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第六章 『それは世界の例外にして八番目』

 光芽市は影牢市の倍以上の人口と面積を有し地方ながらもめまぐるしい発展を遂げているのを羨ましく思ったこともあるが人混みが苦手の俺に取っては現状は丁度良いものだ、様々に立ち並ぶ建造物を凌駕して光芽タワーが突起し街のシンボルと化しているがあれの完成前は電波塔が一番高く、それまではそちらがシンボルだったが奪われた形となりそんな平和的略奪劇があった光芽市へと俺達三人と一匹はやって来た。

 俺とマギアとフォティア、それから使い魔であるクロも連れてきている。羽原姉妹には悪いが危険な目に合わせてしまう恐れがあったので黙って出てきてしまった、後で怒られるだろうな。

 視界に生える光芽タワーを同行者達と見上げて睨む、白を基準とした建物はガラスが太陽に反射して神々しさを高めシンボルとしての地位を底上げしてるように思えた。ここで今から取り引きが行われようとしているがすんなりと人質を返すのかは未定だ。

「なあマギア、これってどういうことだと思う?」

「向こうの策略以外考えられん」

 大都市とは違うが地方なりにもここは都市だ、人口だって多いから交通量も比例して増すと思う。だが建造物の森を抜け光芽タワーへと近付くにつれて雑音が遠ざかり人影すら稀薄となり、タワーを眼前に控えた現状況で無人なる有り得ない現象に捕らわれていたのだ。

 静かなものだった、人も車も自転車もバイクも鳥も犬も猫すらも見当たらない。

「都市に人がいないって奇妙なものだな、なんだかホラー映画を思い出すよ」

「はっ、あの女狐が好きそうなシチュエーションだ。当然のことながら奴らの仕掛けたことだろうけどな、人払いの細工か、魔道具でも使っているのかもな」

「てことは向こうも荒事覚悟ってことか」

「だろうな、人目を気にする必要はない状況をご丁寧にも作ってくれたのだからな」

 ご苦労さまとでも言ってやろうか。

「さてと、そろそろ正午になる、フォティア、マギア、覚悟はいいか?」

「覚悟など最初からできている、わたくしを誰だと思っているんだ? 愚問だぞ」

「わ、わたしも大丈夫です……あの、もし交渉が上手く行ったらアグノスのこと頼んでもいいですか?」

 その問い掛けには他の意味も含まれていると気が付く、交渉が上手く行き人質と交換を果たせた場合、弟は助かるだろうがキーが体内に残留しているフォティアから取り出さなくてはならない。取り出す方法がない場合は解体する方法が向こうにとって手っ取り早い、つまり最悪の結末しかない。そうなってしまった場合を憂いているのだ。

「……ああ、保護は保証する」

「ありがとう……ございます」

 気丈に振舞ってはいるが言葉に力が足りない、キーを飲み込んで数日経っているが排泄はなかったそうだ。魔力的に取り出せないかと思案したがその方法を俺たちは持ち合わせていない、魔術師である源さんに聞いたが魔術による薬とかは作れるが外科的な魔術は専門外だと言った。取り出せていれば少なくともフォティアに危険は及ばなかった、どうしてこうも不利な状況が続くのか。

 嘆いていても仕方がないか、こんなところで予測されることに悩んでいても現実は時間を消費するのみで一歩を踏み出さなければ始まりすら訪れない。

「行こう」

 張り巡らされた根を剥がすように足を浮かせ歩き出す、そのまま進んで光芽タワー入り口へと辿り着くとガラス張りの自動ドアが開き中から見知った顔が姿を現した。

「ようやく来やがったか」

 ディーナーの一人シャルールが正面に立つ。

「シャル!」

「フォティア! ど、どうして……どうしてこんなことしやがったんだ、テメェが盗みをする奴だったなんてショックだぞ、それもよりによって当主様の物を盗むなんて……」

「待ってよシャル、エクスプロズィオーンを発動させたら危険なものだと知って色々と手伝ってくれたでしょ?」

「なんの話しだよ……オレは知らねぇぞ、テメェが盗んだって聞いているぞ!」

「記憶を操作されているんだよ、エクスプロズィオーンが発動してしまったらこの街が消えてしまうの、思い出して! シャルがしていることは間違っているんだよ!」

「い、意味分かんねぇ、オレが盗みの手伝いをした……? で、デタラメ言うな!」

 どうやら強固に記憶を改ざんされているらしい、頭を抑え何かを思い出そうとする素振りは見せるが何かに阻まれたように苦しんでいる。フォティアが姉のように慕うシャルールの記憶を捻じ曲げ仲が良い二人を対立させるとは、これがマルスのやり方か。

「フォティア、今の俺達じゃ記憶を戻せないと思う。辛いだろうが今は……」

「そう、ですよね、分かっています……シャル! 絶対に元に戻してみせるから!」

「な、なんだよそれ、ああもう意味分かんねぇ! とにかくオレについて来い、当主様から連れてくるように言われているんだよ! 連れていけば嘘か本当か分かるはずだ」

 フォティアには辛いだろうが今は耐えてくれ、その悔しさも俺が背負って前に立つ。エゴを貫く罪を犯しているのだ、フォティアが幸せになるように全力で力となる。シャルール、お前がいないと幸せは訪れない、もちろんアグノスも含めて全員助ける。

 勝手を通す者に課せられた避けては通れない道。

 黙ってシャルールに付いて行く、マギアに警戒をさせ俺はいつでも戦闘を行えるように準備して。中はホテルのようにフロントがありそこで住居者の用事や出入りする者の受付などを担当するのだろう、開放的な室内は広く感じられ高級感を醸し出す応接用のソファなどが壁際に並び絵画が飾られ観葉植物も姿を晒す、清潔に保たれた赤い絨毯を歩くがフロントには誰もいなかった、光芽タワー一帯の街と同じように。

「……まさかここの住人もいないんじゃないのか?」

「けっ、魔力は一般人から秘匿するのがオレたちの常識だろうが、この馬鹿デカイ建物の周辺には人払いを施しているんだよ、で、ここの奴らは暗示を掛けて全員外出させている、誰もいない無人って訳だ」

 その説明を聞いていたマギアが話す。

「ふん、懸命と言ってやりたいが街を吹っ飛ばそうとしている輩のセリフとは思えんな」

「街を吹っ飛ばすだぁ? 何意味分かんねぇ、オレらは当主様の物を返して貰いたいだけだ」

「偽りすら気付かぬ愚か者め。話しは聞いている、貴様は姉のような存在であるとな」

「う、うるせぇ! テメェに関係ないだろうが!」

「確かに関係はない、だが盗んだ経緯の記憶を失ったとしてもフォティアを忘れた訳ではあるまい、妹を信じられないのか? そんなに希薄な仲だったのか?」

 記憶ではなく絆に訴えている、信じていたものを信じられなくなる辛さをマギアは分かっているんだ誰よりも。そして信じていた者に裏切られる絶望も。

「稀薄なんて言わせるかよ! オレは天涯孤独だった、セルモクラスィア家に使えるようになるまで仕事もなくただゴロツキとして暴れまわる日々だった……だがマルス様に力を認められディーナーをするようになってからフォティアとアグノスに出会って……一人じゃなくなった、こいつらがいてくれたからつまんねぇ毎日が面白くなったんだよ……」

「シャル……」

「ならば貴様は誰を信じる? 命を下した主人か、それとも家族か」

「家族…………お、オレは……オレは……」

「無駄話しはそこまでですよ?」

 不快に割って入る言葉は奥から手を伸ばした、聞き忘れないナメクジが全身に這い回るような不快感を増殖させる声は三度目、セルモクラスィア家のもう一人のディーナーであるアゴーニに間違いはない。

「お、おっさん!」

「シャルール、ディーナーたる者汚い言葉使いを直しなさいと言っているでしょう。後でお仕置きをするとして当主様の御前です、姿勢を正し礼を」

 更に奥から靴音を反響させて近付く者にアゴーニとシャルールが頭を下げた、それだけでこいつらが使えている主人だと瞬時に理解する。炎系統の魔力使いに似合う紅蓮の短髪を揺らし切れ長の目と細く高い鼻を内包する甘いマスクは女性を魅了する効果を付属し、上下を赤で統一したスーツに黒のシャツを纏い白の手袋をあしらえて威風堂々と立つ。

 セルモクラスィア家現当主マルス・セルモクラスィアはフォティアを一瞥して喜びを披露する。

「よくぞ連れて来た、そなた達に敬意を。劣等種だろうと礼を忘れはしない」

「お前がマルスか」

「いかにも。聡明な我を一目で当てるとは劣等種でなければ良かったのだがな」

 アゴーニと違う種類の癇に触る奴だ、だがそんなことは瑣末と捨て置かなくてはならない。

「ふ、この程度では噛み付いて来ぬか、なる程知性はあると見えるな。それならば早々に本題へと入ってかまわぬだろう」

「その前にフォティアの弟はどこにいる?」

「急くな、隠し立てする気はない、弟はこの建物の屋上にいる……フォティアよ弟に会いに行くがいい、キーはそなたの中にあるのだ、取り出す前に最後くらいは慈悲をくれてやろうではないか。今生の再会を愛でるのは美徳と言うものだ」

