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幼馴染同盟 ~Are you BEST FRIENDs?~  作者: アオハル
01.APRIL _Something to know_
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第12話 「入学」―B

 以前の丸パクな気がしますが、それでも新規に書き直した部分で増量されているという。

 妹は頼み事を中々言わない。

 それ以前に、誰かに頼ろうという考えさえも中々起こさない。

 妹が幼少の時の自分が入院していた事に負い目を感じているのを、曲がりなりにも兄である俺は知っている。……そして、本当はそれだけが理由でない事も、俺は知っている。

 『迷惑を掛ける』――――悔しいがないとは言えない可能性に恐怖を抱く妹の姿に当時から俺はその都度やるせない気持ちになっている。せめて兄である俺には頼って欲しいし、妹を支えてやるのが兄の役目だと思っているのだから。最近は少しずつだが素直に……なり過ぎているが。



 妹にはそんな性格を表す特徴的な癖の一つとして、こんなものがあったりする。

 それは滅多にない、本当の願望(おねがい)を晒してくれる時。

 そんな時は、こちらの目を放さないよう真っ直ぐに見据え、最初にある台詞を決まって口にするのだ――――

 


   #



「――――実は入学式の件で頼みがあるのです」

 だからこそ、最初この台詞を聴いた瞬間に俺は時が止まったような気がしたのだった。

 そんな日は来ないと思っていたワケではない。それでも――いや、だからこそなのか。言われた時のこの驚愕は凄まじかった。

「兄さん、どうかお願いします。せめて話を聞いていただけませんでしょうか?」

 妹は吸い込まれそうな黒い瞳で、俺を見つめてこう言った。

 これだ。

 そう、これだ。

 ――――『せめて話だけでも』。

 …………………………。いや、この際にその事はどうだっていいだろう。

 重要なのは、妹が頼って来た事、それだけだ。

(さて……)

 その妹の発言と、主に暇なのは俺だけという事を思い出して、言わんとしているお願いの推測がたつのには数秒とかからなかった。

「…………、」

(……ああ、そっか)

 やはりいつも澄ました顔をしている妹も、行事の時は家族に来てほしいのだろう。なまじ人生の半分を病院のベッドで独り過ごしていたのだ、そう思う事は何ら不思議ではないし、兄としては妹に頼られるってのはとても嬉しい。ってか泣きそうだ。……昼飯食ってないから「ワサビが……」とか言い訳出来ないじゃんどうしよう。

 俺は強い子我慢の子。涙を堪えて俺は予測で、だが確信をもって言った。

「解った、入学式に保護者代わりで出席してほしい、って事だろ?」

「流石ですお兄様」

「オイ止めろ、もうアニメも一周年経ったとはいえその台詞は危険すぎるわ」

「まずはそのふざけた幻想を――ムガムゴ」

「本当に止めんしゃい」

 それと三期待ってますので是非ともお願いします。

 何か秒速で台無しになった。化学と魔術が交差しちゃってるし。俺の地の文超恥ずかしいってかまず地の文とか考えちゃってる時点で終わってるなぁ俺。はずかしぬ。

「で、そういう事だよな? 入学式観に来てくれって事だよな?」

「はい、そういう事です。ですです」

 恥ずかしがったり躊躇いもせず、しっかりと俺を見据えてくる目。……しかしなぜだか、俺にはその瞳には不安が映っているように見えた。

「……オーケー解った。行くよ」

 端から断る気なんてなかったが、ただ折角なので条件をつけさせてもらおう。

「ただ学校までいつものノリは止めてくれよ? これが唯一の条件だ」

 中学の時は俺が周りから距離をとっていたから何もなかったが、高校に上がる直前辺りからここ最近までが急に、その、『アレ』な妹になってしまっているからな……。校内でシスコン呼ばわりは避けたいのだ。家族は勿論、皆とは健全で純粋な仲でありたいのだ。

「ハテ何ノ事デショウカ」

「いやお前絶対解ってるだろ」

 すっごい目をキョロキョロさせて、あんこちゃ――棒読みでいらっしゃった。アホか。

 そうだ――これこそが唯一にして最大の、妹が信用ならないデンジャラスチェックポイントだ。具体的には口約束ができても普通に忘れて本番がっこうで飛びついて来る可能性が自意識過剰抜きであり得ると思えるくらい。というかここらは実際にあった、(世間体的に)怖い話だし。

 もう説得は諦めよう、妹には勝てなかったよ……。

 俺は条件を已む無く取り消して了承した。

「いややっぱもういい……よし、当日はちゃんとスーツで行くから」

 以前にあのヒゲダルマこと親父が冠婚葬祭用だと買って来て押し付けて来たものがクローゼットの中に眠ってるはずだ。

「ありがとうございます兄さん」

「いやいや妹の要望に応えるのが……とにかく入学式は必ず行くから」

「何を言い淀んだのですか兄さん」

 ニヤニヤと。まるで形勢が逆転したかのようにこちらを覗き込んでくる妹から、逃げるように顔を逸らす。…………くっそ、ドサクサでなんて事言いそうになってんだ、俺は。本当にはずかしぬ。

「……でも、」

 まぁ、

「――――本当にありがとうございます、兄さん」

 今の妹のいつも以上の無邪気な笑顔が見れただけでよしとしますよ。



   #



 すっかり週も移ろい始め、今日は四月六日の日曜日。

 昨日今日でこれまた懐かしくも新しいこの環境で、またしても色々あったのだが……これは数話後のおはなしにするとして。

(……って、数話後とかなんの事だ?)

