第11話 「介入」―C
どうも、お久し振りです。
私事で突然更新がストップしてしまい、申し訳ありません。
あ、それとこの下の【番外編?】は無視して下さい。諸事情により書ききれませんでしたので。
『―――本日は始業式という事でー、えー……』
そんなこんなで始業式である。
周囲をこの学校特有のブレザーによる紺一色で染められた中、たった一人だけ自分が黒の学ランだというのはこんなにも堪えるとは。幸いここは追い着いた校風らしく別に早速イジメにあったワケでも、ましてや晒し者になっているワケでもないが。うーん。流石に希には味わわせるワケにはいかないかなー、この感覚は……。
そんな事に決意を新たにしている内にも、壇上の教頭らしき人の長々とした話は右から左へと流れてゆく。正直俺もこういう堅苦しい行事は苦手な部類の人間で、流石に爪を噛んだり髪の毛を弄ったりはしないものの、なんだかムズ痒いじれったさを覚えてしまう。まぁ、中学校の卒業式の時みたいに県議会議員が壇上の挨拶でいきなり英語で歌いだしたアレよりはマシだとは思うが……。
『それで――――』
……ところで、だ。
この際だからはっきり言うが、
「「…………、」」
ジィ――――っと。
転校してきたばかりのはずのクラスから。こちらを見つめてくる、痛いほどに突き刺さってくる視線を感じるのはなぜなんですかね?
いや。
「「…………、」」
「…………………………」
理由は大体予想はつくんだけれども……。
しかしそれを思い出した戸頃で、出て来たのは慣れた溜め息だけだった。
お決まりの『転校生への質問攻め』もなく、担任の指示通りに淡々と体育館へと向かって行ったクラスメート達の後を追って参加した始業式。校舎の特異な見た目とは反し、以前も通っていた学校と同様の、世間一般で想像が難くないありきたりな内容だったそれは大体授業一限分で終了した。そこでまた各自の教室へと戻るワケだが、帰って来た(?)教室でも俺は集中砲火に遭う事はなかった。
なぜなら……。
「……入学式の準備ですか?」
「うむ」
教卓に片手をつき、もう一方で掴んだ名簿で自身の肩をトントンと叩きながら東先生は首肯した。
「例えば三月三十一日の離任式には相応しいかで賛否両論起こりそうで一応と外した紅白幕や、あとは新入生分とその保護者分の椅子の用意、あとはそれぞれの新・一学年の教室の装飾などなど……分担すれば昼には終わるだろ。やったなお前ら、午前授業だぞ」
ちょっと待ってちょっと待ってお姉さん! とツッコみたくなったのは俺だけだろうか。
(紅白幕とか卒業式の準備で時間が掛かる定番中の定番だろ……!)
もう一度繰り返す事になるが、俺は学校生活の中のこういった堅苦しい行事や――ただ時間だけを浪費するだけのような単純作業が苦手な学生の一人だ。
とはいえ、「絶対にNO!」と駄々を捏ねるのもおかしな話だ。それじゃただの自己中心でしかない。
……結局。
「――では、明日葉。早速だが紅白幕の方の人員に回ってくれ」
溜め息の代わりに、首を縦に振って「はい」と言うしかなかった俺であった。
そして。
「…………、」
周囲の黙々と釘を打つ、金属と金属がぶつかる硬質な音に呑まれながら。自身も我を忘れて機械的に釘を木目の壁とは垂直になるよう当てては金槌で叩く作業を行っていた。こういう作業だと決まって金槌を指にぶつけて悶絶するある種の様式美があるような気がしなくもないが、却ってここまで単純作業になると最早誰も呻きどころか呼吸音すら怪しいくらいに集中していた。響くのは前述した金属音だけ。
トントントントントントントントントントントントントントントントントントントントン……。
「…………………………」
これは流石に、――――辛い。
もう「つらい」でも「からい」でもいい。とにかく――――酷い。眩暈がする。
自分も今の今まで無我だったが、打つ釘のストックが切れたタイミングで完全に集中が途絶えた。もうダメだ、やってられない。
元々しゃがんでいた体勢から後ろに腰を下ろし、振り返って体育館の時計を見る。始業式が終わった時に指し示していた短針は二つほどずれ、そろそろで正午を迎える時刻になっていた。
…………え?
