ババア津波
さて本日の秋夫さんは、金玉泥棒を探すべく異界に行く前に早朝から
ラーメン婆にマット講習を受けております。
「秋坊、そろそろお昼だ今日の講習はここまでにするよ!」
「なあ~婆、婆はこのマット見ても驚かないのは異界を知ってるからか?」
「女に年齢と秘密を聞くもんじゃないよ」
まったく、この街の老人は口が堅いおそらくこの婆さんも異界調査の関係者なんだろうな、どいつもこいつも自分の身で異界を体験してこいと言わんばかりだ。
「いいさ、わからなければ自分で体験して調べるよ婆」
秋夫さんがエアマットに横たわり店を後にしようとしていると。
「お待ち秋坊! どこに行くか知らないけど、ちゃんとマットを整備してからお行き!」
「婆、マットを整備ってどこでだよ?」
「シャッター通りの地獄のチューナーに整備してもらいな!」
地獄のチューナーとは、この街で老人達が愛用している電動カートや電動車いすを違法改造しているチューナーだ、電動カートのモータを中華製のモーターに積みかえて時速35キロでるモンスターマシンに改造する連中の中でもピカ一の腕を持つ男である。
この街にはババア津波と呼ばれる荒くれ集団がいる普段は10台前後の違法改造した電動カートの集団だが週末には30台前後になり、お盆時期に入り活性化すると50台を超す爆走ババア集団となる。
大きな商店街などの通りならババア津波に遭遇しても、店などに避難できるが狭い路地などで遭遇したら死を覚悟するぐらい恐ろしい、なぜなら通行人がいても避けたら負けとばかりに人を突撃してくる、数十台の電動カートや電動車椅子にはねられ。
ババア達から治療費を請求される…………
恐ろしい………… 殺しても死なない様なババア達が腰が痛い首が痛いだの騒ぎだして大騒ぎするのである、老人なだけに当たり屋よりたちが悪い。
鳩の群れのように先頭の電動車椅子の後に続くババアの群れが大クラッシュしているのを見た事がある、先頭の車椅子が道路上の縁石に乗り上げすっ飛ぶとレミングスのように後続しているババアの群れが次々と縁石を乗り上げ中を舞い、あの世に直行と思いきや。
全員、かすり傷一つなく大笑いしながら横転している電動カートや車椅子を起こして、何事もなくまたマシンに乗り込み爆走を始めるババア達、知ってるか? 電動カートって平均80キロぐらいの重さがあるんだぜ、みんな軽々持ち上げているのを見て本当に電動カートが必要かと考えさせられる…………
ババア津波の恐ろしさに身震いしながら地獄のチューナがいる小規模な商店街に来た秋夫さん、この街のチューナは非合法の為に看板を上げられないので商店のシャッターを半分だけ開けているのを目印にしている、この通りだけでもシャッターを半分だけ開けている商店が2~3店舗ある。
違法改造した電動カートや車椅子に乗るのがステータスな老人が多い地域なので意外と、どのチューニングショップも儲かっているらしい、最近の流行りは軽量化とタイヤのインチUPらしい。
秋夫さんが半分だけ開いたシャッターをくぐり抜けて、顔に大きな傷がある男が目に入る…………
「こんちは、淳さん生きてる?」
「?………… ??………… お前、秋坊か?」
「お久しぶりだね」
この地獄のチューナーの淳さんは秋夫さんが学生時代から20代後半までバイクや車を改造してもらったことがあり、ここに訪れるのも十数年ぶりである。
「どうした秋坊? まさかまた首都高でも攻めようってんじゃ?」
「まさかもうそんなバカはしないさ、今日はこいつの整備を頼むよ」
「クククっ こいつは相変わらずクレージーだ、いいだろうマシンをガレージに入れな!」
エアマットを店内奥のガレージに入れ地獄のチューナとセッティングを話し合いをする秋夫さん。