「……本当にアグノスを返してくれるんですね?」

「無論だ、そなたの道を阻みはせぬ……その証拠に道を開けよう」

 そう言うと通路を明け渡すために壁際まで後退する。

「ディーナー達にも手出しはさせん、これは命令とする」

 命令を受け入れるディーナー達はマルスの後ろに控えた、考えてもみれば屋上へと向ってもフォティアが脱出することはできない、況して弟までもいれば空中では逃げ道はなくここに降りてくるしかない。つまりここで通したとしても有害にはならないと判断したのだろう、予想だがエクスプロズィオーンは屋上に設置されている可能性がある、つまりキーを運んでくれるのだから一石二鳥という訳か。

 狡猾なのか腹黒いのかどっちなんだろうな。

「だが上にまだ他のディーナーがいる可能性も捨てきれないぞ!」

「我らはここに居るメンバーのみだ、少数精鋭と我がいるのだ他に何もいらぬ」

「信じられる訳無いだろうが!」

「ユウヤ、あながちそいつの言っていることは間違いではないかもしれないぞ、先程からわたくしの魔力探知を発動させているのだが屋上に巨大な魔力と小さな魔力が一つずつ、おそらくエクスプロズィオーンとフォティアの弟だろう。そして他の反応はここの階にしか集中していない、つまりこいつらだけってことだ」

 マギアがそう言うのであれば間違ではないのだろう、他のディーナー不在の疑惑は解かれたと思ってもいいのか。

「ほう、その女中々に便利ではないか。そなた名はなんと言う?」

「ただの女と思っておけ、貴様にはその程度の認識で充分だ」

「これは手厳しい……劣等種と連むとは勿体ない、最初から思っていたが素晴らしい美貌だ、我宝物庫に飾っておきたい程にアートだ。どうだ女よ、そのような劣等種を見限って我と共に魔力が支配する世界を再生させようではないか」

「はっ、お断りだぞこの色目男め。わたくしの体も心も何もかも全てここにいるユウヤのものなのだ、わたくしに触れていいのは彼だけ、彼こそわたくしの全て、わたくしの安息、貴様如き三流野郎は蚊帳の外だってことだ馬鹿者」

「ふっ、くくく、ふられてしまったか。まあ良い、劣等種と同じ道を歩むとは愚かなり」

 こいつマギアに色目を使うとか有り得ないだろうが。

「愚かな者との話しは疲れてしまうな。フォティアよもう行くがよい。ただ、キーを盗み出したのは事実である以上罰を与えなくてはならぬな。エレベーターの使用を禁止しそこの階段を使って上へと向かうがいい」

「な、ちょっと待てよここが何階建てだが分かって言ってるのか! 大人だって階段で行くのは辛いのにそれをフォティアにさせる気か!」

「これは主人が使用人に与える罰である、よそ者のそなたに口を挟む権利はない」

「確かによそ者だよ、だが……」

「ユウヤさんわたしは大丈夫です、大丈夫ですから怒りを沈めてください。わたしはたくさんの人を助けたいって思ったけど盗んだことは事実で罪は罪です、それをこれで償えるなら安いものですよ、だってその先にはアグノスが待っていますから」

「フォティア……」

 小さな体に宿るのは家族へと思い、彼女は意を決して歩き出す。

「待てフォティア、わたくしの使い魔を連れていけ、こいつならボディガードになってくれる。行ってくれるな?」

 仕方ないなと短く鳴いてフォティアの足元へ、普段仲が悪いが有事の際には本来の使い魔としてマギアの命令を遂行する。近親憎悪な関係性だが似ているということは思考回路もまた近しいのだ、クロなら不測の事態に陥ったとしても対処してくれる。

「ねこさんよろしくお願いしますね?」

『ニャ』

「ふん、我の気が変わる前にさっさと行くがいい。この劣等種共にまだ用があるのだ」

 凍える吹雪を彷彿させる視線がこちらに降り注ぐ、これには殺気が篭っている。

「……ユウヤさん、マギアさん、行ってきます」

「気を付けろよ」

「はい」

 弟に会うためフォティアは駆けた、残されたのは俺とマギア、そしてセルモクラスィア家の当主とディーナーのみ。

「これでようやくキーが役に立つ、ご苦労だったな劣等種共よ」

「これで俺たちが納得して帰るとか思ってないかお前? お前の計画を見逃してしまったら多くの人間が死ぬ。それにだ、俺の女を口説こうとか何様のつもりだよこのクソ野郎が!」

「ふっ、そんなにもその女が大事か?」

「当たり前だ! 絶対にぶん殴ってやる、そして計画って奴も止めてみせる!」

「止めるか、それは無理であろうな。我らがここでそなたらと対立している理由は制裁のためだ。高貴なる魔力を持っていながら自ら価値を落とす劣等種め、我らが仕置を受けるがいい」

 指を鳴らすと控えていたディーナー達が動き出す、魔力が高まって行くのを感じる。アゴーニは炎の剣を両手に出現させ構えを取り、シャルールは全身に炎を纏わせ傍らに炎により造られた人型も姿を現す。

「最初から全力で来るってことか、ならこっちもそうしないとな……マギア体調は大丈夫か? いつものように発熱とかしてないか?」

「心配するな、持病は今はない。存分に暴れろ、わたくしのことは気にしなくていい、これでも多少は魔力を使えるのだからな」

「……分かった、なら俺は目の前の敵だけに集中する……気を付けろよ」

「ユウヤもな」

 油断なんかしている暇はなさそうだからな。

「二人とも、迅速にそこの劣等種共を始末しろ」

「了解しました……私は女を相手にします、シャルールは男を相手なさい。女をいたぶるのは悦ですから楽しみですよ」

「……嫌な趣味だなおっさん」

「ふふっ、それは褒め言葉と受け取っておきましょうか。それよりも敵の言葉に動揺していたようですが分かっていますか自身がディーナーであることを、それを胸に前を向きなさい」

「ちっ、分かってるって、オレはディーナー、命じられたことを実行する」

 戦う意志を携えてシャルールとアゴーニが動く、轟々と炎を燃やし一直線に突っ込んで来るシャルールは命令通り迅速に攻める。俺も最初から全開で飛ばす、液状炎を両手両足に纏わせて地面を蹴り空中を蹴る、足の炎濃度を調整すればこの空間全て俺の足場、どこだろうと自分の足で羽ばたける。

「また空に浮かんだのかよこの野郎が!」

 炎の人型が空中の俺に飛び付く、その動きは速くあっと言う間に追い付かれた。だがそのスピードじゃ俺は捕まらない。液状炎は粘性と伸縮性を兼ね備えている、一歩空を踏む瞬間に炎の表面のみ濃度を高くし張り付かせると内部は俺の重みに引っ張られそして反対方向に弾ける。つまりはバネと同じ効果を生む、その反動を使って空中での高速移動が可能だ。

 捕まるよりも速く人型を掻い潜り通常の速度を遥かに超えてシャルールへと急接近を果たす。

「悪いが大人しくして貰うぞ!」

 ジグザグに空を飛び回りスピードで相手を翻弄して一瞬だけ俺の姿を見失ったシャルールは容易く背後を取らせた、右手を突き出し炎を一挙に開放、体に纏わせた炎ごと液状炎で包む、言うなれば炎の牢獄が完成した。

「なっ! 畜生、出しやがれ!」

 暴れようが魔力解除をしない限りそのまま固定される、体の炎が消えない限りダメージはないはずだ。フォティアが姉のように慕っているシャルールにこれ以上の攻撃を与えるのは気が引ける、あいつの幸せを願うのならばこいつはいなければならない。

「しばらくそうしていろ、フォティアのためにな」

「畜生、畜生め!」

 シャルールは封じた、マギアはどうなっている? そちらへと意識をやるとアゴーニが炎の剣を連続で振り回しているがそれらを紙一重で避けて行くマギアの姿にアゴーニが楽しげに口から歯を覗かせた。

「やりますねぇ、私の攻撃を躱し続けるとは」

「ふん、動きがのろまであくびが出るぞ」

「おや、それならば飽きさせてはディーナー失格ですねぇ、これならどうですか?」

 炎剣の斬撃と同時に口から炎による弾を発射する、顔面へと容赦なく突き進む。顔を突き抜けた、俺には最初そんな風に映ったが実際は違う、どうやら首を動かしギリギリで直撃を避けたらしい。だが髪に炎が触れ焦げ付き、体のバランスを今の攻撃で崩してしまうが力一杯地を蹴りどうにかアゴーニとの距離を取った。

「おやおや、素早いことです。ですがもう終わりですね、逃げ場がありませんから」

 離れて着地した場所が悪くマギアは壁際まで追い詰められてた、舌舐めずりをしてアゴーニは嬉しそうに腕を広げ笑い声を上げた。

「くくくっ、等々逃げることもできなくなってしまいましたね」

「マギア!」

「大丈夫だユウヤ、そこで見ていろ」

「おやおや、助けを呼んだ方が賢明ではないでしょうか? このままでは私にいたぶられて死んでしまいますよぉ? そうですね、最初に服を燃やしてしまいましょうか、裸にして屈辱を与えた後にその柔らかく綺麗な肌をこんがりと焼いてあげましょう。ああ、どうして女を追い詰めることはこうも楽しいのか、フォティアの時もついつい調子に乗ってしまいましてねぇ手加減を忘れて少し本気でなぶってあげたら直ぐに虫の息ですよ……くくく」

