表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/54

対等する権力

触れた熱が冷めないままに、ヴァレリーは眠りについた。翌朝、ゆっくりとベットから起き上がった。

足に巻かれた包帯の中の痛みは、もうほとんど消えていた。


クローゼットの中にある使用人の制服をとる。そしてゴールドプレートを手にとった。


長い廊下を、食器を乗せ、ワゴンをつきながら歩く。

個室の扉をひらくと、まだそこにルイ王子の姿がなくてホッとしたヴァレリーは、慣れた手つきで食器をテーブルに置いてゆく。

そして、部屋をでると同時にルイ王子と、ばったりと鉢合わせになってしまい、ヴァレリーは息を飲み込んだ。


「おはようございます」

大丈夫、私は普段通り。

そう思いながらも、ヴァレリーは横を通りすぎたところで、ルイ王子の声がかかった。

なんでしょうかとの声に、ルイ王子はヴァレリーに、ホットコーヒーを頼んだ。

承ったヴァレリーが、その部屋を一旦出ると離れの厨房へ、そして支度がすむとルイ王子の元へと運んでいた。


すると、部屋の中から聞き覚えがある声が聞こえてきた。思わずヴァレリーは、耳を近づけ聞き耳をたてた。

「お兄様、一緒に買い物にいきませんこと?」

この声を知っている。もう二度と聞きたくない、そう思いながらも鼓膜の奥に残っている声。

ヴァレリーの足は、硬直したようにうごかなかった。扉の向こう側には、ルマノがいた。考えてみれば当然の事だった、ルマノはルイ王子の妹であり、このメーリング王国の王族。


(に、逃げなきゃ・・・・・・)

反射的にヴァレリーは思った。

「ガチャンっ」

焦るヴァレリーの手にあたってしまったワゴンは、揺れると同時に、ホットコーヒーをこぼした。

大きな音がなってしまった事、間違いなく中に聞こえてしまった、でも早く逃げなきゃ、思うヴァレリーはますます焦ってしまった。


すると内側からドアが開かれた。ヴァレリーはその顔をみて驚いてしまう。けれどヴァレリーよりも驚いているのがルマノだった。

「あなた・・・・・・」

数日前にクビにして城から出て行ったと思った人間が目の前にいる。

さっきまで、甘くねだっていた声は、あの日の晩と同じように低かった。


顔から血の気がさっと引いたヴァレリー。

逃げなきゃと思う足は、その場から一歩だって動いちゃくれない。

その間にも、ルマノの血相は変わっていく。

「あ、あの・・・・・・」

この場で、ルマノにたいして、どんな言い訳をしても許してもらえない事はわかっている。口をわなわなとさせるルマノは、今にも癇癪を起こしそうだ。

「ヴァレリー」

凍っていた空間を一瞬で溶かしたのは、ルイ王子の声だった。

動かない足をそのままに、ヴァレリーは視線をそちらへと移す。


「待ちなさいよ」

この場から逃がさない、そんな瞳をしているルマノの視界に、ヴァレリーの胸のプレートが見えた。

「なぜ貴方がこれを・・・・・・」

ルマノは信じられないようにルイ王子の方をみて、もう一度視線をヴァレリーの方へと移した。

信じられない、ルマノの瞳はそう言っている。けれどその言葉をヴァレリーにいう事はなかった。

ルマノはドレスを翻し、ヴァレリーに背中をみせた。


残されたヴァレリーは、呆然と立ち尽くしている。

ルマノは胸のプレートをみると、驚いていた。ヴァレリーが、そっとプレートに触れると、部屋の中からルイ王子の声が聞こえた。ルイ王子の声に、ヴァレリーは目の前の現状をみてハッとする。

