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幼馴染同盟 ~Are you BEST FRIENDs?~  作者: アオハル
02.Cold-en weaks _Do you know?_
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第05話 おふろば

 やりたい事いっぱいおっぱい過ぎて気が狂いそうな今日この頃。

 人、これを頭が茹ってるといふ。



 独白がいつも以上に多く、何気に(この作品では)5000字オーバーです。

 ……ダラダラ書いたとも言います、はい・。・;



 事の発端――すべての元凶は、どう考えても俺・明日葉透だ。

 最も大切だと思う事を優先して、いつだって周囲を無視し、蔑ろにする。残るのは信じられないと言いたげな表情や何かを諦めたような乾いた笑顔。拾ったものはどれもこれもが自己満足の類でしかなくて、そこからイコールで彼ら彼女らの幸せには繋がらなくて。散々味わってきた話じゃないか。そしていつも気を付けようと自身の心に刻みつけてきたものばかりじゃないか。

 悪いのはそう、俺だ。

 偽善ですらない。悪だ、悪。

 だから後から手痛いしっぺ返しが後悔と共に襲うのだ。

 明日葉透、貴様は迷惑を掛ける事しかできないのか――と。

 自責と呼ぶのもおこがましい自虐で苛む事で反省した気になり、いつまでたっても直らないし治さない。差し詰め人間の皮を被った愚鈍だ。嫌気がするし吐き気もする。



 …………だからサチさんや、先程の件は本当に俺が悪かったし、申し訳ないと思ってるからそろそろ水気を吸ったタオルで叩いてくるのやめませ――、って、いてっ!

 本当にそれ痛いんだっ――あいたっ!?



   # # #



 大丈夫だと言う俺の台詞を無視したサチと妹と一緒に、夕飯の片付けも滞りなく終了し、気付けばいつも通りのまったりとした時間が生まれていた。

 この時間帯になれば蒸し風呂かサウナか、とにかく太陽の気を疑うような暑さはすっかりなりを潜め、窓から流れ運ばれてくる涼しい夜風とその空気が肌を撫でていた。我が家でクーラーを導入しないのはこのためだ。ってかこの時期から冷房点けてたら夏真っ盛りの七、八月なんて目も当てられないだろうし。何より点けまくった結果、電気代を払う母親の顔を見るのが怖過ぎる。生きるって、大切。

 そんな眠気のないまったり感を漂うリビングを陣取って、俺達三人はゲームをしていた。

「――っちょ、そこで溜めとかナシだろナシ!」

「ふっふっふ、アイテムだろうとガードだろうと、容赦も慈悲もなく使うのが明日葉希なのですよ兄さんっ!」

「……貴方達、こちらに引っ越してもそんな感じなのね」

 和気藹々と興じるその姿は、あちらで住んでいた頃から変わっていないように思える。……ってかなんでサチお前滅茶強いの? 今日このゲーム初めてだよね?

 嘘だと言ってよバーニィ! と心の中で叫んだ直後、俺の使ってたキャラクターが場外へと吹き飛ばされ閃光を撒き散らした戸頃でゲームセットとなった。結果は俺のボロ負け。サチが初見プレイだからと舐めて一対二にして闘おうとドヤ顔で提案したのを今更ながらに後悔した。

「があああああ」

「舐めプ乙です」

「本当、様がないわね」

 リアルでも言葉でボロ雑巾にされた俺は、コントローラーを(優しく、壊れないように)床に置いてゴロゴロと転がっっていると、不意に立ち上がる気配を感じた。視線を向ければそれはサチのものだった。

「ん? ああ、冷蔵庫から遠慮しないで取って来て良いからな。ついでに俺と希の分も頼む」

「それは敗者の貴方のやる事でしょ。そうでなくて」

「? じゃあなんだよ」

 しれっと毒を呟いて否定すると、サチは俺と希の方へと振り向いた。それから一瞬躊躇って、すぐに何かを吹っ切ったのかこう尋ねて来た。

「……お風呂、お借りしていいかしら?」

「…………、」

「良いですよー。どうぞー」

 あっさりと勧める妹の声を横で聞きながら、俺はつい黙ってしまった。

 ……理由は言うな、察してくれ。

「了解で――なんで貴方はそんな呆けたままなんですか」

「えっ、ああ、いや、ど、どうぞ?」

「なんで上擦りながら疑問形なんですかね……」

 眉を顰めて首を傾げながら、「では失礼ながらお借りしますね」と言って彼女はリビングを後にした。多分着替えでも取りに行ったのだろう。

 あ、そうだ。

「希、アイツにタオルとかパジャマいるか聞いて――」

 そう言いながら妹の方に顔を向けると、クスクスと何かこらえるような笑い方をした小悪魔がそこにいた。直感でいやな予感がした。

「の、希さん?」

「兄さん」

 クスクスと、いやニヤニヤと。

 妹は笑う。

「妄想『も』ダメですよ」

 心の中とはいえ、言うな察しろって先手打ったジャマイカこの野郎……っ!

