今日も彼女が可愛すぎて、俺は警察に通報されそうです。【短編版】
練習用に書いた短編です!
これの連載はまだ考えていません。
本当に練習するために書いたので。
希望が多ければ【連載化】も考えたいなと思っています。
ブックマーク・評価していただけると大変嬉しいです。
また、読みにくいとことかあると思うので、よろしければ感想を書いてもらえるとありがたいです。
俺の左斜め前方の席に彼女は座っていた。
深い藍色を混ぜた肩より少しある黒髪。
窓から差し込む太陽の光を綺麗に反射して、その髪は一層美しさを増す。
あぁ……今日も最高だ……。
左手を口元に置き、頬杖をついてノートへと視線を落とす彼女。
たまにするあくびがまた子猫のようで……。
可愛い! 可愛いすぎる! まさに天使とでも言えるべき存在!!
高校二年のクラス替えの四月、俺……八代秋葉は彼女に一目惚れした。
彼女の名前は真星唯。
誰にでも分け隔てなく、オレンジ色の優しさを振りまく彼女は男子の中でも密かに人気を博している。
無論その内の一人が俺というわけだが。
この半年間ずっと「もし付き合えたらなぁ」という感情を抱き続けている。
それはあくまで空虚な妄想にすぎず、俺はそんな彼女を見つめることしか出来ない。
これといって特徴のない俺はそんなことしか出来ないのだ。
だってこんな俺が告白なんかしてみろ。
『誰?』ってなるフラグしか見えない。
見事に振られた俺は家へと直帰する。
そしてベッドのマクラを濡らすことになるんだああああああ!!
で、翌日。
どんよりとした気持ちのまま学校に行くと、偶然にも彼女に出会ってしまう。
気まずい雰囲気。声をかけたくてもかけられない。嫌な汗で手がべっとりと滲む。
しばらくして彼女が動く。告白する前にあった挨拶があるはずもなく──。
もう駄目だ。残酷すぎてこれ以上考えてられない……。
つまりこのような行動を起こしさえしなければ傷つかないで済むということだ。
僅かながらの希望を持ったままでいられる。
だからいいじゃないか。そういう感情を抱くぐらい。
神様だってきっと咎めないはずだよな!
もし咎めでもしたら脇腹にボディーブローの何発かいれてやりたい。
別に襲いたいとか考えているわけじゃない。
というか襲いたいなんて考えは俺からしたら言語道断。
あの神秘な魅力に満ちた身体をこの手で無理矢理に汚そうという貞操概念がどうかしてる。
愚の骨頂としか言えない。
俺はただ──。
この先の言葉は押し込むことにし、左斜め前方の席に座っている彼女を見ることに重きを置いた。
──しかし、抱いていた希望はひょんなことで終わりを迎えることとなる。
その日の放課後。
持ってきたお茶が切れたので、俺は自動販売機で何を買おうか腕を組み悩んでいた。
すると右側十メートルの位置から彼女が登場!
俺の見える世界が一瞬にしてお花畑へと変化する。
今日も……今日も真星さんは可愛い!!
ささやかな至福の時が俺の胸を打つ。
ん……?
俺は思わず眉をひそめた。
真星さんの隣に誰かいる……。し、しかも男ぉぉぉおおお!? それにイケメンというお墨付き。
楽しそうに話している真星さんとどこの馬の骨とも知れぬ男。
あぁ、もうこれはあれしかないよ。あれ。
二人は付き合……ッ……嫌だ!! そんなの嫌だあああああ!!
気づいたら俺は河川敷にいた。
ここに来て、かれこれもう三十分ぐらいは経つか。
空に浮かんでいる真っ赤な夕日。それがやけに寂しく感じられた。
「く、くそぉ。まさか……まさかの男登場だ。希望が……希望がついえた。だってどう考えてもあの二人は、二人は……」
拳を強く握りしめ、己の敗北を実感する。
『敗北』の二文字が俺の頭の中で何度も反芻され、それに堪えきれなくなった俺を叫ばせた。
「イケメンなんてクソくらぇえええええ!!」
「青春だねぇ……」
甘く透き通った声。
振り返るとそこに立っていたのはなんと、真星唯さんじゃありませんか!
こ、これは夢ですか? ドッキリとかじゃないですよね?