 こいつ、今から全力でぶん殴ってやる。身構えた瞬間マギアは来るなとアイコンアクトをする、あの怒りを孕んだ瞳は自分で倒すと言っているのだ。マギアだってフォティアのことを気に入っている、あいつが気に入った者を悪く言われると頭に来るタイプだ。

「この下衆め、わたくしを怒らせたな」

「くくく、怒らせてしまったとしてこれからどうする気ですかぁ? もう貴女は私に弄ばれるだけのお人形さんでしかないのですよ、くくくくくっ!」

 人形、その言葉はマギアに言ってはならない禁句。

「……おい、わたくしが人形だと? もう一度言う勇気はあるか?」

「何度でも言いましょう、貴女は弄ばれるだけの可愛い可愛いお人形さんですよ!」

「二回言ったな、なら代償にその二つの腕を貰う」

「何を馬鹿な……」

 怒りが絶頂に達しマギアは右足の爪先で軽く地表を叩く。それを合図にアゴーニは雄叫びをあげた。

「があああああああああああああああっ!」

 舞う鮮血、それは宣言通りとなった両腕から噴き出されたもの。

 悶絶するアゴーニの後方から伸びる二つのそれらは両腕をそれぞれで貫き腕としての機能を奪い形状も歪に変化させていた、骨は砕け肉は裂け血だまりを二つ床に広げる。何が起きたのかと痛みに耐えながら後ろを振り返ったアゴーニは伸びるものに目を疑う。後方の床から銀色の鋭利で巨大な棘が生えている姿を目撃し、その胴体が自分の両腕を貫いていると気が付く。

「これでわたくしの代償は払って貰った、次はフォティアを苛めた分だ」

 もう一度爪先で叩くと床から棘が生えて次は両足を射抜く。

「ぎやああああああああああああああっ!」

 あれはマギアの中に存在する数種類ある魔力の一つ、備わった性質は魔力そのものを硬質化させると言うものだ。あいつは逃げ回りながら足で地面に魔力を設置させていた、それらは細く小さな縄のように繋がっていて爪先で合図を出し発動させた、設置された魔力は見る見る内に鋭利に硬質化してアゴーニの腕を貫いた。まさか後ろから攻撃が来るとは予想打にしていなかっただろう。

 更に合図を出し今度は体を縛り上げて拘束する。

「しばらく反省していろ、幸い皮肉にもその棘が傷に栓をして止血している、当分は死ぬことはないだろう。その苦しみよく味わえ」

 動けず棘の痛みを耐え続けなければならない、それは自業自得だと思った。

「終わったぞユウヤ、残るはそのナンパ男だけだ」

「そうだな、当主を倒せば決着だな」

「ふっ、これはなんだ、我がディーナー共はこれ程にも脆弱だったのか。落胆しかない、それでも栄えあるセルモクラスィア家に使える者か、これは酷く……癇に触る、このような者共は我が敷地を跨ぐ資格なし」

 それは事実上の解雇、力なき者はいらぬと当主はご立腹だった。

「セルモクラスィア家の名を汚し、我が顔に泥を塗る蛮行、そなたらと一緒に処分する」

「お前、自分の身内すら切り捨てるのかよ」

「もう身内ですらない。やはり最初から孤独でしかないのか……しかしかつての栄光を取り戻しさえすれば更なる従者も増えることであろう、我計画は揺るぎはしないのだ」

「栄光を取り戻すだと? 魔力世紀に戻すために街を破壊しているんじゃなかったのか?」

「二つとも我が理想である。魔力が繁栄を極めた魔力世紀においてセルモクラスィア家もまた比例して繁栄していた。だが時代は変わり科学が魔力の代わりに世界を循環させる要因となってしまった、だがこのセルモクラスィア家現当主である我が魔力世紀を復活させれば世界中の日陰に身を隠す同胞たちが我を讃えセルモクラスィア家の名は世界の果てまで轟き朽ちる寸前である我家系も華麗に復活を遂げるのだ! 一石を投げ二つの鳥を落とす、そのような言葉がこの国にはあったな、まさしくそれである」

 つまり家が潰れそうだから世界をひっくり返して復活させようとしているってことか?

「ふざけるな! そんな理由でフォティアを傷付けた上に都市を消滅させようとしているのか、自分勝手も甚だしい、家が潰れそうだからって子供かって言うんだ、そんな幼稚な考えでいるのなら家なんか潰れてしまえばいい!」

「なんだと、光栄あるセルモクラスィア家を愚弄するとは……おのれ、黙って聞いておれば言うに事欠いて潰れろと? 劣等種め、そなたの骨一つ残さぬように灰にしてくれる!」

 圧倒的な魔力が部屋に充満して行く、マルスの手の平に高温の証である青い炎が灯る、紅蓮など赤々しい炎使いなら何度か目撃してきたが青はまず見たことすらなく伊達に炎系統で秀でていると言われるだけはあるか。マルスとの距離が離れているにも拘わらず炎の熱が肌に痛みを植え付ける、観葉植物が燃え上がり絵画を黒く染め上げガラスにひびを生じさせた。

「青き炎に溺れよ」

 解き放たれた青い炎は天井と床を這いずるように突き進み部屋全体を侵食して行く、その勢いは津波の如く迫り視界を埋め尽くす。咄嗟に手を前に伸ばし魔力を全開にし液状炎をドーム状に変化させて迫る波を遮る、魔力は魔力で防ぐことができる、高出力だろうとそれは変わりはない。

 しかし熱と衝撃は魔力から生まれたとしても別のもの、防ぎ切れはしない。手は焼け衝撃に体は浮き炎に押し出されてガラスを突き破って外まで吹き飛ぶ。空中に投げ出された俺はマギアを抱き締めて庇い背に液状炎を纏わせて隣りの建物に背中から直撃する。息が静止する、頭が真っ白になりそうで意識がどこかへ行ってしまいそうだ。全身に走る電気は痛みを巡り渡らせ体中が悲鳴をあげた。地面に倒れこみ苦痛に耐える。

「ユウヤ!」

「だ、大丈夫だ、動ける……マギア怪我はないか?」

「お前が守ってくれた御陰で少し火傷した程度で済んでいるがユウヤが辛そうだ、それにその手、酷い火傷だ、治療するから動くな!」

 治癒の特性を持つ魔力で治し始めた。危なかった魔力をクッションとして使っていなかったら死んでいたかもしれないな、だがそれでも激痛が体を苛む。

 なんて強い魔力だ、煙が立ち込める一階は見る影を失い綺麗だった内装は無残と言う他ない。俺と光芽タワーの間にシャルールが倒れているのに気が付く、俺の炎で捕らわれていたのが幸いして魔力を防いでくれたらしい、観察すると気を失っているらしくピクリとも動かない。胴の辺りを凝視すると一応呼吸はしていた。だがアゴーニは防ぐものはなく生きながらに焼かれ炭と化す、自業自得だ。

「……ありがとうマギア、随分と楽になった」

「それは良かったが気を抜くとこれ以上の被害が出てしまうぞ、気を引き締めろ」

「ああ、分かってるよ」

 立ち上がって眼前を睨むとセルモクラスィア家当主は悠然と歩いていた、力を見せ付け地震の有用性を知らしめたと鼻が高いだろうな。

「まだ生きているのか? 随分としぶとい」

「しぶといのが取り柄だからな」

「ふっ、劣等種らしい解答だ。我家名を汚したこと忘れてはおらぬな? 即死させる気は毛頭ない、最早この炎は魔人に匹敵する威力を秘めているやもしれぬ、光栄に思うがいいその炎でゆっくりと生きながら燃やしてやろう。かつて行われたと言う魔女狩りの如くな!」

「完全に自分の力に酔ってるな……マギア、俺があいつの注意を引き付けるからその間にシャルールを安全な場所に」

「分かった、気を付けろよ」

「了解だ……」

 優越感に浸るマルス、今までの言動と行動から傲慢な性格だろう、ならばそれを利用しよう。

「確かに強力な魔力だが一撃で殺せないなんてセルモクラスィア家の当主様も大したことないんじゃないか?」

「何?」

 そして怒りの感情制御が苦手だ。

「お前みたいなのが当主じゃ歴代当主は悲しむだろうな、こんな無能を当主にしなければならなかったんだからな! 同情するよ」

「お、おのれ! 家名だけならずも我自身すら愚弄するか! ならば次の攻撃は避けられるか試してもらおう!」

 魔力を使う前に二人がいない場所へと走る。

「逃げる気か! 卑怯者めが!」

 思惑通り標的をこちらに定めて青い炎を放つ、先程の攻撃が津波なら今度は火炎放射器だろうか、螺旋状にうねる炎が一直線に束となり牙を剥く。高速で進み地表を焼き大気すら焦がす勢いは衰えを知らず、走りでは躱せないと即座に判断して足に液状炎を発現させ空中へ逃れた。下方を青い柱が滑走する姿はまるで新幹線だ、あんなの食らったらひとたまりもないな。

「空へ逃げるか、往生際の悪い!」

 奴の手が上へと掲げられると通過したはずの炎が軌道を変え空へ昇る。

「げっ、操れるのかよ!」

 追尾を開始した炎は龍を連想させ空中を自由自在に滑る、捕まらないように逃げ回るしかないが予想よりもスピードが早く追いつかれそうになるがギリギリで躱すも高熱故に当たらずとも肌を焼く。ムカつく奴だが魔力使いとしてはもう最高クラスの魔力を持っているらしい、悔しいが力は本物だ。