(嘘、だろ? ……おい何が午前授業だよコレ絶対終わらねーじゃねーか!)
愕然としていると、不意にガチャリと重たい音が隣に落ちる。誰かが工具箱を置いたらしく、横を向けばこの学校本来のブレザーを着用した女子生徒が今まさにしゃがみ込もうとしている戸頃だった。
「……何よ、ジロジロ見て」
「え、あ――」
「いいから、ホラ。釘の追加分、持って来てあげたわよ」
顔を確認するよりも先に、足りなくて補充してこようとしていた釘を数本突き出される。
「お、おう…………あ、ありがとう?」
その「言わせねぇよ?」な雰囲気に押され気味になるも、取り敢えず助かったのは事実なので感謝の意は伝えておく事にした。
そうして突き出された釘を受け取って、さてさてまた面倒な単純作業の再開だ――――
「あーっ、もぉーっ!」
突然横の彼女がそう叫ぶやいなや、「え?」と横を向いた瞬間に学ランの胸元を強い力で上に引っ張られるって痛い痛い苦しい――――っ!?
「ぐっ、ごっが、あ――――!?」
何すんだ――とも満足に言えないままに引っ張られた先にあったのは、
「なんで私だって気付けないのかしら?」
「チ、カ……?」
――――大山智香ことチカだった。
直後に胸元の戒めも解除された。
「ごっほ、ごふっ……けほっ」
「全く……アンタ、ずーーーーっと私達を無視してたでしょ?」
「けほっ、…………だからっていきなり首を絞めてこなくてもいいだろ――って、え?」
いつものように(とは言っても昨日再会したばかりなのだが)割と常識的なツッコミを入れ――た戸頃で。チカの発言を反芻した戸頃で、思考が停止した。
俺の異変にチカの方も気付いたらしく、
「あ、アンタ、まさか……」
「…………えーっと、」
えーっと? もしかしてもしかして??
「……あー、もしかして一緒のクラスだったりします?」
――――カチッ。
その時、俺は確かに何かを踏み抜いた感覚をおぼえた。
それは俗に言う『地雷』と呼べるヤツなのかもしれなかった。
「……もしかしなくてもに、
――――そうに決まってんでしょうがっ!!」
「っっっっ!?!?!?」
ゴヅンッ!! という轟音と同時に、俺の視界は揺れて火花が散った。遅れて一瞬後に、衝撃を受けた頭を起点として激痛が奔った。
アレである。拳骨を喰らったのだ。
「の……のぉおおおおお…………」
俺は女子の握り拳とは思えないぐらいの痛みに、言語かどうかも分からない声で呻きながら頭を押さえて転がりのたうち回る。まるで手に持っていた金槌で殴られたのかと思うぐらいの激痛。ホントに女子かよコイツ…………うぅ涙出て来た。
「ふんっ!!」
しかしそれでも怒り(?)は収まらないらしく、ツカツカとそこは華奢な少女らしくありながらも早足でどこかへと行ってしまわれた。
ゴロゴロゴロゴロ……と転がって無意識に暴れ回る痛覚を分散させようとしていながら、ようやく一定のラインよりはマシになったのか、ある疑問が目尻の涙とともに頭に浮かんだ。
(あれ……? なんで気付かなかったからってあんな怒って(?)たんだ?)
最もと言えば最もな疑問だった。
とはいえチカ本人に尋ねたら今度はどうなるか分からないのでそれ以上の詮索はやめておいた。
……情けない話、やっぱり痛いのは嫌なのだった。
「……? ってかアイツさっき「私達」って…………?」