突然彼女が登場した驚きと、叫んでいたのを彼女に聞かれてしまったことからくる気恥ずかしさが、俺の口を金魚のようにパクパクさせていた。
そんな俺の様子を見てか、彼女はクスリと笑う。
笑うという行為によって上がる口角がまた適度な上がり具合で、彼女によく似合う。
「ど、どうしてここに真星さんが!?」
慌てふためいている俺に彼女は、またクスリと笑い、答える。
「この場所に私、よく来るんだよねぇ。不安なときとか、悲しい時とか……。たまに私も八代くんみたいに叫んだりするよ。『上手くいかないよぉ〜〜!!』ってね」
「え、俺の名前知ってるの?」
俺がそう訊くと、彼女は少し口を膨らませた。
「知ってるに決まってるよー。だって私達おんなじクラスでしょ。まるで自分の存在が空気みたいなこと言わないの」
「だって、これといった特徴ないし……」
「特徴がないなんて八代くんネガティブだねぇ。八代くんにだって特徴あるよ。ほら、八代くんってさ国語! 国語得意でしょ」
「ま、まぁ」
確かに俺は全教科の中で国語が一番得意だ。この前の模試では全国で千位以内だった。
しかし、何でそんなことを彼女は知っているのだろうか。
「私国語ニガテなんだよねぇ〜。よかったらさ、今度教えてよ!」
「え?」
彼女は今何て言ったんだ? 今度教えて。そう聞こえた気がしたんだが。
何で俺に。
彼氏いるんだろ、彼氏に訊けばいいじゃないか。
俺の不満な感情が彼女に伝わったのか彼女は顔を曇らせた。
しかし、まぁ曇らせた表情も可愛いもんだなぁ。
変に色気があって……ハッ……俺はなんてはしたないことを考えていたんだ。
これでは襲いたいと考えてる奴と同レベルじゃないか。
警察にだけは! 警察にだけは通報しないで!
あぁ、もう本当にある意味、罪な人だ!
「……ごめん。急にそんなお願いしちゃって。困るよね」
どうやら彼女は俺が困っていると勘違いしているらしい。
そして、彼女はぷるんとした桜色の唇に人差し指をあて、考えだす。
しばらくして何か思いついたのか、彼女の表情がパァと明るくなり、ポンと手を叩いた。
「ならこうしましょ。八代くんが私に国語を教えてくれる代わりに、私は八代くんがさっきぶちまけた想いを叶える手伝い! どう?」
な、なに言ってるんだ……? 彼女は。
咄嗟に聞き返す。
「想いって?」
「だって八代くん振られたんでしょ?」
何て直球な質問なんだ。答えにくい、非常に答えにくい。
「あ、あ、えーっと。そのー」
「あ、ごめんデリカシーなこと訊いちゃって。私、そういうことうとくて」
俺が答えようとする前にペコリと頭を下げて謝罪をした。
あれだな……こっちまで申し訳なくなってくる。
うん、あなたと「もし付き合えたらなぁ」と思ってることに対して。
「真星さん、とりあえず顔上げてもらえるかな。別に気になんかしてないから」
「……ほんと?」
顔をひょこと上げると彼女の頬には一筋の雫が垂れていた。
真星さんは、人一倍人のことを思う優しさまであるのか!
でも、まあ本当に申し訳ない。
彼女に涙をも流させてしまった。
一応、未使用のハンカチがポケットにあるんだが渡してもいいのかなぁ。
迷ってる暇はない。彼女の泣いてる姿なんて見たくない。
「あの真星さん。これ良かったら使って。大丈夫だよ、使ってないから」
ポケットからハンカチを取り出し、『使ってない』を強調して彼女の前に差し出す。
「ありがと八代くん。八代くんって優しいね」
俺のハンカチで涙を拭いながら、彼女はそう言った。
や、やめてくれよ……。これ以上、俺に期待させないでくれよ。
「迷惑かもしれないけど、私、八代くんの想いを叶える手伝いしたい。八代くんの想いをここで終わらせたくない!」
ハンカチを俺に返し、彼女は自分の気持ちを語る。
叶うわけない。だって俺が好きなのは……君なんだから。
でも、もし──。
「うん、分かった」
天文学的な数字ではあろうが、希望を再び持てた俺は頷いてそう承諾した。
すると髪をふわりとたなびかせ、俺に向かって急接近してくる彼女。
俺の手をとり、自分の胸の前へと持ってきてこう言う。
「ほんとに!? ありがとね八代くん!」
どんな宝石の煌めきにも勝る彼女の飛びっきりの笑顔に俺は釘付けになった。