「我が炎からは逃げられはしないのだ! ふっははは! どこまで耐えられるだろうな!」

 空中移動と回避を連続で使用しているが魔力を使うには体力がいるしこの動きだけでも消耗は激しい、いくら鍛えていると言ってもそろそろ危ないぞこれは。

「劣等種、目の前の事態に注意が散漫となっておるぞ」

 マルスの左手から強大な魔力を感じる、もう一撃を放つつもりか。

「ふっ、炎は一つだけのみとは限らぬ!」

 一つだけで精一杯なのにもう一つ加わったら対応しきれない、今度こそ終わるぞ。

「さらばだ劣等種、我が栄光ある魔力にて屠ってやろう!」

 空を彷徨う炎よりも強力な魔力を俺に目掛け放射、二匹の龍に狙われる。

 一か八か勝負に出るか。液状炎の粘性と伸縮性を利用したのが高速移動だ、足場となる所へと貼り付かせ反動を利用しスピードを増す。それから濃度を下げて貼り付きを解除するのだがその瞬間に足の炎の濃度を急激に上昇させて爆発させる。その勢いで更に加速できるが爆発は足に負担を掛けるからあまり使いたくなかったがそんな場合ではない。これが生死の分かれ目、迷う訳にはいかない。

 空の炎を避け逃れた場所に狙い定めて下から追加の炎が迫る、直撃する刹那足の液状炎を爆発させた。更なる速度を手に入れ下降を開始、今までと違いスピードが上がり過ぎて風景が線状にしか映らない。ただ炎の柱を下る形となるため熱によるダメージだけは確実だった。だが前方の一点だけは見逃さない、目標はマルス、右拳を力いっぱい握りしめて俺の炎と一緒にくれてやる! 奴も更なる加速に対応しようとするが遅い。

「歯ぁ食いしばれ!」

 マルスは炎を盾として防御の姿勢になるがそんなものは関係なく殴った、拳を防いだとしてもこのスピードによる衝撃までは緩和できない。全ての衝撃を受けた容易く吹き飛ぶ、俺と同じく隣りの建物へと吹き飛び壁に激突するもそれすら突き破り瓦礫に埋もれ静まり返る。

 落下によるダメージは液状炎を前に広域展開し伸縮性をクッションにして着地、いや墜落と表現した方が適切だった。空に浮かぶ炎は糸が解れるように消え何事もなかったかと錯覚する程の静けさを手に入れた。痛い、墜落をいくら緩和したからとしても痛いものは痛い、こんな攻撃は一度で充分だ連続使用は控えないと。

「大丈夫かユウヤ!」

 急いで駆け寄るマギアの姿は心配そうにでか弱く映った、いつも心配させてばかりだな。

「ああ、どうにか生きているよ」

「無茶しやがって、しくじっていれば今頃……わたくしが一人になってしまう。だが、無事ならいい、それだけでいいんだ」

「……ごめん」

 暫くマギアには頭が上がらないな。

「謝るな、生きているなら文句はない。それよりもフォティアが心配だぞ」

「そうだな、懸命に上に向かっているはずだからな……シャルールはどうしている?」

「あの女ならまだ気絶中だ、外傷は少なかったし呼吸も安定していたから安全そうな場所に寝かせて来た、その内目を覚ますだろう」

「そうか、ありがとう」

 礼を言いつつ瓦礫の下に埋もれたマルスを一瞥する、静寂を貫いて動きはない。炎が消失したことと魔力を感じないところから恐らく気絶したか最悪の場合死亡したものと考えられた。魔力使いの戦いで死亡する者は珍しくない、常人を超えた力を持った者の宿命とも言える、俺だって殺されていたかもしれないんだ、敵の死まで感傷には浸れない。

 気にしてしまったらやりきれないだろう。

「……行こうかマギア、屋上へ。エクスプロズィオーンってのをぶっ壊してこの事件を終わらせよう」

「そうだな、フォティアは今も戦っている、わたくし達が休む訳にはいかんな」

 体中ガタガタだがこんな状況は今日に限らずいつものことだ、元気出して行くしかないだろう無理してでも。マギアをお姫様抱っこして空中移動をする、屋上まで空から行った方が早そうだった。

 戦闘後の空中移動は辛いものがあるがどうにか目的地まで到着できた、屋上へ降り立ちマギアを下ろして見回すとフォティアはまだ到着していない。金網が四方を囲いヘリポートとしても利用できるこの中央に異質な物体を目撃した、楕円形をした漆黒の水晶に酷似したものが地面より少し浮いる、あれが奴らが仕掛けたエクスプロズィオーンなのか?

「そうだ、フォティアの弟はどこにいるんだ?」

 探してみると屋上の端に小さな体躯が蹲っているのを発見したので急いで駆け付けてみるとそこには男の子が眠っていた、年齢はおおよそ二歳から三歳児の間くらい、そして澄んだ空のような青い髪はフォティアと同じだ。この子が弟のアグノスか、体を揺すって起こしてみるとこれもフォティアと同じように青い瞳が開眼する、まだ眠いのか目を擦りながら不思議そうに俺達を交互に眺めて首を傾げた。

「……だあれ?」

「どうやら無事らしいな……俺はユウヤって言うんだ、君のお姉ちゃんの友達だ」

「ともらち? おねーちゃんのともらち……おねーちゃんどこ?」

「もうすぐ会いに来る、いい子だから俺と一緒に待っていようね?」

「うん」

 人質は無事でほっとした、これでフォティアが悲しまなくて済む。

「むう、な、なんと愛らしい子だ、ああギューッと抱きしめて一緒にお昼寝したいぞ」

「マギアにも母性があったらしいな」

「当たり前だ、わたくしはいつでもユウヤの子を孕む準備はできているからな!」

「子供の前で何言ってんだ馬鹿野郎! とにかくエクスプロズィオーンを調べてみてくれないか? こういう魔道具とかの鑑定とか得意だろ? あれを壊したいが下手に衝撃を与えて爆発されたら洒落にならないからな」

「そうだな、壊せるのであればそうした方がいい。あんなものはない方が世界のためだ。ならちょっと調べてくる……ちなみにだな孕む準備は冗談ではないぞ?」

「わ、分かったから、その話しは帰ってから聞くから行ってくれ!」

 全く万年発情女め。してやったり感を醸し出したままエクスプロズィオーンへと歩んで行くマギアを見送るとアグノスは腹に手を置いて訴えるように見詰めて来た。

「えっと、もしかしてお腹すいたのか?」

「うん、おなかすいた」

「そっか、じゃあお姉ちゃんが来たら何か食べに行こうか、それまで我慢できるか?」

「うん」

「お、偉いな」

 頭を撫でてやると嬉しそうに柔らかな表情をしたのがとても可愛かった、眺めているだけで心が和やかになるな、もし俺に弟か妹がいたらこんな気分だったのだろうか。

 少し時間が経ちフォティアが遅いので心配になり迎えに行った方が良かっただろうかと後悔仕掛けたところに屋上入口の扉が開き疲労困憊状態の本人がようやく到着を果たす、幼い体に病み上がりと最悪の状態だったがどうにかムチを打って辿り着けたのが自分のことのように嬉しい。

「はぁ、はぁ……ア、アグノス……」

「おねーちゃん、おねーちゃん!」

「アグノス!」

 会いたかった人が目の前に現れたことに喜びを体現するかのように元気に走るアグノスは姉の胸に飛び込み姉弟で抱き合う。

「ごめんね、一人にしてごめんね……」

「いいよ、ゆるしてあげるよ」

「うん、うん……ぐす、ありがとう」

「おねーちゃん、ぼくおなかへった」

「ぐすっ……も、もう、こんな時にそんなこと言って……でも元気そうでよかったよ。アグノスの好きなものいっぱい食べようね」

「うん!」

 姉弟っていいな、二人が会うだけで笑顔になれる。もらい泣きならぬもらい笑いをしてしまう、幸せそうで良かった。

 不意に下を向くと護衛として同行していたクロも戻ったので抱き上げてやる。

「ありがとうなクロ、お前の御陰で無事に姉弟が再開できたよ」

『ニャ』

 当然だと鳴く、無愛想だがそこが可愛いんだからな。

 姉弟の微笑ましい光景を後にしてマギアの元へ向かう、鑑定の結果を教えて貰おうか。

「どうだ何か分かったか?」

「うむ、分かったと言えば分かったと思うが」

「歯切れが悪いな、どうしたんだよ」

「そのだな、結論から述べるとこれはエクスプロズィオーンではないぞ」

 なんだと?

