赤羽の日常
親父さんとの心温まる出来事の後、親父さんの店を後にしたが最後まで異界の詳しい内情の話は聞けなかった。
さらに、突っ込んで聞くほどヤボじゃない、人生は色々あるのだ。
話したくなる日が来れば話せばいいだけのことである、親父さんは秋夫に自分の目で異界を見て何かを感じて欲しいのだろう。
とりあえず、秋夫は自分のズボンの回収にリサイクルショップに向かった、ここらで何か盗られたらまずはリサイクル屋だ、何でも買います何でも売りますの精神で本当に何でも買うし売る。
たいていは、その店にいけば売られて商品棚に陳列されている、どうでもいい物から非合法の物まで何でも買うのだが。
さすがに非合法な物は別の倉庫にしまい、非合法なお仕事をしている人達に販売するらしいが、秋夫にはどうでもいい話だ。
迷路のような路地をいくつも抜け路上に数台のスロットが見える、俗に言う闇スロとか違法スロットとか言う物だと思うが。
道路上で普通に違法賭博が開催されている、ざわざわして限定じゃんけんどころの話じゃない、そんな通りを抜け。
リサイクル屋に入った秋夫だが商品をくまなく見ていくと、やはりあった。
秋夫のズボンである。
サラリーマン時代に作ったオーダーメイドだ。
ズボンを手に取り購入しようと思ったが、考えてみればズボンのポケットの中に現金を入れたままであり。
ためしにズボンのポケットに手を入れ確認してみたが、やはり現金はない。
当然、ズボンを盗んだ人物が現金を抜いたんだろう。
と言うか、親父さんの店でお代を払い忘れたのだが些細な事は忘れてしまおう、それよりもズボンだ、さてどうしたものか。
「こんちは~どうよ景気は?」
「おっ秋坊じゃねえか、何かスゲー格好してるな」
「へへっ いいだろ銀行員みたいな濃紺な色のスカート」
「おっおう、そうなんか?俺にはよくわからねえが」
このリサイクル屋店主の佐治は、やはり昔からよく知っている顔なじみなのだが。
事情を素直に話してズボンを返してもらうのが上策だろう代金は後で支払うとかでいい気がするし。
「このズボンって俺のなんだけど、金は後で払うから返してもらっていいかな?」
「おおっそうか、さっき外人が売りに来たから買った物だが? てっことは、このパンツも秋坊のか?」
佐治が指さす棚を秋夫が見ると、人気男性アイドルのブロマイド写真と一緒にしてあり。
いかにも人気アイドルの使用済みたいないな、感じで売られていた。
「そうだよ佐治さん! これも外人に売られたのか?」
「そいつは、俺が拾って売り場にならべた」
イラッときたので、とりあえず佐治を殴っておいたが。
知人が道端で意識を失ってるのに人のパンツを拾い売り場に並べる人間性は、さすがに友人になりたいタイプではない。
秋夫は勝手にパンツとズボンをはくと、佐治が恨みがましい目で料金を請求してきたので、もう一度殴っておいた。
「それじゃ俺は行くぞ!そのスカート一式は親父さんに返しておけよ」
「へいへい毎度ね~」
「親父さんの服を売り物にしたら、光子姐さんの寝室に放り込むからな」
佐治はやや青い顔をしながらウンウンとうなずいていた。
親父さんの息子と言うか娘とも違う光子姐さんの寝室に放り込まれたら大事である。
捕食されたあげく結婚届に名前と印鑑を押すまで出てこれないだろう、もっとも結婚届は役所に受理はしてもらえないのだが。
やっとの思いでズボンを取り返し心機一転、異界に向かっているのだが。
ここまでの道のり本当に長かった気がする、ズボンの裾を見ると値札が付いてたので引きちぎると値段にあった金額は200円だった。
オーダーメイドのスーツのズボンが200円とか価格設定がおかしく感じる。
佐治はどんだけいいかげんな商売をしているのだろう。
親父さんの説明にあった異界への入口の袋小路に来てみると不法投棄されたゴミだらけだ。
ゴミをかき分け先に進みバリケードをどかし先に進むと。
通りの反対に出ていた、おかしい?ここは袋小路であり通りの反対側に出ることは、ありえない。
秋夫は注意深く周囲を観察するが別段に変わった雰囲気はない、いつもの汚い飲み屋街だ…………
さらに周囲を探索してみたのだが、一つ違和感に気づいた。
町並みは変わらないのだが人が誰もいない、秋夫が学生時代に経験した神隠しと状況が酷似している気がする。
「ここが異界か?見慣れた風景だが、人が誰もいない…………」
誰もいないだけで、少し拍子抜けしていた秋夫だが。
大通りを抜け、西口のデパート付近まで差し掛かった時ありえない物を見た、子供ほどの背丈の鬼が数匹見えたのだ。
「おいおい、あいつらこっちに走って来るぞ、とりあえず逃げるか」
銀行員のスカートって何故、あんなに気になる存在なんでしょうか、通帳記入はわざわざ受付カウンターでお願いするタイプです