16
アド……僕の婚約者の愛称。僕の大切な存在。
僕は彼女に嘘をついていた。
仕事は全く忙しくないと嘘をついた。
上司とは上手くいっていると嘘をついた。
そして、僕自身、自分に嘘をついた。
嘘をついて、現実から逃げた……。
「―――アド!」
話を終えた瞬間、崩れるように倒れた。
「アド、しっかりして、アド……!」
揺さぶって気付いた。身体が熱い。かなり無理をしているはずだ。
背負って歩き出す。まだ、まだ目覚めたくない。
まだちゃんとお礼を言えてない……!
連れ帰り、ベッドに寝かせる。苦しそうに呼吸をしている横に座った。
「アド……」
手を握ると、虚ろな目で私を見上げた。
「……隣に、寝てくれ」
「え?」
「さっきやったみたいに……頼む」
アドの最初で最後のお願い。ちゃんと聞いてあげないと。
横になると、抱き寄せられた。
胸に頭を乗せると、心臓の鼓動が聞こえてきた。
ゆっくりで、まるで……。
「眠ってるみたい」
「そりゃそうだろ、眠ってるんだから」
眠っている。現実の僕は今、眠っている。
「アドは、待ってくれてるかな」
「さぁな」
「待っててくれてると良いな……」
「『さよなら』って、電話しちゃったんだろ? どうなってるかな」
アドが待っているかは解らない。それでも、僕は生きたいと思った。
生きたいと思ったから、こうして夢を見ている。
そろそろ目覚めるか。
アドがそう言った。
大丈夫、俺はいつだって、お前のそばにいる。俺はお前なんだから、当然だろ?
アドの言葉、アドの声。
もう1つ、思い出した。
今のアドは、僕の―――。