「どう言う意味だよそれ」

「言葉通りの意味だ、この魔道具は確かに周囲から魔力を集めているのだがそれと同時に空気中に散布している。前にクロに調べさせた時ここに魔力が集まっていたが収縮点が感じられないと言っただろう? そのはずだ、こうやって散布していたら収縮することすらない」

「だったらこの魔道具はなんだんだよ」

「確かこれは遠方から魔力を集めて近くに散布し、近辺の魔力濃度を上げ魔力や魔術を効率良く使用するために使う補助的な道具だ。本来の使い方は魔力使いや魔術師の中には外から魔力を得て力を発揮する者がいる、この道具なら近くに大量に集めてくれるのだから魔力吸収の効率が飛躍的に上がる、効率を考えたものだ」

「…………なんでそんなものがここにあるんだ、じゃあエクスプロズィオーンはどこに?」

 頭の中が真っ白になりそうだ、ここにあったのは魔力を集めるだけの補助具であり肝心のエクスプロズィオーンではない、なら本体はどこに行ってしまったというのか。そもそもエクスプロズィオーンなんてものは本当に存在するのか、いやあるからこそマルス達が動いていたのだ。なんの切り札もなく街を消滅させられる訳がない、奴らの目的には必要不可欠なもののはず、ならここに何故ない。

 思考がループしマルスの意図が掴み切れずにいると眼を見開くマギアの姿が視界に入る、何を見ている? 何に驚いているんだ? その見詰める視線の方向はどう言うことだ。俺は信じたくない。信じてしまったら抱いてしまった予想が的中してしまうじゃないか、だからそちらへ顔を向けたくない。

 だが現実は冷たい、いつだって俺を置き去りにして勝手に回り事態を悪化させて無力感を植え付ける。何もできない子供に戻ってしまいそうで怖かった。だけど見なければならない、自分の目で理解しなければ未確認のまま置いていかれる、その方が辛いのだ。

 マギアの視線は微笑ましい姉弟に集束されている、笑顔で再会していたフォティアとアグノスは今も仲良く抱き合っている。

 そんな幻想に真実を曇らせようとした。

「ああ、い、いや、あああ、いやぁああああああああああああああああああああ!」

 上映される光景は悲劇でしかない、幸福を手に入れたはずの少女は苦痛の声を響かせて倒れていた。

「フォティア!」

 急いで側に行きマギアがフォティア介抱しようと体を起こすが何が起きているのかが分からない、涙を流し体は痙攣を起こして悶え苦しんでいる姿がとても非現実的で思考が追い付かない。何が起きているんだと考えを働かせようとした時にある変化に気が付いた、フォティアの魔力が跳ね上がっている。

「おねーちゃん! おねーちゃん!」

「何だこれは」

 この問い掛けに答えたのは目論む者だった。

「ようやく実った、やはりキーが役に立ったな」

 傲慢さが滲み出た声は空から聞こえる、やはり爪が甘かった、状態を調べていたならまだ対象する方法はあっただろうに。空中に浮かぶのは先程まで戦っていた相手、マルス・セルモクラスィアだった。

「マルス!」

「中々に愉快な戦いであったが服を汚されたのは些か不愉快ではあるがようやく花を咲かせられた、無礼は許してもよいぞ?」

「そんなことはどうでもいい! フォティアに何をした!」

「我が何もしてはおらん、切っ掛けは与えたがそれからは見守っていたに過ぎぬ。そうなった原因はフォティア自身が招いたことだ、取られまいとして飲み込んだことが発端である。しかしアグノスを選んで正解であった、必ずこの状況を引き起こすと予想していた」

「なんの話をしている! 分かるように言え!」

「怒りに身を焦がすか。いいだろう真実を語ってやろうではないか、もう手遅れであるしな。不思議に思ったであろうエクスプロズィオーンがこの場所にないことに、それもそのはずだ今までそなた達とずっと一緒であったのだからな」

 一緒だった?

「フォティアが飲んだものこそエクスプロズィオーンなのだよ、あれは成長させなければならない魔道具である。体内に入れることにより宿主の体を魔力貯蔵に適させるために作り変える、都市を破壊するには魔力を集めそれを圧縮し一気に解放させなければならぬからな、魔力貯蔵に耐えられる体に適応させるため時間が必要だった。そしてキーを飲ませたのはアグノスである、二人が触れることによりエクスプロズィオーンが発動する、無駄に泣き喚く小僧の使い道はここしかないのでな、ようやくキーとして役に立ってくれた」

 だから返済期間なんてものを設けた、フォティアの体をエクスプロズィオーンにするために手出しをせずに静観していたと言う訳か。源さんはフォティアに違和感を覚えると言った、体が作り変えられている片鱗を感じ取っていたんだ。

「……だからゲームだと偽ってわざと逃がしたな?」

「ご名答、体力の消耗は作り変えを促進させるのでな。だがそなたらと言うイレギュラーが現れたため面倒事になった、しかし実るまでの暇潰しには最適であったぞ?」

「このゲス野郎が……だから罰だと言って階段を登らせたのか、まだ傷も塞がりきっていない小さな子に良くも酷いことができるな! 恥を知れ!」

「よい敵意であるな心地が良いぞ? だが酷いと罵るは見当違いである、フォティアの先祖は元々我がセルモクラスィア家の分家だったのだ。イーグニスと名乗り代々我らのディーナーとして使える一族だ……つまり低魔力の落ちた家柄、劣等種は存在するだけで罪、大いなる魔力を持つ者の恥さらしだ、そのような者がどうなろうと知ったことではない。酷いのはどっちだと言うのか、フォティアの両親もディーナーと使えたが魔力使い同士の小競り合いで命を落としてしまった、低魔力が招いた悲劇だが使えたことは忘れぬ、フォティアとアグノスを今まで養ってやったのだ、これまで生きてこれはのは我の御蔭でありその命をどう使おうと……」

「……もう黙れ」

 これ以上聞いていられるか。

「マギア、フォティアを頼む」

「分かった。なんと助ける方法を考えてみる、フォティアを死なせてたまるか!」

「だよな……俺はあいつをぶっ飛ばさないと気がすまない」

「思いっきりぶん殴ってやれ!」

「くくくっ、なんとかなる訳がない。フォティアは持って数分と言ったところか、止められるものか。ここに設置した魔道具が遠方から魔力を掻き集めた、そこら中に魔力が満ちている、爆発までの時間が短縮されているのだ。絶望せよ、この都市を皮切りに科学を推奨する街を制裁して行く、そなたには何もできぬ!」

「許さない、お前だけは絶対に!」

「許さぬのであればどうすると言うのだ?」

 倒す、だたそれだけだ。すかさず空中移動へと移行、避ける暇すら与えずに全力で炎を拳に覆い殴り掛かる。

 だが怒りに妨げられ注意が行き届かずに気が付かなかった、本来魔力は力の塊だが魔力使いに宿るのは魔力特性、つまり特殊能力が備わっている、それを使用するのが魔力使いの戦い方。通常は魔力使いには一つの特性しか宿っていない、だからどうして炎の魔力使いが空に浮いているのかを考えなかったのが落ち度だ。動作はもう止められず奴の顔が目と鼻の先に迫る、ここまで来たら不用意だろうと殴るしかない。

 殴った、しかし感触はなくそれどころか液状炎が消失しているのが解せない。

「我はそこにはおらぬぞ?」

 殴ったのは空のみで誰もいない、真後ろから語り掛けられる不気味さは鳥肌を招き悪寒を増大させた。振り返ると醜悪に満ちた笑みが焦げ付くように瞳に刻まれた刹那、衝撃が走り屋上へと落とされた。落下によるダメージが世界を傾かせる、胃の中のものを戻し体中が悲鳴をあげているのを耐え、見上げるとマルスはまだ空に残っている。

「法則を知らぬ訳ではないな?」

 台詞を理解できたのはマルスが空中にそれを描いたからだった、一般人を凌駕する者が魔力使いであるが更にその上、魔力を動力源として術式を構築し汎用性を追求した神秘を模倣する再現術。奴の足裏に術を発動させる陣が輝いていた、それを使えるのは魔力使いよりも希少なる存在。

「魔術陣……お前、魔術師だったのか」

「ふっ、我はセルモクラスィア家より久方に生まれ出た上位種たる魔術師である、魔力使いの名門である一族が魔術師を輩出せぬと誰が決めたのだ? 元より我が先祖は魔術師が開祖である、それが残した魔道書は書庫に立ち並ぶ、術式の構築は強力な魔力使いであろうと高難易度を誇る選ばれた者しか使えぬ。さあこれで圧倒的な差が広がったぞ?」

「くっ……」

 魔力使いと魔術師の差は天と地、魔力特性を遥かに超えた現象を引き起こす魔術は差は埋まることはないとまで言わしめる。そんなのは理解している、だが引く訳にはいかない戦いだってあるんだ、俺は逃げない。魔術が届くよりも速く動く魔力を叩き込むしかない、負担は掛かるが爆発による高速移動を決行、奴との距離を詰め逃さぬように全身を包む巨大な炎を散布して襲う。

 だがマルスは動じることすらなく手をかざし魔術陣を起動させそこより極小の火を生じさせると液状炎と接触させた、すると俺の炎は吸収され火は豪炎となりこちらに牙を剥く。

 膨張を続ける炎に高速移動で緊急回避、どうにか成功したが右腕を負傷したらしく数百の針で抉られるような感覚に陥る。一旦距離を開け空中で静止した、やはり頭で分かってはいたが実際に目の前で魔力使いと魔術師の差を思い知らされる。魔術は魔力を糧にしているロウソク程の火でもこちらの炎を吸収してしまう、糧は糧でしかないのか。

「まだ魔術師としての能力開示は序であるぞ? 我が力を噛み締めるがいい」

 魔術陣が発動される、すると鋭く細い刺が無数に空中に浮かび上がり全ての矛先が標的を狙い定めて放たれた。舌打ちと同時に逃げ回るが刺には追尾機能を組み込んでいたようで後を追う、これが魔力特性ならば液状炎で防げるが魔術で作られた刺なら炎を吸収してしまい窮地に落とされるだけだ。

