第11話 「介入」―B
以前やった会話文を先に書いてからの肉づけで今月は書いてみてますが、どうでしょうか? 文章にズレはないでしょうか? あれば感想などでお待ちしております。
あ、それとキャラデザ(?)に関しては今更な話ですが細部を少々弄っております。例えば先生の髪の色とかですね。別に作者が抜けているワケではないのです(と言いながら結構心配なので気付いていなさそうだったらこれまた感想などで教えて下さい)。
新年度早々、他の教師に(しかも転校生の目の前で)膝詰めで説教されるという中々に残念なスタートを切った東有紀子女史に引率され、俺は静かになった廊下を歩いてゆく。そうして一分にも満たない時間で到着した教室の前で「ちょっと待っていてくれ」と言われた俺はその場で佇む。
「…………、」
やっぱり幾度とない経験をしても、この学生が織り成す独特の喧噪というのには、同じ高校生であるはずの俺は未だに慣れる事ができない。しかも今回は転校という形で、だ。これで人生二度目なのに全然勝手が解らなさ過ぎて、一度目だった小学四年生の頃の俺に問い詰めたくなる。
「……で…………だ」
先に東先生が教室で一通りの決まり文句を言い終えてからの紹介という事で、当の俺は独りポツンと教室前の廊下で、室内から見えないように立って待機する運びとなった。どの学年・クラスも年度初のホームルームなのか、朝登校してきた時に騒がしかったのが嘘みたいに沈黙した廊下はやけに肌寒く感じられる。ただ待つのは得意だし、こうして廊下の窓から外の珍しい景色を俯瞰できるのでそれほど苦痛は憶えずに済んだ。
「……と、いうワケでだ」
向かいの校舎を一瞥し、視線を移した先にあった中庭の桜に見蕩れていた辺りだった。
「始業式にはまだ早いが今の内にしておきたい事がある」
突然、あれだけ賑やかだった教室が、彼女の一言で静まり返ってしまったのだ。
「――――転校生の紹介だ」
見れば黒板の前に立つ新しい担任が、こちらに視線を送っていた。大方、『そろそろ入ってきてくれたまえ』とでも思っているのだろう。俺は一度深く息を吸って、吐いた。ついでに掌に人と書いて呑み込んでおく。
その間に教室にはざわめきが戻り始め、誰だかまだ知らない男子生徒らしき声が「ユキちゃん、転校生って女の子なん?」と尋ねているのが聞こえた。確かに定番とは言え言われる立場からすると、うーん……しかも俺、完全に男だしな。あと一応言っておくとノンケだ。
「さてどちらかな? ……ってかユキちゃん言うな。搾るぞ」
…………………………何を?
怖いから聞けないけど。
「では……入ってきてくれ転校生」
そして、
とうとう。
とうとう、本当に誰も知らない完全な初対面――転校生としてこの教室に足を踏み出す時が来てしまった。俺はもう一度深呼吸して、それから――――
――――教室に入る。
「――」
――――ドクン。
入室した直後から――全ての視線が真っ直ぐに俺を見据え、貫いて来た。その莫大な関心に、緊張のあまり硬直して足が止まりそうになる。
――――ドクン。
心臓が痛いくらいに鼓動を刻むのが判る。しかし俺はそこで止まらず、東先生の隣までぎこちないながらも歩き、そこで立ち止まった。
それから、改めて正面を見る。
『…………………………』
「…………、」
教室の中身としては他の学校とも依然通っていた高校とも同じようで、ざっと見渡すと大体四十名ほどの生徒が着席し、こちらに興味あり気な目を向けていた。俺から見て右手側の窓際の列の一番前の机だけが空席となっているが、おそらくあそこが俺の席なのだろうと推測する。
「……初めまして。転校生の明日葉透です」
また小さく息を吐き出してから、俺は軽い挨拶を始めた。
別に好きな科目とか趣味とかはどうせ後で質問攻めに遭うのだろうし、今回はそこらは大幅にカットした――極めて簡素な挨拶だった。
「よし」
そんな軽いものでも突っかかるのは突っかかり、終始緊張しっ放しの出だしがようやくにして終了したタイミングだった。先生が手持ちの出席簿で軽く教卓を叩いて注目を集めたのは。
……それで叩いていいんかよ。
「では転校生と積もる話もあろうが、残念ながら君達には早速体育館へ向かってもらう」
担任のそのアナウンスに俺を除くクラスメイト全員が一斉にガッカリしたり非難するような声が上がった。
だが先生としてその反応も慣れているらしく、
「残念ながらと言っただろうに……全く。そんな事より始業式に出席しないとお前達が説教をたまわるだけだぞ」
そう言って溜め息をついた彼女は先に向かうらしく、「窓や後ろのドアの施錠はしっかりやってくれよ」とだけ言って、教室から立ち去って行ってしまった。
――――しかしその直前、
「……頑張れよ、明日葉」
と、後ろを通り過ぎる際に彼女がこっそりとそう呟いてくれたのが耳に入った。




