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「再教育をする」
食事を終え、テーブルの上を片付けると、そう言った。料理中の私の願いは聞き入れられなかった。
男には、大切な存在があった。辛い時も苦しい時も自分を支えてくれる存在だった。
どんな不運があっても、その存在は男に幸せをもたらした。
「だが、男には、誰にも言えない秘密があった。その秘密には、男自身も気付いていなかった……ここまでにしよう」
立ち上がった。
私が聞かされているのは、とある男の半生、もしくは、記憶らしい。
「お前ももう寝ろ」
部屋に入って日記をつけ、言われるがままベッドに横になった。
バケツ運びをしてて、疲れたのか、すんなり眠りに入ることが出来た。
翌朝、陽の光で目を覚ました。
どれだけの時間、眠っていたのだろう。お腹が空いた。
ふらふらと漂うようにリビングに出る。そこにアドの姿は無かった。
寝室と思われる場所を覗いてもいない。
少しずつ、少しずつ、不安になっていく。
アドがいないと嫌だ、怖い……そう思えてくる。
最後に、玄関の扉を開けた。
家のすぐ目の前に、アドが倒れていた。