第10話 「仲介」―D
最中「時間を下さいなんでもしますから!」
??「ん? 今なんでもって……?」
というワケで一時間遅れの投稿です。
まさかのDパート。いい加減先進めやと本人自身が言いたくはなりますが、それはそれという事で。
ミサの家を発った俺達はそのまままっすぐ進み、大きな道へと出た。そこには桃色の美しい花弁が完全に開花し咲き誇った木々が柵のように道の左右両端に立ち並んでいた。眩しい朝日に照らされているそれらは、まるでそれ自体が輝きを放つ神聖な存在のようにも見え、不思議と目がそちらに移ってしまうのだった。
家を出る前のミサが言うには、どうやらこの大通りをまっすぐ歩いた先にに学校があるみたいだ。大通りの右手には『上ヶ崎駅』と書かれたやや広めのホームがちらりと見える事からも、移動には不便はなさそうだった。
「…………」
「…………」
「あははは……ご、ゴメンね二人共…………」
痛過ぎる沈黙に足音と渇いた笑い声だけが響く。
何はともあれようやくにして新たな学び舎へと登校の一歩を踏む事ができた明日葉透なのだった。
幸か不幸か、先程の激痛のおかげ(?)でなんとか暴力を振るわれずに済んだし。
……うん、ここだけ聞くとチカがすっげー悪いヤツみたいに聞こえるなぁ。悪いヤツでは決してないのは昨日のやり取りでも解ってるんだけど、ね。
「如何せんバイオレンス過ぎなんだよなぁ……」
はぁ……、と溜め息が零れてしまう。
「……聞こえてるわよ」
「――」
「まぁ、まぁまぁ二人共落ち着いて」
左から睨んでくるチカを宥めるように右を歩くミサが苦笑する。間に挟まれしかもそもそもの原因である俺はただただ無力だった。かといって、ここで溜め息をはこうものなら即座に何かが物理的に飛んできそうなので心の内だけで留めておく。ともかく、上ヶ崎駅前の大通りを歩きながら俺達三人は楽し……う、うん、楽しく会話して学校へと向かっていた。
しかし――。
「――綺麗だよな、この道」
「あ、トール君もそう思う?」
「ああ」
「……確かに、いつもこの時期の『桜通り』は本当に綺麗よね」
「『桜通り』?」
「この道の呼び名ですよ」
答えてくれたのはミサだ。
「そ。この上ヶ崎大通りの春だけの呼び名、それが『桜通り』なのよ」
「…………………………ヘー、ナンデソウ呼バレルンダロウネー」
な、なんだか物凄く解説したがっていらっしゃるので言わせてあげる事にした。
「それはね――」
そう言って、さっきとは打って変わって途端に上機嫌になったチカ曰く。
なんでも『かみさくら』と呼ばれるこの場所の土地神を祀る石碑を護るように聳え立つ大樹を筆頭に、この大通りを桜色の木々がまるでガードレールのように囲っている事からだそうだ。
「――って、そのまんまじゃん!?」
解説いらねぇ!!
「そ、そうかしら」
「『そうかしら?』じゃねーよ! なんだよ今の説明パート、アニメとかだったら丸々カットされるくらい無駄だったわ!!」
「あ、アンタは何基準で言ってるのよ!? しかも説明パートとか無駄って!!」
「わわっ、さっきより悪化してる!?」
そんな風にギャーギャー騒ぎながらも、俺は改めて周囲――この『桜通り』を俯瞰する。
確かに今まさに満開を告げているソメイヨシノの木々は圧巻でありながらも荘厳としていて、一旦目を向けてしまうと周囲の音が掻き消えていくような錯覚さえ感じる。日本体育大学などの集団行動の美しさみたいな要素もあるのかもしれない。俺達が歩いている部分が舗装されたアスファルトではなく柔らかい草原だったら絶好の、全国でも有数の花見スポットと化していた事だろう。とはいえ現在でも駅から出てきた人の中ではここで立ち止まって眺めていたりするなど、それでも結構人気みたいだった。
「ところで……」
「アンタの制服はそれ……なの?」
「あっ、そうそうブレザーの制服はどうしたの?」
「あー、えーっと……」
やっぱり突っ込まれたか。
誤魔化す必要もないので、俺は包み隠さず話す事にした。
「…………成程ね。帰り際のあの劇画チックな顔になったのにはそんな理由があったのね」
「でもトール君似合ってるよ!」
「そ、それなんだが」
まさか制服姿を褒められるのは想定外で思わず気恥ずかしくなったが、ついでに訊きたい事をついでなので二人に訊いてみた。
「……俺ってどっちの制服のが良いかな?」
もしブレザーのが心象が良いのならそっちを明日中には買っておこうとは思うが、こっちで良いなら無駄に金を使わなくていいかな?――と思っての質問だった。
だが、
「「こっち」」
即答だった。
しかもハモってるし…………。
色々と恥ずかしいじゃないか――――
――――とお喋りしながら歩いていると。
「――あ! あれだよトール君!」
「?」
「ちょっとだけしか見えないかもしれないけど、あれが学校だよ!」
右隣を歩くミサが突然声を上げた。と思ったら、これまた急に俺の肩を叩き、なにやら遠くを指差し始めた。
日差しに手を翳して目を守るようにしながら、ミサが指を差した方向を注視する。
すると。