 こんな時ばかりは都合良く、妹の察しの偏り具合に文句を言いたくなった。が、言ったら負けな気がする。

「あら、図星です?」

 ……そんな事を言わなくても負けていたの巻。

「いいから、タオルとか必要なのあるか聞いてこい。ついでに持ってってやれ」

「ふふっ、そうやって誤魔化しきれない兄さん大好きです。結婚しません?」

「しねぇよっ!?」

 シッシッと手で攻撃ならぬ口撃的な妹を追い払う。勝手すぎる言い分で悪いが、今この瞬間は蚊より鬱陶しいぞこんちきしょう。二秒間恨んでやる。

 「はいはい」と満面の笑みでからかいきってリビングを後にする希を見送って、俺は再び床を転がる。

「……確かに」

 良く考えたら女の子が泊まるって経験、初めてだった。

 すっかり忘れていた。この時間まで一緒の家にいるどころか、衣食住アンド風呂着替えエトセトラと諸々が同じ屋根の下で行われるという可能性を。確かにサチとは向こうでは住環境的に部屋に入ったり、低血圧で寝起きが悪いとの事で起こしに寝室に行く羽目にもなったりしたが。それとこれは、なんか違う。

 ひどく、もぞもぞとじれったくなるのだ。



 大人になった、とは勿論言わない。

 特に俺なんかはまだまだ子どもで、だからこそ今みたいに浅ましくて下らない事に思考回路を浪費しているのだろう。

 では。

「…………」

 何が、と問われても答えは浮かばず。

 ただただ俺は一人、床に寝てはいつまでも埋まらない空欄を見つめている気分になった。硬くとも冷たい床が、僅かに心地よく感じた。



   # # #



 そんなもやもやとした燻りを妹が戻って来た瞬間に吹っ切った俺は、再び妹とゲームを始めた。

 のだが。

「…………すぅ、…………すぅ」

「ったく」

 そういや今日は俺が倒れてからずっと看病してたんだっけか。希だって女の子だ、そんないつまでも気を張ってたらすぐに疲れるよな。

 ゆっくりとした動作で俺は肩にもたれ掛っている妹をソファに寝かせ、そこに置いてあったタオルを掛け……。

「……はい?」

 そういやコイツ、「後でタオル届けに行きます、むにゃ」とか言って目を擦ってたっけ。つーかその時点から眠かったんじゃねーかコイツ? というか聞いて来た時になぜタオル渡さないでこっち持って来ちゃったかなー。アホのなの? 知ってたけど。

「って事は俺持ってかなきゃなんだよなぁ……」

 面倒臭いが、別に風呂場のドアの前から声掛けて置いときゃいいだろ――なんて軽く考えてから、気付く。

「……アイツ、何分風呂に入ってんだ?」

 カチッコチッと秒針が刻む音にハッとなった俺は、慌ててテレビの上に掛けてある時計を見る。と、既にサチが風呂に入ると言ってから数十分――いや三十分以上は経っていた。

「大丈夫かよアイツ……」

 しかもよりにもよって。こんなタイミングで以前見た長風呂は危険云々の番組を思い出してしまう。なんでも風呂場で眠ってしまうアレ、実は気絶だった――とか。

 殴られるのを覚悟で俺は飛び出した。

 ガタタンッ!! と慌てたような音をけたましく立てながら、俺は脱衣所の扉を開けた。多分勢いよく開けたせいで洗濯カゴかなんかに当たってしまったようだった。布生地のようなものが散らばったオトモ微かにして、反射的に視線をそこへ向ける。

 そこで気付いた。



 …………今、風呂に浸かってるのは一体誰だ?



「は、」

 奇妙な笑いが出たが、多分自分の顔は引き攣ったものになっていると思う。

 いや相手が誰かは解ってる。

 水無瀬幸。この土地を去った七年前からつい一か月前こちらに引っ越すまでの長い時間にできた、数少ない親友とも呼べる存在。

 そう、親友の――――女の子。

 ……いやいや、女の子の下着なんて洗濯の際に見える妹ので見慣れてるし、正直どうも思わない。その筈だ。

 なのに。

「……今更ながらにやってしまった感があるなコレは」

 反射的にとは言えガン見してしまった目の前の光景から、目を塞ぐように手を顔に当てる。寝起きのように頭がクラクラと、ボンヤリして上手く思考がまとまらない。

 さっきも埋まらなかった空欄。その『何が』は多分、コレだ。

 それ自体は言葉で説明がつかない。羞恥なのかもしれないし、申し訳なさなのかもしれない。浅ましい欲望もちょっとはあるのかもしれない。それ自体は曖昧で不確かだけれども、そのせいで調子が狂うのだけは確かな事だっだ。事実、俺は現在進行形でそうなのだから。

 まるで気分は犯罪者のものになったようで、コソコソと散らばったそれらを拾う。丁寧に畳まれた、様になる私服。それと……。

「あー…………」

 顔に熱が溜まって行くのが凄く解り、思わず頬を摩って少しでもその熱を削りたくなった。

 砂糖一つ部分の些細な甘さなのに、頭を痺れさせ、身体を鈍らせていく麻薬のような不思議な感覚。自然と肌がむず痒くなり、思わずぶるりと身を震わせる。それらを他人事のように感じていながら俺は、ハニートラップという言葉も、成程そういう所から来ているのかもしれないとどこかで腑に落ちてしまった。

 …………って、そうじゃねぇ!