「で、どうすんだ秋坊? 整備はいいが改造もするんだろ? まずはドリンクホルダーか?」
「それもいいが淳さん、ラジオ付けられるか?」
「!?」
「できるだろ淳さん…………」
「まっまさか…………AMだよなFMだなんて危ない物を付けろなんて言わないよな?」
淳さんの額から油汗が流れ落ちる、FMだなんてオシャレな放送を聞くのは悪魔の所業である、この街では昔からラジオをAMの文●放送と相場が決まっている。
「あっ秋坊…………本気じゃないよな? なっ?」
「本気だよ淳さん! 俺もそろそろオシャレにやりてぇんだ…………」
「クククっ歳をとっても秋坊はバカのままか、いいだろうそのマシンを悪魔のように仕上げてやる」
二時間後、地獄のチューナーに調律されたエアマットに横たわる秋夫さん、マットにはめ込んだ謎玉をクリクリと操作するとマットからFMラジオのミュージックが軽快に鳴りはじめてた、おまけで小ぶりな収納BOXも付けてくれたようだ。
収納BOXはマットの謎玉を操作するとマットに空洞ができたり閉じたりする便利機能だ、このマシンとなら異界への冒険も心強い。
秋夫さんは意気込んで異界への入口をくぐりエアマットに横たわった、マットで高速移動をしながら、金玉に関する手がかりを探すがまったくない。
「あの金玉泥棒の野郎どこにいるんだ…………」
憎き金玉泥棒にあったら拳銃でハチの巣にしてやるとばかりに意気込んでいる秋夫さん。
ん………… よく思い出せば拳銃は先日河原ダイブをした折にエコバッグごとあそこに放置プレー中ですな、イカンねとばかりに河原に向かう秋夫さん。
河原に来てみると、頭が二つあるワンワンが放置プレー中のエコバッグを前足であさってやがる。
「ぬすっともうもうしいぞコラっ!」
あの犬っころ、苦労して探しだした拳銃を咥えてやがる、秋夫さんはエアマットを繰り猛スピードで土手を下り降りた、秋夫さんが犬と一瞬即発の位置まで距離を詰め。
「それに触るな! 返せよ犬シャンプーすっぞ!」
「プっ……………………」
「おいおい、犬に鼻で笑われたよ」
秋夫さんをバカにした目つきの頭が二つある犬は、前足で地面に文字を書き始めた、以外におりこうさんな犬だ。
「ん~何、何? 盗人猛々しいは、ぬすっとたけだけしいと読むワン…………」
「ワフ~?」
「…………し、知ってるし…………本当は知ってたし…………」
異界の化け物といえど犬は犬、秋夫さんは本気で犬を相手に怒ったりしないジェントルマンだから………… 何やら犬がさらに地面に文字を書いている。
「バカが感染するから向こうに行けだとーーー!!」
「ワフッフッフッフ」
こんな怒りは久々である、修学旅行でバスにおいて行かれた時以来の怒りだ、秋夫さんは犬をエアマットに引きずり込み。
「エアマット流、四十八手の一つ松葉崩し!」
「ワ…………ワキュ~ン!!」
「お客さん板前さんかな?だってサラリーマンの臭いがしないもの」
かるく営業トークをしつつ異界の化け物をヌルヌルにしてやった秋夫さん、異界の化物は恍惚とした表情のまま消滅して謎玉に変わった。
「オメーには賢者タイムもあたえない消滅しろ…………」
衝動的に体が動きプレーをしてしまった秋夫さん、ラーメン婆はここまで見越して秋夫さんに四十八手の奥義を授けたのか? 婆も多くは語らなかったが秋夫さんのエアマットを見ても冷静に対処してた所を考えるとおそらく婆も異界を知っているのだろう。
「あの飲み屋街にどれだけ関係者がいるんだか………… 今は婆に感謝しとくか」
ババア津波は本当に恐ろしいです、おはぎ専門店の周りでたむろしていればいいのにフリマ会場で集団爆走とか怖すぎです。