【番外編】菓子の貯蔵は十分か―a
刻は来た!
馬鹿でアホでドジで間抜けで、なにより恋人いない歴史=年齢な作者が贈るうがががががががが(ry。
色々限界なので、どうぞ。
#??
……オーケーオーケー、状況を確認しようか。
今、俺は学校にいる――ここは問題ない。
それも保健室にいる――ここまではいい。
ベッドに横になっているのも、保健室に来ているワケで別にこれといって不自然な点は見受けられないだろう。そもそも俺は怪我をしたから学校で唯一にして最大の医療施設であるこの場所を訪れたのだから、おかしいどころか寧ろ心配されるぐらいだ。……頭の心配は俺自身で間に合ってるんで要らないです。
……強いて挙げるとすれば、だ。
ただ。
ただ――その上に女性にのしかかられているというのは、流石の当事者の俺こと明日葉透でさえ、ハッキリとどうかしてると思っている。
「…………………………………………………………………………………………………、」
正直言って、俺自身がこの展開についていけてない。目の前に映る驚いたような表情を見る限り、彼女さえもこの運命力の前には置いてけぼりをくらっているようだった。というか、誰かこの展開が読める奴がいたら早急に教えてほしいぐらいだ。いや何がどうなって、どうしてこうなったかは詳細に、克明に記憶している。正しくはコレは偶然の産物であり議論の余地も事件の必要も皆無なのだが……だからこそこうやってお互い困惑しているワケで。
相手はただでさえ(余程の趣味がない限り)世の男性を虜にするような体躯と容姿を持った女性であり、その事も今の俺の現実を逃避した思考回路に更なる混乱と共に拍車をかけている。
…………その上、今日という日付とそれにちなんだイベントの所為でこの場にピンク色のもやもやとした空気が漂ってしまい――要するに二人して気不味い状態になってしまっているのが本日のハイライトな気が、しないでもない。同時に、眼前の女性の普段では絶対に見られない姿が垣間見えて役得だったりもする。
だが、……やっぱり、気不味い部分の方が大きい。
相手への申し訳なさの方がどうしても大きくなる。
でも、どうすれば?
「――――」
不意に、視線が合う。
相手も相手で迷惑を掛けてゴメンね――と言わんばかりの表情で苦笑するばかりだった。……頬が僅かに紅く染まり出しているのには気付かなければよかった。それさえもいつもの彼女からしたらとてつもなく新鮮なもので、無駄にドキドキしてしまう。余裕のない顔をしてるのも中々に素晴らしくて――とまで考えそうになって、慌てて目を……どこもかしこもやり場に困る事に気付いて慌てて上を向く。そうして白い天井を視界いっぱいに映すものの、とはいえ彼女の存在感を忘れ去る代物にはとてもならず。
ただただ気不味さだけが喉に詰まるようだった。
あんまり過ぎて走馬灯を幻視しそうだ。気絶した方がマシなのかもしれないとも思ってしまう。
……なにせ、今日は朝からおかしかったのだ。
そう、あれは――――。
#01
朝。
春の訪れを感じるものの未だ肌寒く、殊更この時間は厳しいものがあり、いつもであればまた布団に包まって簀巻きになってでも暖を取りつつ惰眠を貪っていたはずだった。しかし今日が土曜日にも関わらず登校日であった事、それと…………。
「…………………………ん?」
最初、自分はまだ寝惚けていて、だからこそ脳が勘違いを起こしているのかと思った。だが、どうしても――鼻腔を擽る甘ったるい匂いだけは…………………………甘ったるい匂い?
