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テレジアからの手紙

ミゲル・アンダーソン。

彼は、この国の側近騎士。年はルイ王子と同じく20歳。

幼い頃から、ルイ王子と共に育てられ、気心しれた友人でもある。


そんなミゲルの話で、城の中は一色になっていた。


得にルイ王子と並んでいる姿が城のあちらこちらで見られるとなれば、使用人たちのむれはその度に現れては消えていた。


ヴァレリーはそんな様子を見ながら、城の郵便受けへと手を伸ばしていた。

それを持って、バモフトの所へ。それをチェックしたバモフトが、一枚の封筒をヴァレリーに差し出した。

差出人は、テレジア・モレッツ。そう書いていた。


少し厚みのある封筒に書いてある字は、確かにテレジアの字に間違いなかった。

ヴァレリーはテレジアの字を見ただけで、懐かしさがこみ上げてくる。

そっと、便箋をひろげると、ゆっくりと目を通した。




「ヴァレリーは何処に行った」

城の一室、ミゲルと話していたルイ王子は、しばらくヴァレリーの姿をみてないことに気づいた。

「あの娘が気になるか?」

ミゲルがそう言うのも無理はなかった。少なくとも共に成長してきて、勝手に噂話を広げられる事や、恋文をつきつけられる事は互にあったけれど、こんな風に一人の女の事を気にかける素振りを見たことがない。

「俺の専属だからな」

「ふうん」

少なくともヴァレリーよりも付き合いのながいミゲルが、本人さへ自覚していない感情を見つけていてもおかしくはない。

けれど、ルイ王子の性格を誰よりも熟知しているのも彼であって、このまま話をしていたとしても、進展はないだろうと判断した。



手紙には、アルバンタ王国の様子がかかれていた。

自分は元気にやっている、城の皆は相変わらずで、つい最近街にいくと、教会の子供達に、沢山の積んだ花の束をもらったこと。厨房のアマーリアおばさんの煮込みシチューは相変わらず絶品で、ヴァレリーも恋しくなっているだろうと思っているこど、皆、元気でやっている・・・・・・と。


「うそ・・・・・・ばっかりっ」


くしゃりと手紙を握しめるヴァレリーの手は、震えていた。

泣いてちゃいけない・・・、泣いたりしたら、テレジアにきっと笑われてしまう。


でもこらえきれない思いが、ヴァレリーの感情を制御できなくしてしまう。


便箋には、いくつもの擦った跡が消しきれず残されていた。ぽたりと滲んだテレジアの跡。

滲んだ便箋の色をそっとハンカチでふきとった跡。

封筒の中には、押し花のしおりがいくつもあった。ヴァレリーはそれをきゅっと握り締めた。


「ヴァレリー」

背中越しに呼ばれた名前に、ヴァレリーはハッと正気に戻った。

くしゃくしゃにした手紙をポケットにしまいこむと、頬に流れている涙を乱暴にこすった。

「も、申し訳ありません」

手紙に没頭していたとは言え、勝手にいなくなってしまった事、今自分はルイ王子専属の使用人である事を忘れていた。


顔をあげたヴァレリーの瞳は、隠しきれないほどに真っ赤になっていた。

ルイ王子は何もしらない。けれどバモフトから受け取った手紙を最後に消えたということは知っている。

ルイ王子は、濡れた涙の筋にそっと触れた。


「お前はいつも泣いてんな」


ルイ王子の言葉が的を得ていて、ヴァレリーは顔を背けた。

こんなんじゃ駄目だ。こんなんでは国は守れない。

「もう・・・・・・泣きません、二度と」

ヴァレリーの決意を聞いたルイ王子はふわりと笑った。触れた頬をつねる。

「そんな顔で言ったって、説得力ねえよ」



顔を洗ったあと、ヴァレリーはルイ王子とミゲルの待つ馬車へと乗り込んだ。

ヴァレリーの向かい側に座っているのは、ルイ王子とミゲルだ。確かに二人が並ぶと、なぜか圧倒させられるものがある。

使用人達が騒いでいたのも、納得ができるような気がする。


ミゲルはルイ王子と比べると、よく話すような気がする。

というより、ルイ王子の口数が少ない分、そう思えてしまうんだろうか?


