【番外編】菓子の貯蔵は十分か―d
加筆・修正したのでそれ以前の同パートは削除で再投稿。
お昼頃だと言ったな? アレは(今日が平日だとすっかり忘れ切っていた私の、結果的には)嘘(ついたみたいな状態になってしまっただけ)だ。私ポカり過ぎィ!
そのお詫びではないですがかなり加筆・修正されてますので「えーメンドクセー」とか思われたとしてもどうせ読んでいただけるのならば全文読んでいただく事を推奨させていただきます。つまり内容がゴロッと変わっている――前状態の同パートを削除したのはそれが理由だからです。
……あと更新した事に気付いて読んでもらえるかなーなんて邪心もありました、ハイ。
長くなりましたが、とにかくどうぞよろしくお願いします。
#08
手に持っていた購買のビニール袋がツルツルとした硬質な白い床にぶつかる音、それからその袋の中身がばらまかれる音が遠くから聞こえるようだった。一応パン自体も梱包されているので衛生面としては問題じゃないし、寧ろ問題にすべきなのはそこじゃなかった。
「…………………………、」
「…………………………、」
経験はないが、多分お見合いとかって最初こんな空気なんだろうなーとか途轍もなくどうでもいい事を考えて現実逃避をしたくなった。要するにホント助けて。
「――」
顔を見合わせた当初は友花さんの怯えた表情が映っていたのだが、
「…………………………?」
次の瞬間には友花さんらしからぬキョトンとした表情に変わり、
「――――、」
更に次の瞬間には彼女の顔がまるで風呂に浸かったかのようにゆっくりと、しかし確実に紅く染まっていってしまった。
…………いやいやいやいや! そうじゃないでしょ友花さん!?
ここに来てまさかのキャラ崩壊ですか!? いや可愛いけども! 見たらニヤニヤしちゃうけども!
しかしそれはあくまで第三者の視点での話なワケであって。ガッツリ当事者の俺からすると大変ドギマギしちゃうし気不味く――気恥ずかしくなるだけでしかなかった。
「…………、あー、友花さんちょっと身体を離してもらえますか?」
目をオドオドキョロキョロさせている友花さんなんて中々に新鮮でレアで、なにより大変可愛らしいのだが今の状況ではそれはこの状況を悪化させる要因にしかなりえなかった。というかそもそも話が届いてるのかも――――、
「――っ、ごめんなさいっ」
――――と唐突に友花さんに謝られた。
「って、ちょっ……!」
言った直後だった。友花さんはどうやら倒れる際に一応は両手をついてなんとか完全に俺に倒れるのは阻止していたみたいなのだが、そんなか弱い腕ではそう時間を耐えれるほどの支えにはならなかったらしく――力尽きて今度こそ完全に俺に倒れてしまったようなのだった。
「――ちょっ、友花さっ、」
完全に友花さんが俺の方へと倒れてしまった所為で友花さんってかそれはしなだれかかってるってってか良い匂いするし柔らかいし温かいしそれになにより――とそんな邪極まれりな感想が理性に対して一気に突っかかり、大混乱を引き起こしていた。
特に。
胸が――たわわに実りに実った、今作キャラ最大のオトナな母性のカタマリ二つが完全に俺の胸板に押し付けられてしまっていた。スーツを着ていようとその上に白衣を羽織っていようと関係なく。
ふにゅっ―――と。
俺の制服の防御力すら貫通する最大火力はうわその柔らかさはとんでもなく非常に不味いマズイまずいまず――――!?
「…………………………ぁ」
…………………………察してしまったらしかった。
「……あ、あの、とととおるクン」
一気にか細く、弱弱しくなった、いつもの友花さんのイメージからは遠くかけ離れた声が小さく聞こえた。おかしいぐらいに噛み噛みだったので思わず友花さんを見やれば顔が茹でダコ状態だった。……しかも視線がある一点に固定され、友花さん自身も石化したように硬直していた。
…………………………。
「…………なんでせうか」
…………この瞬間、一週廻って物凄く頭が冷静になった。
の、だが。
「あの……当たってる…………」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
えーと。不肖わたくし明日葉透は、ほとんどゼロ距離の友花さんの香水とは違う女性特有の天然の良い香りとか大人過ぎる柔らかい身体とか柔らかいメロンとかメロンとかを押し付けられたワケで。勿論俺の性別は男なのでその、ええと、あの…………………………ぅわぁぁぁぁぁ。死にてぇ。
終わった――素直にそう思った。
「へ、へ~……てっきり智ちゃんみたいに若くないからそんな反応されるとは思ってなかったな~」
いつものようなゆったりした声でぬるっとからかうつもりだったのだろう……が思いっ切り声が裏返ったりそもそも棒読みだったりと完全にアウトなご様子だった。つーか俺がヤベェ。この状況、正直死んだ方がマシなまである。というか羞恥心でそろそろ死ねる。気絶したい。
特にこの無言でシーンとした今とかな。静寂に包まれた保健室に、俺達の呼吸音どころか心臓の鼓動音すら響いているような気分に陥る。気になるその度に視線んを相手に向けると、向こうもこちらを見てきて、お互いサッと顔を背けてしまう事が続いてしまった。
「あー…………」
な、何か言わなくちゃ…………。
「え、えーと……と、取り敢えず、えっと、あの、ゆゆ友花さんはすす少なくとも若くないなんてそんな――」
…………………………なんか動転のあまりアレな本のアレする直前のアレ的な文句みたいな台詞を言ってしまった気が、する。あれ? あれあれあれ?
