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プロローグ

ファンタジー要素皆無の物語です。

面白いかどうかは分かりませんが、取り敢えず描いたので投稿します。

「おはよー! 順爺(じゅんじい)ーいるー?」


 (さとる)は玄関先で目的の人物の名を叫んだ。

 彼は、小学三年生の男の子だ。

 家族構成は父と母を含めた三人家族で、最近は、この歳の離れたら友人の家に入り浸っており、母親から少し遊び過ぎだと睨まれている。

 母親は彼がどこに遊びに行っているかは知らないが、もし知られればおそらく彼はここに来ることを禁じられてしまうだろう。


 何せ順爺は、この辺りでは有名な『偏屈爺さん』と呼ばれる存在だ。

 結婚もせず、何の仕事をしているかも分からない老人を薄気味悪く思う人間も多く、悟も親に同じようなことを聞かされていた為、ここ最近まで、順爺との接触を避けていたのだが……。


「うるさいぞ……! 聞こえておるわ……!」


 順爺は家の奥から玄関先へと、のそのそと歩き、悟を出迎えた。

 まあ、出迎えといっても表面上は歓迎してない(テイ)ではあるが……。


「今日も順爺の冒険の話を見せてもらって良い?!」


 悟の大きな声に順爺は顔を歪めた。


「そんなに大声出さんでも聞こえると言っておろうが……! どうせ駄目だといっても素直に帰るお主じゃあるまいよ」


 溜め息を吐きながら順爺は家の奥へと戻っていく。

 彼は全く素直ではない。決して自分から入っていいとは言わないのだから。


「さっすが順爺! 俺のこと分かってるね!」


 悟もそれを知っているのか、遠慮はない。

 靴を散乱させ、ドタドタと音を立てながら、家の中に侵入していく。

 そのままの勢いで順爺のいる部屋を目指し、ふすまで仕切られた部屋を、はやる気持ちのままに悟は開放した。


 順爺はふすまの開く音に驚き、音のした方を確認するが、悟の姿が目に入ると全てを悟ったようで、少し顔をしかめさせただけで、すぐに自身の作業へと戻っていく。

 そんな順爺の心の動きに気づくことなく、悟は部屋の中に入り順爺の元へと駆け寄っていく。


「順爺! どれどれ? どれを読んでいいの?」


 スーパーマーケットで親にお菓子をねだる子どものように、その場で駆け足をしながら、順爺を急かす。

 順爺は悟の方を見ることなく、行儀よく並べられた紙束を指差して、しゃがれた声で告げる。


「ほら、そこの下に置いてある紙束が、新しく書いたヤツだ。順番通りに並べてあるから、散らかすんじゃないぞ」

「うん!」


 悟は紙束の置いてある机に供えられたソファーに体をうずめ、楽しそうに紙束の一つに目を通し始めた。

 一方の順爺は、自身の机の上に置かれたキーボードの上で指を躍らせていた。とても高齢者とは思えないほどに指の動きはスムーズだ。


「えっと……この前はどんな話だったっけ? 順爺」

「……クレア姫が敵の親玉ピエールに捕まったところだ」

「ああ、そっか! クレア姫はホントによくさらわれるよね!」

「あいつは世話の焼けるやつだったからな」

「でも順爺が絶対に助けてあげるんだよね?」

「ああ……俺は勇者だったからな」


 順爺は遠い目を虚空に向けて、何かを懐かしんでいる。


「順爺はすごいね。異世界に召喚されて、平和をもたらした後、自分でこの世界に帰ってくる道を探して戻ってくるんだもんなぁ! 僕も異世界召喚されてみたいよ!」


 目を輝かせながら告げる悟を、順爺は鼻で笑った。


「お主みたいな奴があっちに行ったら、一日ともたず殺されるのがオチだ」

「なんだよー! 順爺にできるんだから、俺にもできるに決まってるだろー!」

「はは、ぬかせ。お主みたいなガキは、親元でぬくぬくと過ごしているのがお似合いだ」

「言ったなー! 今日中にこれ全部読んで、順爺が書く速さに追いついてやるんだからなー!」


 悟は手に持った紙束に勢いよく目線を戻し、読書に没頭する。

 順爺もそんな悟を見て、少しだけ口元をゆがませ、再び机に向かっていく。


 お互いこんなに無遠慮な態度をとっているが、悟と順爺に血縁関係などはない。

 かたや、天涯孤独な老人。かたや、特に何の不自由もない少年。


 そんな彼らがこんな不思議な関係になったのは、つい一週間ほど前……長期休暇が始まって少し経った、台風一過のよく晴れた夏の日だった。

お疲れ様です。見ていただきありがとうございました。

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