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男には、虚言壁があった。
胸のうちを、決して人に話そうとはせず、あろうことか、自分自身にも嘘をついていた。
「辛いとか、苦しいとか、そういう感情を絶対に表に出さなかったんだ。元々そうだったわけじゃない。置かれた環境と、対人関係が、そうさせたんだ」
虚言壁……嘘をついてしまうこと。
「男には、嫌な人間がいた。周囲からの評判も良くない、嫌な人間。男はその人間のすぐそばにいた……ここまでにしよう」
幸福な男の、嫌な人間。
アドが話してくれた事を日記に書こうと、自分の寝室に向かった。
嫌な人間の事、男の癖の事……そして、アドの事。
アドが倒れるのは珍しい事、なのだろうか。あの老婆は、特に驚きもしていなかった。
いつもいつも、あのバケツに入った液体を運んでいるのだろうか。それだけで、過労になるのだろうか……それに昨日は、私が半分持ったから、尚更……。
そういえば、アドは、昨日も再教育をしてくれた。しかも、2回も。
もしかして、何か関係がある?
部屋を出てアドの元へ戻る。
声をかけたが返事が無い。
近付いてみると、だらだらと汗を流し、苦しそうに呻いていた。