「そそそうかしら…………」
ほとんどゼロ距離で、友花さんが照れた表情を見せてきた。それを、俺は無意識に見つめてしまう。
いつもとは違う目の前の女性は、まるで――いや本当にただただ純粋な乙女だった。
――――目が合った。
「…………」
「…………」
……ま、マズイ、非常に不味い! というか気恥ずかしい!! 恥ずか死ぬ!!!
あまりの気恥ずかしさに発狂しそうだった。とてもじゃないが、コレは思春期男子には辛過ぎた。その羞恥をこの瞬間が一秒にも一分にも一時間にも感じてしまう。それがどれほどの苦痛か。
アインシュタインの正しさは良く理解したので、そろそろ本当に解放して――赦してもらいたかった。
#09
一体、どれくらいだろうか。
数秒か、
数分か、
数時間か。
あるいは数瞬か。
その静寂は、唐突に終わりを告げた。
他ならぬ彼女――友花さん自身からだった。
「……とおるクン?」
「は、はいっ!?」
「…………私ってどうなのかしらね?」
「へ?」
突然意味不明な質問が飛んで来た気がする。並行して雰囲気も、別の何かへと移ろいでいった感覚もした。理解不能過ぎて幻聴を疑った俺は、意図せず変な声を出してしまった。
「ちょっと、試してみたくなっちゃった……」
「な…………な、にを」
俺は考えなしにそんな呟きを零してしまった。
それがスイッチが切り替わった瞬間なのかもしれない。
「――――『本物かどうか』を」
そう言い切って、
「――――ぇ」
友花さんは、俺に近かった顔を更に近付けてきた。後ずさろうとして、そもそも自分はベッドに仰向けになっていた事を思い出した。
その間にも。
――――コツン、と。
額と額がゆっくりと触れる。相手の熱がじんわりと頭に染みて脳が融けていきそうだった。それでいて融かされていくそれと反比例するかのように身体は彫刻のように凍り付いていき、心臓が早鐘を打つのが痛いほどに響いてる感覚に、俺は苛まれていた。まるでメデューサの魔眼に魅了されるようだ。
そんな混乱に頭いっぱいになっている中。友花さんは、次には細く柔らかい人差し指で――俺の唇をなぞった。
「――――!?」
今度は完全に俺が動揺する番だった。目を向ければ――しかし普段の悪魔めいた、俺やチカを弄ろうとするあの表情ではなかった。何かを決心した、一人の乙女がそこにいた。魔眼は濡れ、唇は蠱惑的にしっとりと潤っていた。
「智ちゃんには内緒にしておいてあげるから――」
言葉が鼓膜を震わせ脳に届くより前に。額と額がくっつく距離を更に縮ませていく。ググ――っと、緩慢な速度でその甘美な唇までが触れ合おうとしていた。
「――チョコの代わりとでも思って」
ここで俺は逆に一気に冷静さを取り戻した。だが声に出そうにも身体が硬化から抜け出せず置いてけぼりをくらっていて、息さえ詰まるほどだった。その時間も目の前の顔は止まってくれない。でも理由は思い付かなくても何かはダメだと言っている気がして。でも体は中々に動けず――――、
――――このピンク色な雰囲気を誰か打破してくれな
とまで願った直後だった。
「お姉ちゃん? と、透いるかしら?」
「し、失礼します!」
ガラガラガラーッと。
保健室の扉を引く音と共に、聞き慣れた二人の声が鼓膜を揺さぶった。
「怪我したって――――――――――」
新たな登場人物の特徴的な部分は二つ。
一つは、二人ともよく見る顔――どころかご近所さんの女生徒だった事。
そしてもう一つは、彼女達は揃ってスマホを握りしめていて、どうやらメールに律儀に反応して更に見舞いに来てくれるほどの優しさを持っていた事だった。
スマホが落ちる音が、ほぼ同時に二つもした。
こんな感じでEパートも加筆・修正します。
更新時刻は明日17日午前0時。
……いやホントですからそんな目で見ないで下さい><




