秋のパン祭り
いじけて寝室に入ってしまった秋夫さん。
寝室内にある小型の冷蔵庫から、乳酸飲料ヤクールートのアルミふたをめくり、一気に胃袋に流しこんだ。
「やっぱり乳酸菌だよな、お前だけは俺を裏切らない」
身も心も疲れきっている秋夫さんを乳酸菌が癒してくれる、どれ、今日は辛い事が多かった日だ、二本目のヤクールートを飲んでも許されるであろう。
秋夫さんが二本目のアルミふたを、めくろうとしたら、上手くアルミふたがはがれない。
「お前もか、お前も俺を裏切るのか…………」
乳酸菌にまで裏切られた秋夫さん、やはりヤクールートは、一日一本と神様がおっしゃってるのだろうか?
陰鬱とした気分のままベットに横たわる秋夫さん、しばらくして寝室のドアが開き、嫁さんがこちらを気遣うような表情でベットに腰をかけた。
「秋夫ちゃん? もう寝た?」
「いや、まだ起きているが宇宙刑事はどうした帰ったのか?」
「宇宙刑事君は、秋夫ちゃんのドニャクエのレベル上げをしていてくれたんだけど、疲れて寝ちゃった」
嫁さんの、いたわる心に宇宙刑事の優しさに触れ、秋夫さんは自分の器の小さい事に、恥ずかしく思い、ちゃんと謝罪するべきだろうと思った。
「美晴…………」
「んっ? 何、秋夫ちゃん」
「そのアレだな、さっきは悪かったな」
美晴は二本目のヤクールートのふたを、綺麗にむき、秋夫さんに手渡した。
「大丈夫、わかってるから気にしないで秋夫ちゃん」
やっぱり嫁さんには、勝てる気がしないなと感じながら、以前から準備していた、プレゼントを渡すために、引き出しから秋のパン祭りのシール十枚セットを取り出した。
「ほら、お前にプレゼントだ」
「秋のパン祭りのシール十枚セット!? まさか秋夫ちゃん、ひょっとしてこれ!」
「バカ違ぇ~よ、盗んだんじゃないぞ! 地味にコツコツと貯めたんだよ」
秋夫さんが地味に、食パンと格闘した結果なのに疑われるとは、心外だが、普段の秋夫さんの行動を見てれば、疑いたくもなるだろう。
「秋夫ちゃん、ひょっとしてバターは!? バターは付けたわよね?」
「おう! コップの牛乳にジャブジャブして食ったわ!」
「また秋夫ちゃんは格好つけるために、すぐに無茶するんだから…………」
少々、秋夫さんのイイ男アピールがすぎたようだ、嫁さんの目には涙がたまっている、男なんて物はこんなものだ、惚れた嫁さんのためなら無茶もする。
「秋夫ちゃん、私のために、こんな無茶はもうしないで………… でもありがと、うれいしい」
「気にするなアホが、俺もこれからはもうちょっと、頑張ってみるさ」
「いいの、ゆっくりでいいの、私、秋夫ちゃんの同僚の人に聞いて全部わかってるから」
秋夫さんの元同僚と言えば何人か思い浮かぶ顔があるが、嫁さんは何を言ってるのだろう?
「同僚? 何言ってんだ?」
「秋夫ちゃんは、大きな地震の時に、会社の偉い人や、テレビでよく見る偉い人とかが、みんな、関西や九州に逃げ出すのを見て、社会に失望したんだよね」
おおう、確かに会社を辞めた時期はそんな騒ぎの後だったが、会社を辞めた理由は、そうじゃないのだが、まあ勘違いしてるなら、させておこう、本当の理由なんて嫁さんに言えるわけがない。
「おう、まあ色々あったが、今後はゆっくり仕事でも探すわ、宇宙刑事が無職じゃないとか許せんしな」
「そう、ゆっくりでいいのよ秋夫ちゃん」
「とりあえず、寝てると思うが、宇宙刑事にも謝ってくるか」
寝室のドアをバタンと閉めて居間にいくと、ゲームをした姿勢のまま固まっている、宇宙刑事は目を開けたまま寝ている。
秋夫さんはタオルケットを宇宙刑事にかけてやり、開いてる目をそっと閉じてやった。
するとすぐに宇宙刑事の目がギンギンに開いた、怖いからほっとくか…………
翌日、ちんちん先生に言われたとおりにリサイクル屋に来ている秋夫さん。
「佐治さんいる~?」
「秋坊~ 先生から話は聞いてるぞ、別連の第三倉庫に行こうや」
「ん? んっ? 佐治さんが詳しい人なんか?」
佐治に連れられ、第三倉庫に連れられて来た秋夫さん、秋夫さんの記憶では、非合法な物をしまう、第二倉庫までしかないと思ったのだが?
「ここが第三倉庫だ、秋坊」
「こんな倉庫もあったんだな? しらなかったぞ」
「そうだろうな、ここは国の機関の人間しかこないからな、それで持ってるんだろ? だせよ蓄電乙型を」
秋夫さんは佐治に謎玉を渡したんだが、蓄電乙型なんてダサいネーミングになっとくできないお年頃。
「んで佐治さん、この謎玉は何んなんだよ?」
「それはな、電池みたいなもんだ」
「電池?」
「そうだ、昔からこの辺りには異界の遺品と呼ばれる物が発掘されている、それらの情報を隠すために、二次大戦時にここらをバカでかい軍事基地にしたんだ」
そんな怪しげな物が発掘されているなんて知らなかった秋夫さん、その情報の目隠しするための、軍都赤羽とかスケールがビッグな話すぎて、ついていけない。
「秋坊、こいつを見ろ」
「佐治さん………… これって大人の玩具の電動こけしさん?」
「そうだ、こいつも遺品のひとつだ、この玉をこのくぼみに、はめ込むと」
ブイーン!! ブイン ブイン~
激しくこけしの頭が左右にスイングを始めた…………
「佐治さん! 何コレ? これが異界の遺品? 気が狂ったんか?」
「クククっ まあ、ほかにも危ない物はあるんだが、一般人の秋坊に見せられるのはこんな玩具ぐらいだ」
よかった異界の遺品とやらが、こんな下品な物だけではなくて、なんか安心した、こんなイカレタ物だけだったら、異界に今後入るのを考えてしまう所だった。
気分直しに倉庫内を見て回る秋夫さん、ふと気になる遺品が目に入った。
「佐治さーん、これも遺品?」
「そうだが、そんなゴミが気になるのか、欲しければやるよ!」
「マジ? さっそく試してみるわ!」
秋夫さんが佐治からもらった遺品は、よく大人の、いやらしい店なので使うエアーマットだ、自宅に持ち帰り、夢のプレイをしてやろうと考えたのだが。
謎玉をエアーマットに入れその上に腹ばいに寝転がる秋夫さん。
「このマットはどんな、いやらしい動きをするんだよ、ヒヒヒっ!」
「おいっ秋夫坊、そいつはここじゃ使うな! 外でやれ!!」
ビュビュビュー っとマットの後方からジェット水流のように勢いよく噴射されたローション。
凄いスピードでエアマットは発射され、秋夫さんは倉庫の壁を突き破り、通りを抜け本物の大人の店に突っ込んだ…………
大人の店の店長はあきれた顔をして
「いらっしゃい秋坊………… 気持ちはわかるがそりゃねぇ~よ」
僕は以前パン祭りのシール欲しさに食パンを一日三食たべた事がありましたが、あれって菓子パンにもシールがあるんですよね