「逃げ惑う姿を眺めるは愉快であるな、さあ我を楽しませよ」

 くそ、逃げても逃げても追い掛けて来るのが苛立たしい、一度下方へと逃げ刺を誘導して光芽タワーに背を向けた、迫る脅威を見定めタイミングよく真横に逃れると刺は曲がりきれずにタワーに激突して小さな穴を開けた。地形を利用すれば魔術だって対処はできる、まだ完全に負けた訳じゃない。問題はどうやって近付くかだ、最速の移動法も打破されたんじゃ容易には行かない、どうしたものか。

 真正面からの突撃はバカ正直過ぎたと思う、なら変則的にすれば勝機が開ける可能性が。

「どうしたのだ、臆してしまったのか」

「誰が!」

 ジグザグに動き徐々に近付く。

「惑わせるつもりか? 面白い」

 魔術陣より頭部程の光球を作り狙いをこちらに定め発射のタイミングを狙っている、それよりも先に潜り込んでやると意気込んで上下左右あらゆる方向へ高速移動、だが向こうは動きに慣れて来たのかフェイントを読み光球を発射、光線となり迫るが紙一重で躱してマルスの真正面へと姿を晒らす。

「終わりだ劣等種!」

 透かさず顔目掛けて液状炎を散布した、だが先程の焼き回しとなり今度は魔術陣を直接触れさせ炎を吸収してしまう、だがそれで良い。

「なっ!」

 間抜けな声に隙を突けたことを確信する、炎に気を取られている間に背中へと回り込み肉体へと直接炎を叩き込む。

 手応えあり。

「燃えろ!」

 魔力の出力を最大にしてマルスの全身を液状炎で塗り固めた、轟々と世界を焦がすような音を奏でて燃え続けた。空間に固定された炎を振り払う術は無いに等しい、フォティアへの残虐を悔いて姿を跡形もこの世に残すな。

 これで戦いは終わりだ、後はフォティアをなんとかしないといけない、魔力を貯蔵して放出するのならば魔力の流入を止めることができればどうにかなるかもしれない、そのためにはエクスプロズィオーンを体内から取り出せれば止められるかもしれない。どうやって取り出すか、マギアとの連携でなんとかなるかもしれないが……。

 とにかくマギアと合流して対策を練ろう、マルスを屠る炎に背を向け屋上へと向かうとするとどういう訳かそこへと向かうことができなかった、体が動かない。

「なる程、魔術師と戦うのは初めてだったか」

 嘘だと幻聴を信じなかった、だが炎へ注目すると苦痛を与えるはずの魔力は段々と収縮して中より現れたマルスの体に吸収されて跡形もなく飲み込まれた。

「ふふっ、ならば覚えておくがいい、魔術師は常に体の周りに魔術による透明な幕を全身に巡らせている、それは魔力使いとの決闘が行われることを想定された対策、殆どの魔力使いを無力化させるのが目的である……つまり最初からそなたの魔力攻撃はこの身には届かぬ」

 攻撃が効かなかった事実と絶望をもたらす言葉に動揺した、ここにいるのは危険だと判断したが既に遅すぎた。体がどうやっても動かない、どうなっていると体を確認すると両腕両足に何かが巻き付いていた。

 左右に魔術陣が輝きそれから伸びる青いアメーバ状の魔力が腕と足に巻き動きを封じている、いつの間に。

「魔力使いであるそなたには我との戦闘はさぞ辛いものであろうな、だが仕方あるまい劣等種である自分を恨め、そらこれはプレゼントだ」

 アメーバが膨張し発光して視界から風景を剥ぎ取る、それと同時に爆音と激痛が腕と足に噛み付いた。

「がああああああっ!」

「爆破は痛いであろうな、これこそ魔術師の真髄なり。魔力使いでは魔力の特性のみを駆使しなければならないが魔術師はそれがない。魔力を組み換え新たな事象を引き起こす、我も炎しか使えなかったが魔術師になってからは今までの縛りが消え魔術によりあらゆる可能性を内包することができたのだ。このように魔力をアメーバに変換して動きを奪い爆破させることもできてしまう……我はセルモクラスィア家に恥じぬ当主、それを汚す者は許さぬ。さあ、まだこちらの攻撃は終わってはいないぞ? 簡単に殺すと思わぬことだ」

 爆発したアメーバは細かな粒子となって拡散し体中に貼り付いていた、それが次々と規模の小さな爆発を繰り返す、これらはさっきよりも弱いが重い拳を全力で受けているかのような衝撃が伝わって意識が飛びそうだった。

「がっ、ぐぅ、がぁああああ!」

「くくくっ、そなたの声は我が子守唄、心地よく体の隅々まで染み渡る極上の悦であるな。愉快、本当に愉快である。さて、これは耐えられるであろうか、まだ死ぬでないぞ?」

 連続爆破が止むがマルスが眼前で興味津々とこちらを覗き手の平を覆う球型のアメーバを差し出すと光を放ち世界を侵食する如く弾けた。

 記憶が飛ぶ。

 混濁する意識が正常に機能して気が付くと俺は光芽タワーの屋上で仰向けで倒れていた。どうしてこんなことになっているのか、体を動かそうとするが全身に痛みが住み着いて動きを制限する、重い瞼をこじ開けて体を観察すると服はボロボロで全身傷だらけ、ああそうかと状況を飲み込んだ。

 俺はあの大きなアメーバの爆発を受けて意識が飛んだのだ、多分爆発の影響で拘束していた魔術も解け屋上に落ちたのだと思う。笑ってしまう程に動けない、さすがにこれは絶体絶命って言葉がしゃしゃり出てくるな。

 魔力も通じず動けもしない。無力だと嘆いていると側に誰かがいることに気が付く、そこへと意識を向かわせると一目で安堵を得た。

「ユウヤ……」

「マギ、ア……」

「しっかりしろ、ユウヤがいなくなってしまったらわたくしは生きる意味をなくしてしまう」

 目に涙を浮かべる彼女の姿に申し訳ない感情が芽生えた、悲しませてしまったと自分を恥じて謝罪を口にする。

「…………ごめん」

「生きているのならそれで良い……」

 そう言って治療魔力を使う、少しずつ痛みが和らぐがこの重傷を完治させるには時間が掛かり過ぎる。

「息があるのは僥倖だ、よくぞ生きていた」

 屋上へと舞い降りたマルスは俺達を一瞥して歓喜していた。

「まだ死なれては困る、そこの劣等種はあらゆる苦痛を与えた後に殺してやるのだ、治療を急ぐがいい、そしたらまた始める。それまでは待とうではないか、更なる苦痛を与えられるのであれば我はいくらでも待つ……ただフォティアが爆発するまでの刹那であるがな」

「何が……何が更なる苦痛だ」

 マギアが怒りに震えていた、敵意を視線に乗せ敵を穿つ。

「自分勝手なことばかりを述べて何が苦痛だ! 我が身可愛さのためにわたくしのユウヤを傷付けたことを絶対に許さない、フォティアを弄んだことも許さない!」

「そうか、しかし女よそなたらに何ができるというのだ? 次はそなたが戦ってみるか?」

「ああ、望むところだ!」

「ば、馬鹿なことを言うなよマギア……お前を戦わせることはできない。俺が守るって決めているんだ……それに今のお前では無理だ」

「そうだが……でもわたくしはあいつは許せない」

「ふっ、どうするのだ? 制限時間が迫っているぞ?」

 フォティアは未だに苦しんでいる、時間もない。

 だからやれることは一つだけ。

「……マギア、接続してくれ」

「なっ、ダメだ、そんな体でそれをしてしまったら……死ぬぞ」

「本の少しだけだ、頼むこのままじゃフォティアが死ぬ、それだけじゃないこの街が消えてしまう……俺はマギアとの生活を失いたくない」

 遠く思いを馳せた旅路の終着点であり幸福の始まりである彼女の存在こそが希望、それを簡単に手放せるものか。俺の駄目な部分すら受け入れてくれた彼女との未来はこれからなのだからそれすら守れなくて幸福はありえない。

「死にはしないさ、俺はまだまだマギアと一緒にいたいからな、これから先も永劫に」

 少しだけ表情に迷いを滲ませたが俺の決意は変わらないことを誰よりも知っているのはマギアだけだ。

「……全く、ユウヤの頑なさは筋金入りだな。でも今に始まったことではないか、分かった、承諾するぞ、但し限界だと思ったら直ぐに止めるんだぞ?」

「分かったよ……ありがとう」

 治療を切り上げてもらい立ち上がるが世界が揺れている、足にあまり力は入らないし時々風景が二重に変化してまともな戦闘は望めないだろう。

「何やらの交渉は終わったか?」

「……待っててくれるとはご丁寧なことだな、それが高貴なる者の余裕って奴か?」

「そう受け取ってもらって構わぬ、獲物を狩る過程が楽しいのではないか」

「やっぱりゲス野郎だなお前は…………マギア、始めよう」

「分かった。ユウヤ、魔力は空か?」

「ああ、殆んどないよ」

「なら条件は整った。八番目の例外、受け入れるか?」

「受け入れる」

 双方の合意が果たされた証を立てるため唇を重ねた。

 胸が熱い、それが全身に広がって焦がして溶かすように浸透する。空だったものに魔力が注ぎ込まれて器を満たす、意識下で集中させると彼女のとの繋がりを強く感じた。そこより放たれる神秘さに触れ身に固定させ顕現する。

