表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/54

ゴールド色のネームプレート

バモフトに案内された部屋は、ヴァレリーがいたあの部屋とは比べ物にならなかった。

まるで客人をもてなすために空けられているのではないかと思わずにはいられない。

やわらかい絨毯に、自分専用のバスルーム。二人でも寝られるほど広く柔らかなベット。


一国の王女であるという立場も忘れたかのように、ヴァレリーは部屋の中をあちこちと歩き回る。


すると、ドアの向こう側からノック音がヴァレリーの耳へと届いた。

開けたそこには、バモフトが。その手には、食べそこねた夕食があった。

「ルイ様からです。お召し上がりください」

見ると途端にヴァレリーの胃は食べ物を欲してしまう。それを教えるかのような胃袋の悲鳴を二人して聞き、思わず笑ってしまった。


悪魔のような仕打ちからの、あまりにも一変したこの待遇に、ヴァレリーの思考はまずついていかない。

テーブルの上に置かれたのは、温かいスープと、柔らかなパン。

けっして豪華な食事ではないけれど、ここに来てから、ヴァレリーのなかでなぜか一番美味しく感じられた。


食べ終わった食器を重ねたヴァレリーの耳に、もう一度ノック音が響いた。

てっきり、頃合をみはからったバモフトだろうと思い、ヴァレリーは重ねた食器をもち、ドアを開けた。


お礼の言葉と一緒に食器をつきつけた先にいたのはルイ王子。

ヴァレリーの瞳は驚きのあまり大きく開いたまま、しばしの間かたまってしまう。


重なった食器はヴァレリーの手の中でバランスを崩す。宙に浮かぶかと思われたけれど、それはピタリと動きをとめた。

その瞬間、二人の掌が重なっていた。


「も、申し訳ありません」


何を取り乱しているだ。ヴァレリーはそう平静を装う。


「入っても?」

ルイ王子はヴァレリーから食器を取り上げると、部屋の中へと視線をやる。ヴァレリーに選択肢はなかった。




「・・・・・・あの」

なぜ、今自分は、一国の王子と向かいあっているのだろうか?


聞きたい事はあるはずなのに、この沈黙がヴァレリーの体を固くしてしまう。

さっき居たバモフトの存在が恋しかった。


「クローゼットの中を見てみろ」

ルイ王子が指差すそこを見ると、、言われるがままに立ち上がり、ヴァレリーは開いた。


分からないけれど、これが特別な物だということは分かる。

他の使用人のどの服とも違う・・・・・・。


「お前にやるよ」

「えっ?」


振り返り瞬きをするヴァレリーを見ては面白いとでもいうように笑う。

「朝食は午前7時。分かったな」

「え・・・・・・あっ」

分からないままのヴァレリーをそのままに、ルイ王子は部屋をあとにした。

ボキャブラリーが少なすぎて、何を言っているのかはうまくつたわってこない。

けれど、ヴァレリーはテーブルの上にある物を手にした。

そこには、[ヴァレリー]と書かれた、ゴールド色のネームプレートが残されていた。


本当に怒涛の一日だったと思い返してみる。喜怒哀楽の全部を一度に味わったような、そんな気分。


ヴァレリーの中で考える事なんていくらでもあった。

昼間、ルマニから受けた仕打ち。目先が真っ暗になった気分を感じ、たった一枚の金貨を握り締めた自分。

早く出て行けとばかりに開かれた門。そしてそこにいたルイ王子。この部屋も、ルイ王子からの言葉も。

考えれば考えるほど、わからなくなっていく。

なのに、みたされた胃袋と、寝心地のいいベットにヴァレリーの意識は遠のいていた。


翌朝ヴァレリーは、ルイ王子の言っていた午前7時より、一時間はやくに起きていた。

クローゼットにかけてある服に着替えると、ゆっくりとドアを開けた。

「わっ!!」

目の前に現れたバモトフに、ヴァレリーは思わず大きく声をあげてしまう。

彼はなにごともなかったかのように、ヴァレリーに朝のあいさつをした。それにつられる様にヴァレリーは頭をさげ、あいさつをする。

「あの・・・・・・」

「貴方はルイ王子から直々に専属使用人とご指名されました」

(専属?!)

バモフトの言っている意味がいまいち分からない。専属と言うならば、ルイ王子にはバモフトという立派な専用執事がいるはず。

「でも・・・・・・」

「さぁ、早くしないと王子が起きてしまいますよ」

バモフトの言葉に、ヴァレリーはハッとしてしまう。

ヴァレリーは深々と頭をさげた。

「よ、よろしくおねがい致します!」

そう言うと、バモフトの背中につづいた。



あの三姉妹の朝食が嘘みたいだ。そう思う程に、ここは至って静か。

ルイ王子専用に用意した食事をテーブルにならべる。ルマノとの一件を思い出し、ヴァレリーは丹念にナイフを磨いている。

すると扉があき、ルイ王子が現れた。

ヴァレリーは磨いていたナイフをおき、一礼をする。


「おはようございます」

王子の顔をみた今でも、まだ信じられない。

昨夜、確かに自分はルマノによってクビになっていたはず。

なのに、今こうして、ルイ王子の専属使用人?


「てっきり、まだ布団の中で寝息をたてているかと思ったが」

「なっ・・・・・・」

言われように、つい口がでてしまいそうになっては、ハッと口を閉じる。

「申し訳ございません」

ほんの数日の間に、申し訳ございませんと言う単語が自分の中で固定されているような感じがしつつも、ヴァレリーは頭をさげる。

からかわれているのだろうか? いいやまさか、だって・・・・・・。

そんな事を思っていると、顔にかいてあったのか、ルイ王子は面白そうに口もとをあげる。


「食事が終わったら、公務にでかける予定だ」

どの国でも、やっぱり皆、同じ。アルバンタ王国も、前はテレジアと二人して、よく他国からの来訪者に会っていた。

「かしこまりました」

言葉を口にするヴァレリーの表情がほんの微かくもった。


「お前も手早く準備を」

ルイ王子の言葉に、ヴァレリーは勢いよく、頭をあげた。

「あの・・・・・・」

聞き間違いだろうか、今確かルイ王子は・・・・・・。

「私もでしょうか?」

ヴァレリーの顔を、まっすぐに見る王子の瞳は、ヴァレリーに、当然と言う文字をつきつけていた。


・・・・To Be Continued・・・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