第09話 「意中」―A
【最初に追記】
※今回は完全に投稿ミス(日付が9日に)なので慌てて今投稿という形をとらせていただきました。
この場でお詫び申し上げます。
因みに以下のコメントは全て今朝のものとなっております。その点を踏まえて、「うわこの作者馬鹿だなー」と思いつつお読みいただければと思います。
風邪は直りました、が前後編的な形で今回は投稿します。
いやー、マーライオンしない一日って最高ですね!
それと完全に私情ですが、一昨日実は数少ない(泣)友人が見舞いに来てくれたんですけどね、
「暴れんなよ…… 暴れんなよ……」
「そりゃ風邪引いたんだもん、仕方ないね」
などと淫夢厨っぷりを炸裂させてきてて、正直ありがたさより怖さの方が大きかったです……コホン。
では、本編どうぞ!
「ちょ、ちょっと待った」
待った待った、いいから頼むから待ってくれ。
「明日から学校だって…………?」
ここだけ聞くとただのサザエさん症候群の患者でしかないのだが、今の時期というかこの期間は――少なくとも今週いっぱいは完全に春休み……のはずだ。こちらに来る以前に通っていた高校も、確かに今週までは休みだった――――
「…………………………あ」
――――そうだ。
それ…………高校に新年度から入学する場合じゃなかったか?
ギギギギギ、と。
錆び付いたブリキ仕様のロボットが作動したかのように、ゆっくりと、歪に目の前のチカから視線を一度我が家へと移し、再び目の前のチカへと戻す。
嫌な予感が……キンキンに冷えきった氷水をぶつけられたような圧倒的な悪寒を背筋から全身へと隅々までひた奔った。そんな気がした。自分の鼓動が不自然に鳴るのが遠巻きに聞こえてくる。
そして。
「……え、まさかアンタ…………」
陽の光に照らされた……チカのその「マジですか」みたいな表情を見て、どうやら現実らしい事を俺は実感する事となった。
マ、ジか、よ…………。
俺はその場ですぐに頭を抱える事となった。
この時ばかりは周囲にチカ以外の人が通っていなくて、本当に良かったと思った。
そんなこんなで紆余曲折の末、やっとの思いで懐かしの我が家の玄関に辿り着いた頃には、もうすでに空も茜色に染まり出し、夕方の始まりをちらつかせていた。玄関に入り靴を脱いでいると母さんがリビングから顔を出していた。
「あらお帰りなさい」
「荷物整理は終わったの?」
「ええ。ただお父さんがまだまだあるみたい」
まぁ親父は仕事などの資料を以前からここに郵送してたみたいだし、持ってきた荷物も俺と僅差で家族第二位だったからな。
「そうそう昼食はどうなの? それとも何か食べてきた?」
「あっちで……チカの家で食べて来た」
「そう? なら今はお腹空いてないの?」
「……ああ」
「なら夕飯までは大丈夫みたいね」
「……ああ」
「……どうかしたのかしら?」
…………よくぞ聞いてくれた。
思わず努めて無表情を装っていた顔を笑み――いや嗤いの形に変えた。しかしすぐに元のポーカーフェイスに戻して、
「いや、実は……あー、やっぱり後でいいや」
「?」
「あ、それと希はどこにいる?」
「さぁ……下りて来た足音も聞いていないですし二階じゃないかしら」
「わかった」
俺は、洗面台で手を洗いながらそれだけを言って、二階へと階段を上る事にした。なにせ内容が内容なだけに妹にも関係のある話だったからだ。
「……何かあったのかしら?」
多分頬に手を当てながらそんな事を言っているであろう母さんの台詞が背後から聞こえるも、俺はそこで話を切り上げて階段を上った。
一段一段上がる度になる木材特有の軋む音が、少し心地良く感じた。
そんな事よりも、だった。
「…………………………なんで俺の部屋にいるワケ?」
「おかえりなさいです」
「……確かにそうだけどそうじゃねぇ」
「? 今日の兄さんは哲学者気取りですか?」
「気取りって言う辺り結構辛辣なのな……ってそうじゃなくてだ」
「三点リーダーはいいので早く言って下さい」
「メタ過ぎるし地味に寒いからねそのツッコミ。で、だ」
「はい、どうぞ」
「…………………………なんで俺の布団に包まってるワケ?」
妹が簀巻きになっていた。しかも材料に俺の布団を使用していやがった。
「……なんでチミはかなりの高確率で意味不明の行動を取るのかね?」
「魔が差しました」
「でしょうね! それが高確率だって言ってんの!!」
「ふっかふかで気持ちいいのです……すやぁ」
「寝ないでいいから――出・ろ・よぉおおおおおっ!!!!」
「あ~~~~れ~~~~~~」
戯言をガン無視して、俺は簀巻き状態の妹から布団を引き剥がす。
と、
「ばっ、馬鹿かお前!?」
「?」
案外本当に――ここに来るまで車で数時間だったので眠かったらしく、案外ロクな抵抗もせずに布団を返してくれた……のだが、如何せんおかしい。
それもそのはずだ、なぜか包まっていた妹は素っ裸だったのだから。なんでさ。
「そんな不思議そうに首傾げてんじゃねぇ! なんで素っ裸なんだよ!!」
「魔が差したので」
お前がさしたのは魔じゃなくて麻薬だろ、と思わず突っ込みたくなった。
「それはないです」
「……そこをキッパリ否定してくれたのはいいけど、この状況もこの状況で俺的にはねーよ」
というか心を読むな。怖過ぎるわ。
「それとも兄さんひょっとして……」
そこで妹はにんまりと含み笑いをこちらに向けてきた。
「な、なんだよ…………」
「もしかして兄さん、私のカラダに目を奪われたんじゃあないで――」
「それはない」
「即答!?」
「ホラ、そんな馬鹿な事言ってないで早く服着なさい。風邪引いちゃうから」
「な、なんですかその慈愛たっぷりな眼差しは……止めて下さいその優しさが痛過ぎます」
「はいはいお洋服きまちょうねー」
「……兄さん、流石にその言い方はキモいです」
それは俺も思った。
……って、違った。
「そうだそんなどうでもいい事よりお前にも関係のある話があるんだった」
「そ、そんな事よりって……」
会話が脱線して来たので元に戻そうとした戸頃、突如ガックリと両手両膝を床について項垂れ始めた妹……? まぁいいか。
「でさ……」
とにかく俺は『ある事』を話す事にした。
そして――――。