「ヴァレリーちゃんは、一人っこなの?」

一人で考えていると、いきなりミゲルからふられた質問に、ヴァレリーは驚いてしまう。

「え、あの、妹が・・・・・・います」

この二人を前にして、何もかもを嘘でかためる気にはならなかった。

「へえ、きっと美人なんだろうね」

テレジアは美人だ。ゆるやかにウエーブしている髪をみて、何度羨ましいと思ったかわからない。

でもそんなテレジアを一番に大好きなのは、ヴァレリー。だから自然と表情が明るくなった。



今日の業務は、とある伯爵家にと訪問すること。


三人が馬車から降りると、メーリング城まではいかないけれど、真っ白な豪邸の敷地が広がっていた。

馬車を降りたルイ王子に続き、ミゲルが、そしてその後にヴァレリーが続いた。


「リットン家へようこそ」

大きな門をぬけると、ずらりと並ぶ使用人の真ん中を歩いていく。

その一番後ろに並ぶヴァレリーの顔が、少々戸惑いにつつまれている。


(リットン家ですって?)

ヴァレリーは確かにその名前に聞き覚えがあった。そしてまもなく、その思いは現実となる。

大勢の使用人の真ん中、伯爵とそのご子息である二人が、ルイ王子達を招き入れた。


「ようこそ」

リットン家の主、その隣にいる人物を見るなり、ヴァレリーはその場に背を向けた。

「ん? ヴァレリーちゃん、どうしたの?」

あきらかに様子がおかしいのは、その場にいる誰もが気づいている。その中でも、隣にいたミゲルがヴァレリーに声をかけた。

ヴァレリーは声を出したくないと、背をむけたまま首をふっている。その背中には私に関わらないで。そう書いていた。

しかし、そんな事は通用するはずはない。背に向けられた鋭いルイ王子の視線に耐えられずヴァレリーは踵をかえした。

瞬間、リットン家のご子息、ガルムと視線があってしまう。


もし、今、視線をそらせば、これ以上あやしい事はない。十分におかしい態度していたヴァレリーだけれど、にっこりと微笑んだ。

「はじめまして」

深々と頭を下げ、頭をあげると、目の前にはガルムがいた。

ヴァレリーにも負けず劣らずに笑った。



リットン伯爵とルイ王子が応接間で話をしている間、ヴァレリーは庭にある池をじっと見ていた。


ガルム・リットン。ヴァレリーは確かに彼に会っていた。

アルバンタ王国に彼が訪問した際、本当ならばテレジアが接待する予定だったところ、流行り風邪にかかってしまい、急遽ヴァレリーが接待することになった。


(まさか、こんな所で・・・・・・)

自分でも気づいたんだ、向こうが気づかないはずがない。


「ヴァレリー様」

この声と呼び名、ヴァレリーは振り向かなくても気づいた。

この状況で、返事をしてもいいのか、しないほうがいいのか、でも、気づかれているし、ごまかせない。

思いが巡るヴァレリーの背中は何も答えをだせずにピクリとも動かない。


「何をしているんですか?」

声はヴァレリーのすぐ真後ろから聞こえた。一瞬、冷や汗が首に流れたような錯覚さえおこす。

ほんのさっき、ようこそと出迎えた声とは程遠いほどの低い声。

息を飲み込むのが精一杯のヴァレリー。


「こんな所で会えるとは思いませんでしたよ」

ガルムが一言、ことばを口にするたびに、ヴァレリーの背筋に汗がつたう。


「ヴァレリー」

ヴァレリーの後ろ、そのガルムの後ろからの声。

すっと、ガルムはヴァレリーから距離をとった。それもごく自然に。


まるで、そこに何かあって、さも取り上げたような振る舞いをみせると、ガルムはヴァレリーに深く頭をさげた。

その足はルイ王子の元とへ。一礼をし、何事もなかった様に横を通りすぎた。


「ヴァレリー」

ルイ王子の声がヴァレリーの背中にかかる。

聞こえていないのか、聞こえているのか、聞いてないのか、ヴァレリーの背中は何も反応を見せない。


「おい、ヴァレリー、聞いて・・・・・・」

「いやっっ!!!」

当たり前に触れてくる掌を、初めてヴァレリーが振り払った瞬間だった。




・・・・To Be Continued・・・・・

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