【番外編?】1日目・C
やっとこさ、『多忙』という単語から解放された気分です。
寝て起きたら次話投稿。
――――まずはようやく、溜まりに溜まっていた前哨戦を書き終えた感じです。
「…………で、なんでこんな状況なんでせう?」
「あなたはアレですか? 人に一から十まで全て教えてもらわないと右も左も解らない、生粋のダメ人間なんですか?」
「いやいやいや! 流石にコレは一から十まで…………あー、うん、もしかしたらってかオレはダメ人間なのかも……」
「認めちゃった!? べっ、別にトール君はダメなんかじゃないよ!!?」
「……そうね、むしろ――」
「まさか『むしろ、ダメになったのは私達の方じゃない』なんて恥ずかしい台詞は言いませんよね?」
「――――!? そそそそんにゃこちょ――」
「…………、あのー?」
――――もうダメでもなんでもいいんで、不肖私めに状況を教えていただけませぬかね?
インターホンを鳴らしてくれた少年の(ナニとは言わないが)救世主は、実の所全く救世主なんかではなかった。いっそ火種にガソリンをブチ込んだぐらいに状況が悪化したと言っても過言ではない。そう、このなぜか彼が寝ていた大山家を訪れて来たのは複数犯――三咲可憐と水無瀬幸、更には少年の妹の希、この三名だった。
この『いつも』のメンバーの集合自体は、別に少年にとっては珍しい事ではなかった。ただ、そんな『いつも』とは少し――でも確実に違っていた。
「…………、」
元から(一応は)美少女である彼女達が、更に適度な化粧・ファッションをして集結していたのだ。いや普段だって可愛らしかったり爽やかな私服で時には駄弁ったり、時には遊んだりしていたワケだが、今日のその『オシャレ』はそれらとは完全に一線を画していた。
(な、なんていうか……、そ、その…………)
少年が動揺するのも無理はない。
それくらいに。今日の彼女達は、まるで恋人に見せ――恋人を魅せる姿になっていたのだから。
本気と言う日本語を、その意味を、まさかこのタイミングで思い知らされるとは露ほどにも思っていなかったのだから。
それに。
(待った、待って、待ってくれよ……! そんな本領を発揮されても、ってかそれ完全にデート用ですよね? 恋人用ですよね? この場に男はオレしかいないのに? しかもなんかさっきもチカが、ききき、キスだのって――――うがががががーっ!!?)
日頃から周囲に『鈍い』と評価されている少年ですら感知できるくらいに、現状はカオスを極めていた。極め過ぎていて、最早意識のシャットダウンを図りたくなるほどだ。
例えば――、
「――だから、これは透が見たいっていったから着てあげただけで、その……ふ、深い意味はないわよ?」
「だ、だからって! そ、そのエプロン姿は流石にやり過ぎだと思うのです!!」
「さ、流石に盛りがついた獣こと明日葉透相手にそれは暴挙じゃないかしら……?」
「……その顔を赤くした理由が妄想ではなく過去の事実でしたら容赦なく首を刎ねますからね?」
とまぁ、こんな感じだった。
つまるところ。件の四人から寄せられているそれは『いつも』の彼が感じ取っている厚意とは違く、――好意だった。それも、少なくとも日頃の、まるで友達に接するような感情ではなさそうなレベルの。
鈍くても、まぁある程度の事はこの会話からでも察する事くらいはできる。というか察してしまったと言うべきか。
……それと。
(……アイツらへの対応もなんとかしなくちゃいけないのだろうが、)
状況が現在進行形で混沌に満ちていく原因は、それだけではなかった。
ここからが重要な話だが、
――――少年には、今日までの記憶がない。
それは、少年がまるっと記憶を喪失しているわけではない。記憶もしっかり、ある程度まではあるのだ。ただ、彼女達とここまでの関係になった経緯が、てんで思い出せない――いや、てんで解らないのだった。
そもそもカレンダーの日付もよく判らず、まずカレンダー自体が周囲から――果ては昨日寝た時から着ていたらしい自らの私服のポケットに突っ込みっぱなしだった携帯電話の表示にも、時間は載っていても日付の欄がまるっきり消失していたのだ。
(まるで、これじゃ……)
マンガみたいじゃないか。
アニメみたいじゃないか。
ラノベみたいじゃないか。
それほどに、完膚なきまでに目の前の現実(?)は非現実的だった。
これは夢じゃないかと頬を引っ張ってみるも案の定痛く、取り敢えず気付かぬ内に作り出していた明晰夢の類ではない事は理解した。逆に、理解できたのはそこまでだった。
(……だって意味が解らないじゃないか。なんだって日付が消えていて、しかもみんながオレへと好意を寄せるのか)
勘違いや妄想だったらまだなんとかなったかもしれない。
だが、これは――――。
欠けた時間と見えぬ日付。
――――そして終わらない四日間が始まるのだった。