「正常に繋がった、ユウヤ、数分、もしくは数十秒が限界だろう……気を付けろ」

「ああ……」

「待たされたぞ、覚悟はできたのであろうな?」

「無駄口は聞いてられない、時間がないんだ」

 自分の体に発光する筋が枝分かれして浮かび上がり灼熱の中へと突き落とされたように体温が上昇して行く、血液が沸騰しているようで息苦しい。これが受け入れた結果か、擬似的とは言えこんなにも苦しいのか。

 体の変化にマルスが怪訝にこちらを伺う。

「なんだそれは……体に光の筋、それに先程までの微弱な魔力が回復している? いやこれでは回復ではなくむしろ……増えているのか?」

 敵対者を視界に捉え込み上げるものを吐き出すように解放する。

「な、に?」

 驚愕するマルスは唖然と眺めていた、有り得ないと瑣末に切り捨てればどうにかなるとは限らない世界だ、そこにあるのは真実でしかない。マルスの周りの空間が歪む、分離し変異を経て液状に酷似した炎を誘発させた。

 素早くそこから逃げ出すマルスだが炎はどこまでも追い掛ける、ならば逃げる先に炎を生じさせればいい。逃げ場所を視認して凝視すると新たな炎が産声を上げた。

「ぬう、小賢しい真似を!」

 魔術陣を起動させ炎の無力化を試みた、触れた瞬間に陣は破壊されて砕け散る。

 それは魔力にあらず。

「なっ! 馬鹿な、これは魔術陣であるぞ、魔力が陣を破るだと! 有り得ぬ!」

 液状炎は濃度を上げると空間に貼り付く性質を有している、しかしなぜ濃度を上げるとにとで張り付こうするのか、それは本来の姿を取り戻そうとしているからだ。厳密に液状炎は炎ではない、沸騰したように燃え盛って映るのは空間へと戻るために空間を探しも求めて動き回っている姿、その際空間と空間が触れ合う時に生じる摩擦熱が対象者にダメージを与える。

 つまり液状炎は空間そのもの、空間に手を加えれば炎をどこでも生じさせられる。だがこれは魔力使いには到底再現できない、無論魔術師だろうと難しいだろう。何故なら空間を制御することは魔術の領域を超えているのだから。

「おのれ、何をした!」

 地と空に魔術陣を敷き魔力を硬質化させた棘とアメーバをけしかけた、ならば遮る形で炎を生じさせそれらを防ぐ。

「ぐっ、何故こうなる、そなたは何をしたのだ、一歩も動かずに炎を生じさせるなど有り得ぬ、魔力使いならば直接その場所で発動させなければならない、魔術師だろうとそれは同じ……ならばこれはなんだ、この奇跡のような事象は、これではまるで…………ま、まさか、だが有り得ぬ、希少中の希少がこのような場所にいるとは……そこの女と口付けをしてから変わったな、まさか、そなたは世界に七人しかいない存在なのか」

「……偽るつもりはないが少し違う。わたくしは『例外』だ。そう言えば分かるだろう」

「そなたが『例外』だと言うのか……」

 魔力使いと魔術師を超える者が世界に七人だけ存在している、その名前は魔女。

 魔力世紀よりも更に昔、神秘そのものである魔法を使える魔女と男の魔女である魔人が繁栄していた古代の時代があった、世界の仕組みさえも変化させかねない魔法は現代の常識を全て否定する法則だが、とある存在が現れたことにより魔女は衰退の道を辿る。

 それこそ『例外』と呼ばれる魔女だった。

 ある一人の魔女は世界最高の魔女となるために魔女を殺す存在を創り上げた、目には目を歯に歯を魔女には魔女をと人工的に生み出した魔女殺しの魔女、それがマギアだ。創造主の命令を受けて魔女を殺し続けたマギアは当時自我と呼べるものがなく文字通り操り人形として命令を実行し魔女を七人を残し他は全滅させた。しかしただ殺すだけの日常に疑問が生まれ意思が宿り殺したくないと創造主に叛き怒りに触れて遺跡に封印されてしまったのだ。しかし魂だけは体から抜け出し難を逃れたが魂だけの状態では世界に溶け出し霧散してしまうため御しやすい小動物などの体に逃げ込む。

 何百年もの膨大な時を過ごし肉体を変えつつある時乗り移ったのがクロだ、憑依したクロと小さい頃の俺が出会い今に至る。

 魔力は世界の常識を変え、魔術は世界の事象を再現し、魔法は世界の法則を塗り替える。

「例外魔女、魔女殺しの魔女、まさか実在しているというのか」

 マルスは動揺しマギアを驚愕の眼で見詰める。

「こうして目の前にして信じられないならば愚かと呼ぼう」

「愚かだと? 我は、我は長年セルモクラスィア家から輩出しなかった魔術師となったのだ、凡俗とは違い我こそ魔力世紀を呼び戻す先導者なのだ! 女、そなたが魔女だとは認めぬぞ、我こそが魔人に相応しい!」

「本当に愚かだ……魔術師よ、所詮魔術は魔法の模倣、再現術では奇跡には遠く及ばない」

「ぬぅ……た、確かにそうだな、魔術は魔法の模倣、それを再現する術式。だが、そこの男はどう言うことだ! ただの魔力使いが魔法だと? こんな馬鹿なことがある訳がない!」

 最もな意見だ。体内に魔法を宿しているマギアは封印された時に離反を予見した創造主が細工を施し自分では使うことはできない、だが俺とマギアは体も心も何もかも全てを互いが共有するフェアトラーク、つまり契約を交わしている。

 魔法を譲渡できるようにするには条件があり一つ目は互の了承、二つ目は俺の魔力が低下すること、強大な力を受け入れるにはこちらの容量を開けておく必要がある。例えるならコップに入った水に新たな液体を注いだところでこぼれ落ちてしまう、だから空にして受け入れると言う理屈だ。三つ目の条件は二人の間に魔法的なラインを直接築く必要がある、それがあの口付けだ。

 条件を満たすことで擬似的に魔女化を果たす。俺は男だから魔人と呼ばれる存在へとシフトすることになり魔力使いと魔術師を一時的に凌駕する。

 無尽蔵とも称せるマギアの内部は大質量の魔法が封印されている、そこから俺達の間に通っている見えないラインを経由して魔法を使う、俺なんかは全盛期のマギアの足元にすら届かない半端物、それでも無理を通している。魔力使いの体に魔法を通わせるのは自殺行為と同じ、使い続ければ体は魔法に耐え切れずに崩壊を始めてしまう。

 だから時間がない、急いで奴を倒すしかない。

「ごちゃごちゃ言ってるなよ、お前高貴な人間なんだろ? だったら……」

 不意だった、言い淀み言葉の続きではなく吐血し目眩が脳天を掻き回す。

「がっ、ぐぅ……くそ、そろそろやばいか……」

「……くくっ、なる程。動揺してしまったがそれは杞憂であったか。それなりの代価を支払わなければならぬのか、ならば勝機はあるか」

「ユウヤ急げ! そのままでは……」

「分かってる……」

 俺とフォティアの限界が近付いたいるなら小技ではなく一気に片付けるだけだ、この魔法は視界に映る空間を自在に解き液状炎を生じさせる。距離などは関係ない目に映るもの全てが効果範囲、見えている限り逃げ場はない。マルスを睨み付けると魔法を使うと察した奴は足の下に魔術陣を展開して空へと逃れた。

 逃がさない。視線による追撃を開始し見定めようとしたが奴も馬鹿ではない視界に映らないように光芽タワーの下へと逃れた、追い掛けたいが力尽きる確率は跳ね上がってしまうので無駄な力は使いたくはない。時間すら利用してこちらを狙おうとしている、これでは先程の俺と真逆の立ち位置か、運命があるならば皮肉が好きらしいな。

 どこから襲ってくる? 神経を研ぎ澄ませ、五感をフル活用して手掛かりを掴め。警戒を続ける中で五感の一つがあるもの感じ取った、聴覚が屋上の入口に迫る音に意識を促す。足音、誰かが登って来る。

「なんだこりゃ、何が起きていやがるんだ」

 階段を上がり扉を開け放ったのはシャルールだった、マルスとの戦いで半壊している屋上を怪訝に眺め現状を確認しようとして苦しむフォティアを発見した。

「フォティア!」

 走り寄ろうと駆け出す彼女に一瞬視線が行ってしまうと集中力が途切れた、しまったと立て直そうとしたが左肩を光の線が走り痛みを置いて行く。鮮血が風に舞い肩には穴が開き魔術の痕跡である陣が空中に浮かんでいる、光線らしき魔術を使ったのか、痛みに耐えているとどこからともなく声が響く。

『どうやらそなたは魔法を使えたとしても肉体的には魔力使いと同等、もしくはダメージによりそれ以下となっておるようだな、魔人には遠く及ばず擬似的になっているに過ぎぬという訳か。やはり劣等種、フォティアが爆発するギリギリまでそなたを痛め尽くしてくれる』

