雪の夢
あれからどのくらい経っただろう。
目の前は真っ白。でも、暖かい。
雪に埋もれたのだろうか。旅が終わったのか。
体が軽い。どこへでも飛んでいけそうだ。
「たかくん、たかくん」
聴き慣れた声がする。そうか、僕は木の上で寝転がっている。
下を見ると人影が。見慣れた顔だ。思い出せないけれど。
「早く降りてきて。もうすぐ陽が沈むよ」
時間が流れている。よく見ると、雪の白い粒子が、互いに触れ合っている。
仲良さそうだな。
僕にもこんな人がいたような……。
「寒いでしょう。早く降りて来なよ」
意外に温かいのです。上にいる方が。あなたの方こそ寒いのでは。
「不思議な雪のお話しをしましょう……」
おや、声が変わった。これは初めてだ。
雪の話だって。時間潰しにちょうどいい。
「昔、というわけでもなく、割と現代の話です。少年は、何の変哲もない人生を送っていました。ええ、結局のところ、人間なんてみんな同じなんです。生まれて死ぬだけ。私もあなたも偉い人もみんな同じ」
どんな話か希望を膨らませていたが、存外に鋭い指摘だ。
「少年は、本当に普通でした。勉強、運動、人間関係、どれも平均。普通の大学を卒業して、普通の会社に就職して、普通の気持ちを抱くんです」
僕の人生をまるで代弁しているようだ。
「そんな少年には一つだけ趣味がありました。個性だと思いますか。神様だって多少の違いは認めます。趣向はその数少ない例でしょう」
なるほど。
「少年の趣味は旅をすること。何故かは分かりませんが、無性に旅がしたくなるそうです。仕事場でも、家に帰っても、暇さえあれば、旅の記録を見返している」
時刻表、写真、切符、日記……。
「ここで、普通の人とは大きな違いが一つ。そう、趣向の違いを認めているわけなので、そのこだわりは、もう天文学的確率の誤差ですよ」
語りては、ここで一呼吸おいた。