 自分で自分に首を傾げながら、俺は目の前に並べられたものへと視線を向ける。

 明日葉一家は朝と夕は必ず全員で食べる――これは最早掟と化している。オメルタと言っても過言ではない。そんなワケでで今日は母&妹特製のチキンカレーだった。俺の好物でもある。ま、所詮秋の秋刀魚様には勝てませんがね、はっはっは。

 カレーを一口頬張り、しっかり味わって呑み込む。程良い甘さと辛さが好ましく味覚を刺激してくる。うん美味い!紅生姜も良い味出してるね!! ……何この酷い食レポ、馬鹿過ぎるだろ俺。

 俺は口を空にして麦茶を一口飲んでから早速両親に妹の入学式に代理で行く事を伝える。

 すると、バナナを与えたサルみたいにはしゃいでいた。ヒゲが。カレーが不味くなるわ。

 そのウザったいテンションのまま、俺にカメラ(どうみても買ってきたばかり)を渡し、「希の写真でデータをいっぱいにしてきてくれ」とかのたまいやがったのでアイアンクローを決めだがそこで母さんに脅されて肯かされ本格的に行く事になった。

 ……確かに妹の入学式ってコレが初めてだもんな。仕事の中でも今度はとりわけ断れないものらしいし、本人達は気が気じゃなかったのかもしれない。

 土日にも確認したが、このカメラは素人もいいところな俺にも使い勝手は良さそうで、画質も中々だった。三年前に念のためで大きめで買った黒のスーツは今の体格でも問題なく着れるみたいでコレも安心。後は体調管理だけだ。今日は早めに寝よう。

 夕食後の皿洗いをしながら一人領く。

 さーて明日も学校だししっかり起きなきゃな

「――――あ?」

 そこまで思考を働かせて、ガツンと殴られたような衝撃が奔ったような感覚になった。危うく手に持っていた食器を落とすところだった。しかし今はそんな些細な事はどうでもいい。

 世界が停止した錯覚に陥った。

 ギギギ、と錆びたブリキのように首をぎこちなく動かす。

「兄さん?」

 改めて思う。洗ってる皿を落とさなくて本当に良かったし、落とさなかった俺は本当に頑張った。

「あっ、――――兄さん?」

 妹が声をかけるが無視して蛇口から流れる水に浸しっぱなしの手を急いでハンカチで拭き、自室に慌てて向かいカバンから携帯電話を取り出す。そして交換したばかりの連絡先へ電話する。

 三コールの後に少女ミサは応じてくれた。

『ひゃ、ひゃいっ!? もしもし、トール君?』

「あぁ、いきなり電話してスマン」

『そ、そんな事ないよう!』

 電話の向こうで手をブンブン振ってる姿が容易に想像でき、和むがそれよりも俺は確かめなくちゃいけない事がある。

 俺は恐る恐る、訊いた。

「……明日って、学校だっけ?」

 喉が異常に渇いていた。

 そんなはずはない――そう、頭の片隅で、心のどこかでそう思い込もうとした。

 ――――だが。



『明日は生徒会役員は入学式、その他の生徒は午前中は総合の時間で午後から入学式の片づけがあるはずだよ?…………もしかしてトール君……』



 俺は携帯電話を落とした。

 今明かされる衝撃の真実だった。まじベクター。

「兄さん?兄さーん?大丈夫ですかー?」

『きゃっ!? い、今凄い音がしたけど……トール君? 大丈夫? もしもし?』

「…………、」

 ガチャッと勝手に俺の部屋に入って来た妹や、携帯電話の向こう側で耳を当ててたのだろうミサがなにやら尋ねている気がするけれど、今の俺にはすっかり頭に入らなかった。

 そして。

 気付けば俺は、この街に戻って来て数度目の、おさるさんの反省のポーズをとっていた。

 気分は真っ白に燃え尽きた矢吹丈のアレに近かった。

 ……ただし完全敗北だったが。



   #



 そして。――――時は四月七日よくじつ、その朝。

「どうでしょうか我が校の入学式は。何か現時点で不備はございますでしょうか?」

「い、いえ、入口はしっかりとした入場規制が執られてましたし椅子もパイプ椅子ではなく体育館全体の装飾も豪華で良いと思います。『もてなす』という行為をとても大事にしている気がとてもします」

「そうですか。……そこまで言って下さったのは初めてかもしれません。まるで私どもの狙いを的確に突いているような気がしますが」

「そ、そそそそうですか、あははは」

 着慣れなくてズレ落ちそうな感覚に陥る黒いスーツを着た俺は、何処かで見た事のある大人――東有紀子先生の声に視線を合わせずに応える。肩と背は強張り、手と背中に少しの冷たい汗が流れ始める。頬が引き攣ってないか心配だ。というか授業じゃねぇのかよ有紀先生! とツッコみたい心をグっと押し殺す。

 さて、と腕時計を見ると時刻は九時を回った。もうすぐ開式の言葉が入るだろう。喧しかった周囲の父母親族来賓も段々と静まり返り、巨大で荘厳な体育館が沈黙に包まれてゆく。

 そんな期待と不安が緊張となって保護者席を覆っていく中、俺が思う事はただひとつだった。



(……どうしてこうなった?)

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