 聞き捨てならないことを聞いたシャルールは声に問い掛けた。

「フォティアが爆発……? そりゃあどういうことだよ!」

『ふん、ディーナーの面汚しがよく吠える、そなたはもう息をするのも大罪だ』

「なんだよそりゃ、今までのは嘘だったのかよ! フォティアが悪さをしたって!」

『くくっ、偽りの記憶に翻弄される愚か者め、そなたはフォティアと一緒の運命を辿れ』

「……畜生、馬鹿にしやがって!」

 全身を炎に包み元主に向かい戦うと体で示した。

『我に逆らうか、身の程を知れ!』

 俺を攻撃した空中魔術陣はシャルールへと向きを変え光を集め放とうとしていた、それを炎で防ごうとシャルールは身構えているがあれは魔術、魔力使いでは止められない。

 彼女が死ぬ、俺の目の前で死ぬ、殺させてなるものか死なせない死なせないシナセナイ。

 歪む思考に体は従い体力など考えもせずシャルールへと近付き身を突き飛ばす、直後、魔術陣により降り注ぐ無数の光線が体を貫く。

 左脇腹、右太腿、右腕、左足首を通り過ぎ代価を奪うように血を撒き散らす、うつ伏せに倒れ地を赤く染め上げた。

「ぐぅ……」

「な、何してやがんだ、オレなんかをどうして助けた!」

「……フォティアがお前を姉のように慕っている……フォティアためだ」

 それもあるが体が勝手に動いた、目の前で女に死なれたくない。

『くっはははは! 面白いぞ劣等種、自己犠牲とは愉快過ぎて馬鹿でしかないぞ。その体では動けまい、今楽にしてやろう』

 空中に強大な魔力が広がって行く。

「なんだこりゃあ!」

 シャルールの声に反応して辛うじて動く首を動かして視線を上空へ、そこには無数の魔術陣が埋め尽くし今にも発動しそうだった、おそらく空を移動する時に予め魔術陣を設置して遠隔操作できるようにしていたのだろう。体がボロボロでも冷静に思案できるものだな、シャルールは見開いて絶望の光景を見詰め、フォティアは苦しみに耐えている、アグノスはフォティア側で姉を呼び続け、マギアは俺と視線を絡ませた。

 ずっとマギアを求めて旅をして来た、この世界でたった一人の理解者。このまま黙って死んでやれない、まだこの日常を謳歌すると決めているんだ、俺がなくしてきた幸せをマギアと永劫に。

「…………マルス、お前は……本当の魔法を理解していない」

 魔法は世界の法則を塗り替える。

 最後の力を振り絞って仰向けとなりマギアからのラインを通じ魔法を取り出し上空へ意識を集中させ睨む、瞳から赤い涙を流しながら魔術陣で埋め尽くす空間を捉え屋上から垣間見える全範囲の空間を崩して液状炎を誘発させた。

 絵画に亀裂が入るかの如く空が裂け、そして燃える。それに巻き込まれ術式を捻じ曲げ魔術陣は効力を失い消滅の道を辿る。魔法の反動でまた吐血。

『お、おのれ!』

 微睡みが深淵に引き摺り下ろそうとしている状況でマルスの声を手繰り寄せた、どこから聞こえるのか。動かない体なら使わなければいい、神経を集中させ聴覚から得られる声の波長を視野に反映し波として映し出すとそれは屋上を離れた遥か下方、発生源は充分過ぎる距離を取り魔法を警戒してるのだろうがそれは無意味だと教えてやらなければならない。

 立ち上がることができなくとも移動手段はまだ残されている、液状炎は炎ではなく空間そのもの、全身に纏わせ肉体と空間の境界を濁す。空間は俺の体、世界が繋がっているのならそこは全て俺の肉体。声の波紋を辿り手を伸ばす感覚でマルスが漂う空間と自分を繋げた。

 視界が歪むと同時に新たな風景が眼前に広がる、そこは空中の真っ只中、重力すら寄せ付けない。動かせなくとも空間そのものとなれば移動できる、眼前にマルスの全身が晒されていた。

 逃げられないように奴と俺を液状炎で囲み一体一となる。

「ぬうっ! 馬鹿な、どうやってここに!」

「魔法は法則を塗り替えるんだ、これは再現ではなく奇跡そのものを起こす……終わりだ」

「終わりだと? そんな言葉は我には適用されない!」

 全身を覆う程の魔術陣を展開し青い炎を高出力で発射、しかしこの身に触れることはもうない。炎は体をすり抜け液状炎に触れて砕け散る。

 空間を捻じ曲げ逸らした、あいつの目からは貫通したように映るのかな。

「わ、我の炎が……」

 魔術は魔力に触れると糧として吸収するが魔法は違う、魔法は法則を塗り替える、ならばそれは法則そのもの、それだけで完成された力は不純物を受け付けない。故に魔力、魔術に触れたなら拒絶され崩壊させてしまう。

「魔法はそれ自体で完成された法則、法則を壊すのは法則だけ、再現術では及ばない領域」

「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」

 魔術の連続使用、しかし結果は同じ。

「わ、我は世界を統べるべき高貴なる存在! 高貴なる、高貴なるうううううう!」

 聞くに耐えない。

「もういい、消えろ!」

 壁として機能させていた液状炎をマルスへ集結させ圧縮、高温と圧力の狭間に悲鳴を残して消え去った。

 安堵するがまだ終わりではない。急ぎ俺の空間を屋上の空間へ繋げそこへ体を送ると最後の仕事をするためにフォティアの側に落ちた。

「がっ、痛ぅ…………マギア、フォティア……を、助けられないのか……」

「……擬似魔人化しているユウヤの力を借りればなんとかなるかもしれない、これは最後の賭けだ」

「俺はマギアに従う……どうすればいいんだ?」

「これはフォティアの合意がないとできない……フォティア、苦しいのは分かるが聞いてくれ、今からユウヤと使い魔としての契約を結ぶ、それに合意して欲しい。そして女、わたくし指示に従え、フォティアを助けるためだ、いいな?」

「……わ、分かった、フォティアのためだな!」

 使い魔なると言うことは契約者の従者となることだ、だが何故俺と契約させるんだ?

「答えろフォティア、ユウヤの使い魔として契約を結ぶか?」

 あまりの苦痛に会話すらできないが首を縦に降る、契約を結ぶと合意したのだ。契約とは互が納得して初めて生まれるもの、それをしなければ契約は結べない。

「ユウヤ、契約を結ぶか?」

「ああ、結ぶ」

 フォティアの手を取り意識を集わせる、魔人となっている今は契約を結ぶならば魔法的なラインを通わせ繋がりを持つことになりフォティアにある程度干渉することができる、体を操ることも使い魔の能力を使用することも含まれる。傀儡となり果てるとさえ言われる使い魔の契約、それを結ばせる意味とは?

「よし、契約は完了したな、フォティアとユウヤの間に魔法的な繋がりを感じる。ここからはユウヤの出番だ」

 俺の出番? そう言われた瞬間に何をすべきなのかを理解した。

 意識を集中させ新たに繋がったラインを通じフォティアの魔力を感じ取る。大量の魔力が一人の少女に集まり塊となる感覚は苦痛でしかなくその苦しみも伝わった。無理やり詰め込まれて行く悲劇は止めさせなければならない、意識を敏感にしろ、フォティアの魔力を掻き分けろ。

 その中の異物に全神経を傾けた、これこそ彼女を苦しめる原因であるエクスプロズィオーンだった、俺と使い魔の契約はこれを見付けさせるため、魔法で繋がった状態ならフォティアの魔力を探りエクスプロズィオーンに辿り着かせる策だったのだ。後は俺次第、エクスプロズィオーンだけを外へ移動させる。

 元凶の魔道具に意識を集わせその空間だけを囲い外部の空間と接続、迅速に正確に送り付けた。体の中から外気へと曝された魔道具は球型の白い半透明の宝石と言う形状、フォティアの真上で禍々しい輝きを放っている。

「今だ女、その魔道具をぶっ壊せ!」

「これがフォティアを苦しめていたものか! 壊れやがれぇ!」

 シャルールの炎が魔道具エクスプロズィオーンへ、威力に耐えられず宝石は木っ端微塵と化した。

「壊してやったぞ! これでフォティアは助かるんだな!」

「いやまだだ、圧縮された魔力がまだ体内に残っている、ユウヤ、フォティアの魔力をユウヤを経由して私に流せ!」

「そんなことしたら……体に負担が……」

「口答えはするな、わたくしなら大丈夫だ。わたくしを信じろ」

 信じろか、俺は疑ったことなんかない。言われた通りにフォティアの魔力を通してマギアへと流し始める。すると俺の体の皮膚が裂け血が噴き出す、擬似的魔人化の影響と膨大な魔力の相乗効果で体への負担が大きい。中継する俺が先にダメになりそうだ。

「ユウヤ、耐えてくれ」

 マギアだって苦しそうにしているのに俺が駄目になってどうする、意識が続く限り歯を食いしばって耐えてやるさ。

 集中と我慢を積み重ね小さな命を守るために痛覚を伴い意識を飛ばさないよう懸命になる、それが報われるかのように体の負担が軽くなり周りの声が遠ざかる。

 どうなったと瞼を開けようにも開きはしない、ただマギアに呼び掛けられているような気がする。もしかしてこれって血を流し過ぎたって奴か? フォティアはどうなった、マギアは? シャルールはどうしているのか、アグノスはまだ姉を呼び続けているのか。

 情報を得られず不安だけを残して俺の意識は奈落に落ちる。

 深く飲まれて行った。


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