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背中にかけられた言葉

連れてこられた、ルイ王子の部屋。ヴァレリーの服に飛び散った生臭い匂いは、すっぽりとルイ王子の衣に包まれなくなっていた。

一国の王女という立場上、初めてヴァレリーは男の部屋と言うものを体験する。

ルマノの部屋よりずっと綺麗で、アマリアの部屋よりもずっと殺風景だ。なのに体を覆っている衣服と同じ、いい匂いがしていた。


ルイ王子の姿は今ここにないけれど、その代わりに、手のなかには、彼から渡された着替えがある。

ヴァレリーは言われた通りに、この部屋の中にいるシャワールームへと消えていった。




ヴァレリーの中のルイ王子の存在は、まだ分からないままだ。

無表情のままで、何を考えているのか、検討もつかない。

(でも、悪い人ではないのかも・・・・・・)

確かに無愛想ではあるけれど、一国の王女としての自分がそう言っている気がした。



体からさっぱりと匂いは取れたけれど、結局ヴァレリーが指輪をなくしてしまったと言う事実は、ルマノの中で確定も同じ。

何も解決していないこの現状に不安を抱えながらも、着替えを済ませたヴァレリーは使用人の集まる広間へと足をむけた。


嫌な感は当たるもので、ヴァレリーが広間へといくと、そこにはルマノをはじめ、王女が集まっていた。

その場で何を話していたのかは、向けられたヴァレリーへの視線ですぐに察知がついた。


民衆の視線の前に立つことはあるヴァレリーだったけれど、こんなにも冷たい視線の中に放りこまれたことはない。

きっと耳を塞いでも、ささやかれる言葉が聞こえてきそうだと思いながら、ヴァレリーは足を進めた。



「それで・・・・・・見つけることは出来たのかしら?」

片方だけあがる口元をみれば、何をルマノが言いたいのか、もう分かる気がした。

「いえ、ありませんでした」

何が真実かも分からないけれど、同じ王女と言う立場で育ち、この場で言い逃れをする気にはなれなかった。

ヴァレリーの言葉を待っていたかのように、ルマノは大きく息をすい、口をひらいた。


「では、貴方はクビです。たった今すぐにこの城から出て行きなさい」

この短時間の間で、ヴァレリーの何が一体気に入らないは分からない。

けれどこんな事は、この城の中では日常のひとつだった。気に入らないオモチャを捨てるように言葉を吐き捨てると、ルマノは満足したように広間から姿を消した。


この場で、この決定に逆らうものは、誰一人だって、いやしなかった。




「たった一日・・・・・・」


テレジアに、任せておけと粋がったのは、まだほんのわずか前の事。

まだ何もしていなかった。くやしかった思いがぶりかえすように、胸に込みあげてきては喉を鳴らした。

唇を噛み締めて目をごしごしとこすってみると手の甲に涙がにじんだ。


小さな窓の外からは、食堂から使用人達の笑い声が響いている。

彼女たちにとっては、こんな事は人事であって、もうすんだこと。

ヴァレリーはそっと、窓をしめると、使用人の服を脱いだ。

クローゼットにかけると、アルバンタ王国の服に手を通す。


今日は馬車が来る事はない。ヴァレリーはポケットの中に手をつっこむと、きゅっと握り締めた。

中には金貨が入ってある。万が一、何かあったときにと、テレジアが持たせてくれたけれど、こんなにも早くに使うなんて思っても見なかった。


ヴァレリーはそっとドアを閉めると、長く続く廊下を歩いた。

いつもは門だってしまっているはずなのに、まるで早くでていけと言わんばかりに、大きく開いている。


「そこのお前」


暗がりの中、呼ばれた声。ヴァレリーは、この声を何度も聞いている気がした。


いつもそこにいる門番の代わりに、そこにはルイ王子がいた。

ヴァレリーは、ふかく頭をさげた。

「あの、ありがとうございました」

まだ、ちゃんとお礼を言ってなかった。

「匂いはちゃんと取れたかよ」

ルイ王子の言葉に、気恥ずかしさがわっと沸き起こった。

「す、すいませんでした」

顔をあげないヴァレリーのすぐ側にルイ王子の気配。長くストレートな髪を、ルイ王子はそっと手にすくった。

すると、手のひらから、流れおちるようにヴァレリーの髪が流れ落ちた。

こんな事をされたこともないヴァレリーは、いよいよ顔をあげれなくなってしまう。



「ルイ様」

そのままの格好のヴァレリーとルイ王子の背中に、彼の執事、バモフトが声をかけた。

ルイ王子は、バモフトが何を言いたいのかを察知したのか、分かったとばかりに手をあげた。

そしてもう一度ヴァレリーを見下ろした。

「顔をあげろ」

この王子の言葉は、なぜか逆らえない気持ちにさせてしまう。

「お前、名前は?」

「ヴァレリーと申します」

ルイ王子は、バモフトを呼び寄せる。

すると、バモフトはルイ王子に、かしこまりましたと了承の合図をした。


ヴァレリーは、この勝手に流れていく空気に混乱している。

「ヴァレリー」

バモフトが居なくなってしまったこの場所で二人きりになったおかげで、呼ばれた名前が一際大きく響いた気がした。

ルイ王子は、ヴァレリーのあごにそっと手をかけると、月明かりの中、ヴァレリーの顔を照らした。

「泣いてたのか?」

月灯りの下、頬に残るヴァレリーの涙の筋を意図も簡単に見つけられてしまう。

「い、いえ・・・・・・」

ルイ王子の手の中から顔をそむけるヴァレリーを見ながら、ルイ王子は微か笑った。

「着いてこいよ」

それだけいうと、ルイ王子はヴァレリーに背中を見せた。

「ルイ王子!」

背中にかけられた声は聞き入れてもらえない。ただ必ずヴァレリーが来ることを確信していた。


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