秋風とおにんにん
親父さんの戯言だと思っていた話だが、何だかマジっぽい話になってきて困惑しながらも話に引き込まれていく秋夫。
どうでもいいがそろそろ、ちんちんが寒い。
世間じゃまだパンツを脱ぐ時間じゃないとかいうが、そろそろパンツがはきたい年頃の秋夫だった。
「んで、親父さんそれはこの町で古くから言われている神隠しと関係があるのかい?」
「…………………… そいつは、わからんが関係があったとしても不思議じゃねーな」
まあ確かに、この町では古くから神隠しの話があるウソのような話だがこの町には体験した人が少なからずいる、現に秋夫も学生時代に経験しているからだ。
この町には、日本最大級と言われているマンモス団地がある。
日本の経済で昭和30年代に高度成長期だなんて調子に乗った時期があってその頃の建設だから築50年じゃすまないくらい古いのだが。
その団地の敷地内で年に何人も神隠しにあっている、もっとも大体の人は半日から一日で発見されているのだが。
おかげで複数ある団地の敷地からの出口には、タクシーの運転手が休憩時に自発的にそこで休憩していて、団地内でプチ遭難と言うか神隠しにあった被害者を積極的に救助している。
秋夫も学生時代に、このマンモス団地の敷地を通り抜けようとして半日程遭難した経験がある、その時の季節は夏で今でもその時の体験を思い出すと不思議な気分になる。
団地の敷地は歩いて10分もあれば通り抜けられるのだが不思議な事に敷地内に誰もいないのだ、誰もおらず何時間歩いても敷地から出られない。
喉が渇き通りにいくつかある自販機は、どれも電源が入っておらず。
四差路にさしかかった時に、頭がガンガンするほどの大音量で祭りばやしが聞こえてきた。
秋夫は恐怖のあまり全力で走り出し疲れきった頃に出口の目印になるように、停車しているタクシーに乗り込んだ。
運転手に事情を話すと、運転手は秋夫にいいと言うまで決して振り返らないように伝えてた。
タクシーは全速で走り出し、3~4分で近くの神社まで到着して境内をのぼる頃に運転手にやっと振り返っていいと言われそのままお祓いをしてもらい自宅に帰った記憶がある。
そんな不思議体験をしている秋夫からすれば、親父さんの話もこの町で噂されてる神隠しなら何だか信ぴょう性があるように感じられる。
「そんで親父さん俺の金玉とその異界がどう関係あるわけ?」
「 ……………………秋坊の金玉を盗んでいったのは、その異界の化け物だワシもその消えた友人の行方を何十年も探したが見つからなかった、ただな長い時間調べていくうちに安全に異界に入る方法だけは見つかった」
「 にわかには信じがたいが、その異界に安全に入って無事に出る方法はあるの?それ以前に盗まれた金玉を取り返したとして、どう元にもどすの?」
親父さんは、仕込みの手を止め秋夫の顔をじっと見つめその後、親父さんは何かを決心するようにしゃべり始めた。
「…………ある! その異界に入れる資格は秋坊にもある!異界に安全に入り無事に帰ってくる資格、それは異界の化け物に金玉を盗まれた人間だけだ、金玉を取り返して無事に元に戻るかどうかは、わからんだが取り返すチャンスだけはあるだろう」
「安全に異界に出入りできる保証があるだけましか………… 親父さん、その異界の入口を教えてくれよ、行くだけ行ってみるよ」
親父さんに場所を聞いてみると、この飲み屋街の一角にある袋小路に異界の入口があり普段は近寄れないようにバリケードがあるとのことだ。
この飲み屋街は細い路地が多くまるでダンジョンのようなありようだが、子供の頃から慣れ親しんでいる秋夫にも知らない袋小路があることに驚いた。
「じゃっ親父さん、とりあえずフルチンはマズイから外人に置き引きされたズボンを取り返したら異界に行ってみるわ、おそらくズボンはこの界隈のリサイクル屋にあるだろうから」
「……………………おい秋坊、フルチンはマズイからこれをはいてけ」
親父さんは、カウンターから出てきて自分のはいてる女性物のビジネススーツのスカートを脱ぎ秋夫に渡した。
親父さんのスカートをはいてみると、下町人情が身に染みて秋夫の涙腺も少しゆるんだ。
「サンキュウ~親父さん、こりゃいいスカートだ、じゃ行くよ」
「待たんか秋坊ーーー!!! ストッキングもハイヒールもはいとらんじゃないか、ばかもーん!!!」
秋夫はやっと気づいた、そうである。
ビジネススーツのスカートをはきながら、ストッキングもハイヒールもはいてないなんてどうかしてる。
社会人として失格である、無職の秋夫にもそれくらいの常識はある、秋夫は羞恥心で顔が赤くなりうつむいた。
「…………秋坊や、人間は失敗を積み重ねて生きておる、だが肝心なのは失敗した時にどう挽回できるか考えなきゃいかん秋坊、お前はまだ若い失敗したらやり直す時間はいくらでもある、もっと自分を大事にしろそんなハレンチな格好しちゃいかん、どれワシのストッキングとハイヒールも貸してやろう」
「親父さん…………」
さすが下町がんこ親父の言葉は重く、冷たくなりはじめた秋風も暖かく感じる秋夫だった。
派手な色のストッキングはイカンと思います、やや冷え性な僕は、そろそろスーツのズボンの下にはき始める時期です