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「怪我は無いか?」
その言葉に、訊き返してしまった。
「どうなんだ?」
平気だと伝えると、バケツを拾い上げてテントへと戻っていった。
呆然と、目の前に広がるクリーム色の液体を見る。これはいったい何の液体なのだろう。
指で触ると冷たくて、少しドロドロしていた。よく見ようと指を顔に近付けると、嗅ぎ覚えのある匂いが鼻を刺激した。
「おい」
振り返ると、バケツを2つ持ったアドが立っていた。
「2つにしてもらった。手間が増えるが、仕方ない」
バケツを1つ差し出され、それを受け取ると、歩き出した。
少し軽くなったバケツの中には、さっきと同じクリーム色の液体が半分ほど入っていた。
人ごみを抜け、森に入る。もう日は落ちていた。
「足元、暗くなってるからな。バケツ落とすなよ」
ずんずん歩いていくアドの後を、何とかついて行って、家にたどり着いた。
「バケツ、そこに置いておいてくれ」
言われるがまま、玄関の隅にバケツを置いた。
「そろそろ飯にしよう」
テーブルの椅子に掛けていたエプロンを着て、キッチンに立った。
何か手伝う、というと、拒否されたので、大人しく椅子に座って待つことにした。
次第に、美味しそうな匂いが漂ってくる。
アド、と声を掛ける。返事は無いが、聞こえているはずだ。
自分の事が思い出せない。私が何者なのか、訊いた。