋の中が暗くなっていた。スマホの画面を見ると叔父からであった。
「秋夜君か、ご飯でも食べに行かないか?おなかすいただろ?これから迎えに行くから用意をしておいてくれ」
その間、俺は一言も話さずに電話を切る、そしてまたベットに横になる。20分くらいで車の音がして、スマホが震える。
それを合図に、玄関に向かい外に出る。叔父が出てきたことに気づき優しい笑顔を向ける。車に乗り走り出す。
「秋夜君何か食べたいものがあったりするか?なんでもいいぞ」
何も話さない俺に、気まずそうに話しかけ続ける。
「近場のほうがいいよね、そこのファミレスにしようか」
ファミレスに付き、叔父はいろいろ注文して、俺は来たものを黙って食べていた。
「秋夜君、明日お父さんお母さん、弟君の葬式があるから出てきてね」
料理を食べ終わり、家に送ってもらい家に帰る。
次の日、式場に向かい葬式に参加した。葬式では親戚の人が大勢来ていた、葬式が始まった坊さんがお経を唱えている、その先には大量の花と真ん中に家族の写真が置かれている、俺はそれをずっと眺めていた。
しばらくしてふと手が濡れていることに気が付く、それは俺の頬から落ちた涙だった、自分が泣いていることに気が付いた瞬間、家族との思い出が蓋をした箱から一気にあふれ出てくるように思い出す。と同時にもう会えないというのを目の前の写真が残酷に告げる。
その時、俺は今まで抑えてたものがなくなったかの様に泣いた。周りなんて気にすることが出来ないくらい大きな声で泣いた。
読んでいただきありがとうございます。
死を目の前にすると自分の無力さを感じます。
小さいとき、自分のペットが病気にかかり、最後の日、体をずっと撫でていいたのですが、
撫でている体が少しずつ動かなくなっていくのを感じ、冷たくなっていく。
撫でながらずっと泣いていたのを覚えてます。