実によくある夏の日の事
そんな何かはここで終わりま――――せん。
繰り返したりもしま――――せん。
というわけでお久し振り(?)です。
今日からまた、更新再開します。
……不定期の予感がひしひしとカレンダーから伝わってきますが・。・;
短めですがどうぞよろしくお願いします。
「いくらなんでも休み過ぎです」
「…………え?」
遠くで蝉の鳴き声が聞こえた気がした。
この時、自分の声が震えたのは目の前の風力設定『強』の扇風機のせいではないです。はい。
その頃は、初夏特有の強い日照りが全国を襲っていた記憶がある。
記憶違いでさえなければ、その人を照り焼くかのような暑さには朝のニュースでは注意報が勧告(……警告?)されるレベルだった。部屋に掛けられた温度計も何度見返しても水銀が三十のそれを余裕で越えて表示され過ぎており、すっかりここ一週間はそこから眼を逸らすようになっていた。
じりじりとした日光と陽炎が浮かぶ湿度にまるで自分が電子レンジに放り込まれたのかと錯覚するような気分だ。アイスが五秒で溶けるってなんだよそれ。しかも聞けば来週辺りには九州で梅雨期に差し掛かる頃合いだとか。……殺す気か。
閑話休題。そんな最近ではよくある、暑い日の話だった。
「流石に学校に行きましょうか」
「……マジで?」
「ええ。それはもう」
というかあなた、何日休んでいると思っているのですか。いいから行きますよ――そう言って無理矢理に引っ張り始め、身体が痛みという名の訴えを表明していた。非力とは言え、引っ張られたら誰だって痛い痛い痛いだからやめろっつーの。
「……もう一回聞くけど、マジで言ってる?」
「へぇ……この目を見て、そうではない、と?」
「うわぁ……。本気って書いてマジって読むヤツだぁ…………」
「それでは行きましょうか」
「ちょっと待ったちょっと待ったちょっと待った! これ部屋着!! しかも今日は休日!!!」
しかも前述した通り暑いから、当然俺は汗をかいているワケで。しかも当時の俺――と目の前の人物は中学生と思春期真っ盛り。それはそれは汗や匂いといった自身の見た目に関する色々は過敏なまでに気にするワケで。
しかも相手のその人物ってのが、――――異性なわけで。
「違いますよ。配布物が私一人じゃ持ち運べないので本来であるあなたが運べという話ですよ」
そう言って、彼女――水無瀬幸は俺の腕を掴んだまま振り向く。その冷たさを感じさせる瞳にはただただ純粋な真剣さが添えられており、罪悪感を覚えた俺は気まずさに整った彼女の横顔から視線を逸らしてしまう。
……単純に汗をかいてて暑さで少々息が荒らそうでちょっと可愛らしいというかエロいなとか、そんな事は思ってはいなかった。視線が生地が薄そうな制服のワイシャツ部分へと移ろいでしまいそうになったのをギリッギリで抑えたとかも、全然感じてなかった。
その、はずだ。
多分。
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いくつもの下らないやり取りをした。彼女の毒舌は相も変わらずで、思わず不登校もいよいよな自分に言うのかよソレと被害者ぶった事を思ってしまうくらいボロ雑巾にされてしまった。サンドバックと勘違いされてるんじゃないかと目の前の冷徹の権化に、真剣に問い詰めたくなった俺が、確かにいた。
そんな相変わらずに、今日の戸頃としてようやくの終着点が視えた――その時の事だった。
「さて……」
不意に握られた自分の手首に力が込められたのを感じた。
「……どうして」
「え?」
扇風機がプロペラを回す音がいやに耳に流れて来たのを覚えている。一筋の水滴がゆったりと頬から唇まで伝い、独特の塩味に顔を顰めそうになったのまでも覚えている。
そのくらい。
この時の質問は、自分の心を抉るモノだった。
「あなたはそんな辛そうな顔をしているのですか?」
「あ……?」
人間、図星を突かれたら思わず笑ってしまうんじゃないかとこの時に考えてしまっていた。なぜなら今の自分がそうだからだ。とは言ってもそれは決して『笑顔』には程遠い、ただの筋肉の硬直のようなものだとも。
「学校を休みだしてから本日までに鏡で確認しましたか?」
随分と荒んだ表情になってますよ、と。
特に眼が一番、『死んで』いますよ――聞き慣れた毒舌ではない心配の声を呟きながら、彼女に空いた右手で頬を優しく撫でられ、更に自分は硬直する。固まった身体に、固まった表情。その中で空転する思考には、いよいよ空白が生じていた。
責められると思っていた。
咎められると思っていた。
許されないと思っていた。
ひょっとすると今度は殴られるかも、そんな事まで思っていた。心配なんてされておらず、むしろ呆れ軽蔑されてたとまで思っていた。
「正直、あなたが何を考え、何をしてるのか……私には理解できません。しかしこれは莫迦にしてるワケでも、ましてやあなたを蔑ろにしたいがために言っているワケでもありません」
「……」
「ただ、私には『解った』なんてそんな言葉は気安く使えないのです」
だから――。
「教えて下さい」
彼女が頭を下げた――その現実に脳の処理が追いつくまでに、数秒を必要とした。
「おっ、おい! なんでお前が頭を下げる必要がどこに――」
「教えて下さい」
やはり彼女にとっても暑いのか、少し濡れた柔らかそうな黒髪がファサッと軽く揺れた。けれど一向に顔は上げてもらえなかった。
「教えて下さい――――あなたの悩みと、その想いを」
やっと上げたその顔には。その眼には。
涙が溜まっているように見えた。
シャープの間やこの後にもっと色々挟まれたり、実は本編(笑)に関係してる回想(笑)だったり、らじばんだりー。
……スイマセン更新頻度が酷いからって馬乗りになって往復ビンタかまそうとするのはやめてくだーさい;;
自分を殴るのは一人につき一回だ!(それでいいのか)