 今は水無瀬幸の身の安全が最優先だ――、それを思い出して、再び前を向く。下着は両方とも白と黒の縞々(ストライブ)で統一なんですねとか、やっぱりブラは一般的なのをしっかり着けてるんですねとか、様々な邪心やら失言やらをゴクリと呑み込んで、目の前の曇りガラス仕様の扉へと歩を進める。というか走った。

 そして、

「――サチ、大丈夫か!?」

 ガラッ! と盛大に音を立ててその扉を押し開けた。いやな予感を振り切るために漂う湯気を掻き分け見極めるように両目を見開いて補足しようと試みる。

 すると。



 ――――ぴちゃん。



「……………………………………………………………………………………………………」

 そこには、妖精がいた。

 いや、意識がフライアウェイしている事の比喩ではなく。

 ――綺麗だった。

 やや浅黒い自分のとは違い、白くきめ細やかで、つるつるとしていながら柔らかそうな肌。濡れて頬や首筋に張り付く姿はとても淫靡で、華奢な肩幅はいつも以上に女の子らしさを感じさせてくれた。火照ってほんのりと赤みを差す身体は瑞々しく、先程まで私服で隠されていた明確な緩急までもが目を奪おうとする。というか目を奪われてしまっていた。ささやかに実る山脈は丁度湯船に張った湯水でギリギリの部分をぼやかしていたのが、せめてものセーフティラインだった。何のかまでは恐ろしくて言えない。

 そんな幼馴染み・水無瀬幸が日頃は滅多に見せない至福の笑顔で、湯船に浮かぶちっちゃいアヒルのおもちゃを優しくつついていた。冷徹という雰囲気のベールを脱いで心身共に裸となったサチのその姿に、俺は息を呑んだ。

「あ、ありがとう髪を拭くタオルを持って来てくれ――」

 と。そこで彼女は闖入者に気が付いたのか、そんな笑顔を僅かばかり引き締めて、まるで妹相手に話すようにこちらを振り向いて――――。

「や、やぁ…………どうも」

「……………………………………………………………………………………………………」

 ――ものの見事に硬直した。

 窒素冷却でもこんな綺麗に凍り付く事なんてないだろう。そのくらい

 瞬間、彼女から感情やら白く美しい肌を紅くさせていた火照りやら、それら全てが霧散した。そんな気がした。止まった手の側で黄色いアヒルが静かに泳ぐ光景がひどくシュールで、なぜか笑えてきた。

 俺は知っている。

 経験則で知っている。これは嵐の前の前兆というヤツで、ホラー映画にも通ずる寒気のする静寂だ。……つまりは百パーセントでフルボッコ確定の、地獄絵図も裸足で逃げ出すスプラッタな惨劇が俺だけに降り注ぐという事を意味していた。

「い、いやぁ……てっきり風呂場で寝てたら危険だと思ってですねー…………」

「…………、」

 まるで懺悔するかのように供述し始める俺だが、視線があちらやこちらや肌色やらに移ろいでしまい、紡ぐ言葉もあやふやになってしまう。というか言葉が思い付かなくなって、止まってしまった。

 ……だって無理! こんな状況、想像も経験もした事ないんだぞ! どうしろって言うんだよきゃああああああああああ!!?(混乱)

「…………………………そうね、大丈夫ね」

 俺の心の恐慌っぷりを知ってか知らずか。そう言って震えながら、彼女はその綺麗な身体を湯船から起こし、立ち上がる。黒く鮮やかな髪が張り付く首筋から山脈の合間を通ってへそにまで水滴が伝う。俺はそれを表情を硬直させて眺める事しかできなかった。

 そして。

 そして。

「…………えっと、取り敢えず風呂場で寝てなかったから良かった……かな? あは、あはははは――」

「大丈夫じゃないのは貴方の湧いた頭ですっ!」

 直後、風呂桶という判決が俺の顔面に飛ばされてきた。



   # # #



 今日。

 改めて思い知った――――彼女だってこんな風に笑うのだ、と。

 小学生の時に出会ってから今の今まで。

 ずっと迷惑ばかり掛けていたがために滅多に視る事のできないその清々しく、可愛らしい笑顔を。本当だったら彼女は魅せてくれるのだと、知ってしまった。

 そんな笑顔を。

 俺自身が引き出せるようになるのは、いつになるのだろうか。



 それとも。

 他の誰かがそうさせてしまうのだろうか。

 実は女性陣はソファに座らせて自分は固い床に腰を下ろしてた紳士ゲーマー明日葉透。……でも無意識なのよね。

 それを残念と思うかどうかはヒロインズ次第、という事で。

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