「も、申し訳ございませんっ、すぐに取り替えてきます!」

ワゴンを両手につかんだヴァレリーの前に、席をたったルイ王子がきた。


「お前は本当に・・・・・・」

この醜態に怒っているのかと思ったヴァレリーだけれど、どうやら違った。

ヴァレリーの細い手を手に取ると、角度をかえては見ている。

「火傷はしてなようだな」

「え、あっ、はい」


ヴァレリーは驚いてしまう。もし目の前にたっているのがルマノだったら、きっとこの様をみて笑うに違いない。


ルイ王子は、バモフトを呼びつけると、ヴァレリーの手に、冷やしたタオルをあてる様にと指示した。



椅子に座らされて、ヴァレリーの手は、ひんやりとした感触に包まれている。

胸元にあるプレートをヴァレリーは見ると、側にいるバモフトにと声をかけた。

「あの・・・・・・このネームプレートは・・・・・・」

自分では分からないけれど、これを見るたびに人が驚いた顔するのがわかる。

それはルマノだって例外じゃなかった。


考えるヴァレリーの瞳に、バモフトのプレートもゴールドに輝いている事に気づいた。


「お願いします、教えてください」


ヴァレリーが戻った頃には、ルイ王子は食事をすませていた。

いつも振り回されてばかりだけど、今、この国で一番近くにいてくれてるのはルイ王子だ。

ルマノはヴァレリーのネームプレートをみて驚いていた。そしてそれをバモフトも持っていた。

(このプレートをつけているものは、この国で王子の次に権力をもつなんて・・・・・・)

ルイ王子の次に権力を持つこと、それはすなわち、ルマノと対等の権力を持ってしまったという事だった。

それが分かったルマノの態度、でも確かに納得していなかった。



ヴァレリーはルイ王子の部屋をノックすると、部屋の向こう側からの返答をまった。


「なんだ」

「あの・・・・・・」

言いたい事が沢山ありすぎて、何から話せばいいのかが、分からない。

でもこんな貴重な物をつけるなんて出来ない。


ヴァレリーは胸のプレートを取り外すと、ルイ王子の前にと差し出した。

このプレートをバモフトがつけているのは分かる。彼は多分、昔から使えていただろう執事。

でも、これに助けてもらったのも事実・・・・・・。

ヴァレリーは差し出しながらも、ぎゅっとプレートを握り締めた。

こんな時、テレジアだったらどうするだろう。きっと彼女は頭がよくて冷静だから、こんな面倒な事にはなっていないはず。


「これはお返し致します」

これを付ける相手は、もっと他にもいるはず。

間違っても、自分じゃない。


そう思いながらも、ヴァレリーはプレートを握り締めたまま。すると、ルイ王子がそっと手を伸ばした。

かたくなに握られているヴァレリーの手をひらき、プレートを取り出した。

ヴァレリーの中に、言葉に表現できない感情が広がった。


けれどそれを、ルイ王子はもう一度、ヴァレリーの胸にとつけた。

「あのっ・・・・・・」

「一度決めた事は覆さないのが俺のモットーだ」

「でもっ・・・・・・」


ヴァレリーが言い返そうとしたその時、二人の背中に声がかけられた。


「ルイ王子」

振り向いたヴァレリーの視界に、みた事もない男が立っていた。

「ミゲル!帰ったのか」

ルイ王子と、ミゲルと呼ばれた男はヴァレリーを挟んだまま、しばらく会話をしていた。

ルイ王子より少し茶色がかった短い髪に、年齢は、さほど変わらないくらい。でも二人ともとても仲がよさそうで、すくなくともヴァレリーは、こんなルイ王子を初めてみた気がした。


そして、紹介が遅れてしまったとルイ王子はミゲルの方へとヴァレリーを向かせた。

「こいつはヴァレリー」

ルイ王子が多くを語らずとも、胸のプレートがすべてをかたっている。

けれど、ミゲルが驚いているのも事実だった。

「へぇ、めずらしいね」

ミゲルのめずらしいねと言う言葉は、時に初めてだとも言い換える。

「あの、違うんですっ、私は・・・・・・」

返しにきたのに、また一人このプレートをみて勘違いする人が増えてしまった。

ヴァレリーは違うと講義してみるが、ルイ王子本人がそうだといいはるなかでは、ヴァレリーの言葉はすべて無効になってしまう。

結局、プレートを返す事に失敗したヴァレリーは、ミゲルとルイ王子のために、紅茶の用意をしていた。

ヴァレリーがワゴンで紅茶を運んでいると、ルイ王子とミゲルは何やら話し込んでいた。

大事な話をしているんだろう、アルバンタ王国でも、聞いてはいけない話や難しい話はいくつもあった。

二人の前に、ティーカップを差し出すと、ヴァレリーは無言のまま、部屋をあとにした。




ヴァレリーの足音が、部屋から遠ざかる。

ルイ王子は、ミゲルと二人して、ティーカップに口をつけた。


「それで・・・・・・? いつ発つんだ? アルバンタ王国には・・・・・・」



・・・・To Be Continued・・・・・


ランキングに参加しています。よろしくお願いします◇


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