第10話 「仲介」―E
時間のせいにしちゃいけないってのは解ってはいるのですが、うーん最近は時間が全くとれないです。(バレンタインの時はあんなあったのに、なんでさ)
本当は一息にA、B、Cの3パート構成でお送りしていきたいのですがね……次こそは!
「……あれか」
朝の日差しがいつになく眩しく、鬱陶しく思える。方角的に日射がかなり強いのだ。俺は翳した手の下で目を細め、それを注視する。ソメイヨシノの木々の合間に少しだけ見えるそれを。
独特な建物だった。
横浜の赤レンガ倉庫を彷彿とさせる赤褐色のその建物は、時計塔のように聳え立っている。いや、実際に側面には大きな時計があるのだから本当に時計塔としての機能があるのかもしれない。イギリスのビッグベンほど露骨で象徴的ではないが。
なんにせよ機能性よりデザイン性を重視したその建物は、ハッキリ言って全然県立高校の校舎には見えなかった。まるでなにか昔の建築物が保存されてるような気にしかなれないのだ。あとは大学のキャンパスとか。とにかく学び舎とは思えなかった。
「あれ、本当に学校なのかよ……?」
「一応、ね。……私も最初は場所を間違えたかと思ったわ」
「あははは……まぁ、あんな見た目だもんね。でも校舎自体とその中身はかなりハイテクな仕様になってるんだよ」
チカは感慨深そうに、ミサは苦笑しながらそれぞれ当事者として語ってくれた。その内容に自分の感性がズレていない事を知って安堵した。
「と言っても、この場所じゃあの時計のある部分しか見えないな……」
陽の光に照らされ本来以上に眩い桜色に隠されて、全容は見えない。精々があの時計塔(?)とその奥に何かまた同色の建物がある程度しか。
「まぁまぁ、このまままっすぐ行けばちゃんと見えて来るから」
「それもそうね」
「……じゃあ、行こっか」
そう言ってミサが微笑んだ戸頃でチカも薄く笑い、再び止めていた足を前へと踏み出していく。
その瞬間だった。
風が、吹いた。
春らしく強くも冷たくもない、花の匂いを運ぶその風は二人の頬を掠め、綺麗な髪を揺蕩わせる。
それに微笑みながら髪を押さえる彼女達の横顔を見て――――。
――――ドクンッ。
鼓動が一回だけ不自然なものになった。
二人の横顔を見ていたいのに見ていられない――そんなもどかしい気持ちが自分の心を掻き立てる。まるで運ばれた花の匂いが鼻腔を擽るように、自然にそっと。でも確かに。
ぐるぐると。
さっきまで平静だった感情がざわめき、思考がどんどんおかしな方向へと転がっていく。
(なんだよこれ――――)
いや、知っている。
でも気が付いてはいけない。その先に触れてはいけない。
だってこれは、
「――透? 透ってば」
「――」
意識を目の前の現実に引き戻すと、俺の顔を除き込むようにしてチカが首を傾げていた。また少し離れた所からもミサが心配そうに俺の事を見つめていた。
「……どうしたのよ? 急にボーッとして」
確かに、顔がじんわりとだけ熱を帯びている気が…………しなくも、ない。
「大丈夫ですか? もしかして風邪でも――」
「あ――あぁ、…………あー、いや別になんでもない。ただこの景色も見た記憶があるような気がして見蕩れてたんだよ」
……嘘は、言ってない。
「そう、ならいいけど」
「帰りもまた見れますよ」
「…………ああ」
俺の誤魔化すような台詞に取り敢えずの納得をしたのか。
改めて歩み出す幼馴染み二人に置いてかれないように、俺も早足で彼女達の背中を追う。
先程の風にさらわれたのか、桜色の花弁が一つ、俺の顔を遅れたように通り過ぎる。おかしくもないはずなのに、不思議と笑みがほんのりと浮かぶのが自分でも解った。
そして。
――――今までとは違う何かが、ここから始まるのかもしれない。
そう、思った。
――――果たしてこれは自覚なのだろうか?
きっかけは些細ながらも、歳月によって『子』から『娘』に変化していた事をようやくになって思い知らされる透。同様に二人も少年の変容を感じ取っていく。
つまりはここまでが彼ら彼女らのおはなしの序章と言えるでしょう。
結局は何が『仲介』だったのか――そんな、幼馴染み達による物語とも言えぬ何かの第10話「仲介」でした。
次回こそ第11話です。
拙い文章ではありますがここまで読んで下さった方、ありがとうございます。願わくは次回も読んでいただければ幸いです。
それではまた27日に。