「――――っ、そうだ!」
今日について土曜である事よりも登校である事よりも思い出すべき内容がある事に、俺はこの時やっと気付いた。と同時にたちまち睡魔は消え去り、俺はようやく動き出した脳を以って急いで部屋を出た。階段も数段飛ばしで降りていく。起きたばかりには危険だが、状況が状況だった。事態は一刻を争っていたのだから。それを証明するかのように、匂いは下に向かうにつれて段々と強くなっていく。
「おっ、今日は早いな透」
「あらあら、おはよううございます透さん」
「――待つんだ希!」
部屋を出て数秒。一階に到着した俺はそう言ってリビングに突撃して妹の名前を呼んで『阻止』を試みようと――した戸頃で、予想できていた中でほぼ最悪な現実を目の当たりにした。しかし俺は最後の希望を願って、両親の朝一番の台詞という地味にレアな存在をガン無視してそのままの勢いで台所へと走る。
「あ、おはようございます兄さん。今日は早いですね」
台所には、いつも通りにいつも通りの姿で妹が立っていた。
光の角度によっては茶色にも見える黒髪を背中の中ほどまで伸ばし、平均的な背に病弱そうな白い肌と華奢な体躯――彼女こそが俺の妹である明日葉希だ。
ちなみにいつも通りの姿とは、言わずもがなエプロン姿の事だ。か弱そうなお姫様タイプの妹には、ピンクの生地に白の水玉が映えるパジャマに羽織った母さん愛用のベージュのエプロンは見慣れたからか実に様になっていた。
……ってそうじゃなくてだ。
「――――」
「? どうしましたか兄さん?」
案の定だった。予想できていた中で最悪の状況が現在進行形で行われていた事実が覆らなかった事で、俺は膝からその場に崩れ落ちてしまった。妹は型を取りながら、俺の方を向いて首を傾げていた……それはこっちがしたいわ。
「お、お前……」
「はい、どうかしましたか兄さん?」
キョトンとした表情を見せる妹に、俺は言ってやった。
「――――なんでこんな大量にチョコ作ってんの?」
今日という物語は、もう既にここからおかしかったのだと――俺は思う。
#02
あらかじめ言っておくが、別に俺は否定するつもりは更々ない。今日という日にチョコを作ったり、それも朝から作ったり、間違って作り過ぎちゃったり……という、いわば『お決まり』を否定したりないがしろにしたり、ましてや嫌悪なんて絶対にしていない。
俺が言いたいのは、
「はぁ……兄さんは毎年毎年尋ねてきますね。もしかして記憶性の何かの症状が……」
「その話は止めろ。冗談にしちゃ性質が悪いし、なにより笑えないからな」
限度を知ってくれ、という事だった。
目の前のキッチンには、チョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコ。それらは基本的な四角形だったり菱形だったり星型だったり丸型だったりクッキーだったりパウダー状だったりクリーム状だったり団子状だったり液状だったりフォンデュみたいな存在があったりホールケーキの存在がチラチラしてたりとにかくチョコチョコ生チョコチョコ生チョコ合わせてチョコチョコまた生チョコ……まずい、ゲシュタルト崩壊しそうだ。というかチョコレート色が強烈過ぎて目がチカチカするし、なんといっても匂いが凄い。
「一応最初に言っておきますが、全部兄さんの分ですよ?」
ハッキリ言おう。
「希……お前、馬鹿だろ」
「今更ですか。というか一週間以上前に雪が降った次の日の夜に上半身裸で奔り回った挙句の果てに風邪引いて学校休んだ兄さんの言う台詞じゃありませんよね」
「ホントそれな」
マジでなんで俺やっちゃったんだろうね、あんな事……。事実を半分にした途端に変態性が増すってどういう事なの……。
「……って、イヤイヤイヤイヤ! それで誤魔化すなよ」
「…………チッ」
「可愛いって良いよなぁ! 舌打ちも可愛くて済むんだから」
「……そ、そんな急にか、可愛いって…………」
「ソコ、マジ照れしなくていいから」
そもそも褒めてないからな?
「ではでは希さんや」
「何かのう透さんや」
「…………今日の朝食は?」
「はい、チョコレートです」
「答えになってねぇだろ!」
「はい、チョコレートです」
「その『これゾン』みたいな台詞は欲してないから!」
「はい、チョコレートです」
なんかいきなり妹がNPCみたいになってしまった…………。
「……もういいや。じゃあ俺今日朝食抜きで」
「はい、チョコレートです」
「差し出してくんな! ってか朝からホールケーキは胃が荒れるわ!!」
「そ、そんな……っ!?」
急に妹が悲痛そうな声でそう言った――と思ったら涙目に、ってちょちょちょちょちょっと!?
「待った待った待った! 待ってホント待って下さいお願いしますから!!」
「…………………………では、作ったチョコ全部食べてくれますか?」
「それは無理」
「ちぇっ」
「ヲイコラ」
しれっと何恐ろしい事言ってやがんだこのお嬢さんは。しかも涙目は演技かよ……明日葉希、恐ろしい娘!
「しかし今なんでもって」
「言ってねぇよ! ――って、ああっ! そのネタに突っ込めてしまう自分が嫌だわ!!」
「ふっふっふ――ふにゅーにゅーっ」
なんか勝ち誇った顔をされたので腹いせに両頬を引っ張る。
「ふにゅーんふにゅーん」
お、結構柔らかいじゃん楽しいなコ――って違う違う。
「……兄さんのイケズ」
「いや久我山このかの真似はいいんだ、別に」
似てるのは凄いと思ったけども。
「……解ったよ。流石に全部とは言わないけど少しだったら食べてやるよ」
そう、少しだったら…………あ。
「でも次作る時はチョコっとだけにしてくれよ、チョコだけに」
「……兄さん、朝からうるさいです」
「ここだけ滅茶苦茶冷たいのな、お兄ちゃんビックリだわ」
それはさておき。
「んじゃそのコップに入ってる液状のやつ貰うから、食パンないか?」
「食パンでしたら二人が最後の一袋を――」
「やっぱりな! 畜生!!」
朝食戦争がここに開幕した。
Next(#03)
……>12:00




