【祝一周年】それさえも最高で最低な、彼の一番長い夜・07
正午に更新できなかったンゴー!!
哀しみ過ぎる;ω;
(※現在は更新されております。)
――――始めから、全てが異常だった。
「――――……っ!」
まるで明かりのないトンネルのような、恐怖心を湧き立てる暗闇の中を。吹っ切るかのように全力で疾走する。
何かから逃げるように。
何かに、怯えるように。
「はぁっ! ……はぁ…………はっ、」
一息で走った反動か、一気に疲労が襲い掛かり、脚が緩やかなものへと変わって行ってしまう。一旦立ち止まろ事にして、荒くなった息を吐き出す。溜め息に似たそれは重苦しく、静かなこの空間へと消えていく。こめかみや首筋に滲んだ汗が玉となってゆっくりと流れ落ちるのを他人事のように自感する。まるで砂時計の砂の一粒一粒を数えているような気分だ。
「…………っは、はぁっ……!」
疲労で転がりたくなる身体を、近くの壁に手をつく事でそれを防ぐ。
顎まで伝って来た汗をポロシャツの裾を引っ張って拭う。今もそれらの例に漏れず室内でも熱気が篭もっており、更にそこをペース虫の全力疾走を試みたので余計汗腺が冷却しようと水分を喪失させてゆく。今すぐにでもペットボトルでも引っ手繰って五〇〇ミリリットル程度なら思いっ切り飲み干してやりたい衝動に駆られるが、生憎と手元にはタオルも経口補水液もない。
「……くそっ!」
暑さは渇きを、渇きは焦りを加速させる。
誰でもわかる当たり前の事実が、ただただ『この』現状について苛立たせる。
…………そもそも、だ。
「なんだよ、これ……」
『この』状況はなんだ?
つい一時間前まで、自分はベッドの上で寝苦しさと格闘しながら意識を眠気の底へと沈めようとしていた筈だ。直前の妹との会話も、友達以上恋人未満な幼馴染み達との軽いメールでのやり取りも極めていつも通りにした筈だ。その記憶は確かな筈だ。
その筈、筈だ、筈。
なのに。
「どこだよ……」
気が付けばいなかった。
いつまで経っても着替えが終わる雰囲気がなく――むしろ幾らかは耳に届いてた筈の話し声やら物音、どころか彼女達自身の存在感みたいなものが扉の向こうの部屋からいつからか消失していたのだ。
突然に唐突に。とても容易くあっさりと、彼女達全員まとめて何処かへ行ってしまったのだ。
「消えた」と言った方が正確かもしれない。
「一体何処行ったんだよアイツら……っ!!」
ゴツッ! と沸騰しそうな苛立ちを、拳に溜めて壁に叩き付ける。絶え絶えな息のまま吐き捨てるように思いの丈を零す。言ってみた戸頃で、そんな叫びも仄暗い廊下に虚しく響くだけだった。
本当はとっくに気付いていた。
これは――自分のミスだ。
「……くっそ」
壁に叩き付けた拳を握る力が更に増す。
考えてみれば。幾ら着替えとは言え、僅かに油断したその隙間にこうなる可能性だってあった筈なのだ。
そもそも。
ここにどうやって来たか――その導入部分の時点で、俺達には理不尽と唐突さしかなかったのだから。
離れ離れになど、なるべきじゃなかったのだ。
「――ああもうっ!!」
悔やむのは後。
大山智香・三咲可憐・水無瀬幸・明日葉透――アイツら四人全員と再会して、お互いの無事を確認しきってから、土下座でもなんでもして悔やむなり謝るなりすれば良い。
兎にも角にも。この暗闇を独り、捜索しなきゃ始まらない。
裸足のままで何処まで走れるか解らないが……足の指先に力を込めて、勢いよく決意の一歩を暗闇へと進めよう
――――コツッ。
とした瞬間だった。
「――――!?」
ほんの一瞬。
たったそれだけ時間で、一気に喉が干上がった錯覚に陥った。
なんの前触れもなく、突然硬質な何かが廊下を叩く音が鼓膜を揺らす。鼓膜どころか脳から全身まで振動が、動揺が伝播するようだった。たいして大きな音でもない筈なのに、いやに耳に入り込んでくる。
――――コツッ……、コツッ……、コツッ……。
まるで金縛りのように俺が動けなくなっている間にも。その『足音』が一歩、一歩と閉鎖されたこの空間に反響する。
何だ。
誰だ。
「――、」
胃からせり上がる恐怖と冷や汗の止まらない謎に背中を押されて、俺は全力で後ろを振り向く。
その先には――――。
そしてまさかの「続く!」へ。
多分次こそ終幕。
……まぁ結末は、ね?




