第07話 「会合」
スイマセン、言っておいてプライベートが最悪な事になったので、短くとも区切りのいい(?)部分で投稿しました。
時間には勝てなかったよ……。
当たり前の話をさせてもらうと、この世界は異能や不可思議な『チカラ』に支配されているワケではない。人一倍に幸運に恵まれてはいな――多少は恵まれているとは思うが(特に幼馴染みとか幼馴染みとか幼馴染みとかついでに妹とか)、それでも幻想をぶち殺す事もできないし吸血鬼とのペアリングもない。ましてやタイムマシンを発明してしまうような天才的頭脳を持っているなんて、絶対にない。
だから――だからこそだ。
敢えて言わせてもらおう。
「……ぐふっ、ごほっ、がはっ…………」
「と、トール君……」
「げふぅ…………」
「何よ、言いたい事があったらハッキリ言って頂戴」
「おみゃえにょしぇいだりょうが!」
正しくは「お前の所為だろうが!」である。ここテストに出ないから憶えておかないように。瞬間的に忘れましょう。
で、本当に言いたかったのは、
(…………耐久値が高くて助かったぜ)
じゃなけりゃ殺されてたからな。
勿論、犯人はチカである。
「手加減されているだけマシと思いなさいね、フン」
大山家リビング3度目である。
俺の隣に座って――腕を組んでツーンと俺と視線どころか上半身を向けさえしないでそう語る暴行犯・チカ。唯一こちらに向けている綺麗な左手も、ご丁寧に中指を立ててくれただけだった。ガイシャの容態とか気にしてくれたっていいと思うんだが。それと腕組みは止めてくれ、その両腕に中々なお胸様が乗っていて、凄く目にのやり場に困る。……のに目が言ってしまうのは思春期男子高校生にとっては致し方ないと思います、ホントにね。
「とおるクンったら本当に大胆なんだものね~」
俺達とテーブルを挟んだ向こう側で微笑ましそうにそう言うのは、のほほんとしていながらその実最も人を弄りに弄る悪魔こと友花さん。病的ではないとはいえ荒事には向いてない――どころか「あっ、荷物運び? でしたら俺やりますよ!」と言わせそうな細く白い腕、その両手を端正で柔らかそうな頬に当てて微笑んでいる姿は女神のようだ。……騙されてはいけない、絶対にだ。
「…………………………、」
そして、その悪魔友花さんの隣に座り視線をキョロキョロ――いやオロオロあわあわとさせている、保護欲を全開にさせてくる小動物感たっぷりな少女。彼女が先程の訪問者で、大山智香――チカと対をなす幼馴染み・三咲可憐その人である。当時は苗字からとって「ミサ」と呼んでいたっけか。
しかし…………。
「…………、」
「…………、」
多分自意識過剰ではないとは思うが、ミサが何度かチラチラと上目遣いに俺の方へ視線を向けてきている気がする。俺自身もさっきから窺うようにミサを見てしまっているのだが、いやはやこちらもまた7年という歳月の重さを教えてくれている気がする――そんな成長を果たしているような……。
太陽に照らされたように明るい茶髪をおさげで纏めており、さっき言ったみたいに柔らかな――保護欲をそそる印象を与えてくる。それでいて女性平均ぐらいの背丈でおとぎ話に出てくるお姫様みたいな華奢な体躯を発揮している。隣のチカの健康的な――ファンタジーの女騎士を連想させるナイスバディとは正反対なのかもしれない。
……それと、いや、何よりも、いや、えっと…………。
「?」
「どうしたのよアンタ?」
幼馴染み2人が分からないままに俺の不躾な――はっきり言って邪な視線を感じ取ったらしく、同時に怪訝な顔をされ、思わず自分は何も言わずそっぽを向く。
「どうしちゃったのかな~ とおるクン~?」
残る友花さんがいつもの(とはいえ今日再会したばかりなのだが)含みのあるトーンでそう俺に問いかけてきた。アノ表情は絶対知ってる。性として仕方が無い部分もあるかもしれなかったが、流石にガン見し過ぎたか。
言えるワケなかった。
言えるワケないだろ、その…………。
「言いづらいなら代わりにお姉さんが言ってあげようか~?」
「!?」
「え、お姉ちゃん何か知ってるの?」
「ええ~、まぁね~」
この人、ニコニコしてとんでもなく恐ろしい事を提案してきやがった! ってかチカ、お前がなんでそこで身を乗り出して食い付いてきやがる!? 別にいいからそういうの、ホントに止めて!!
「ちょ、ちょっと待っ――むぐごがっ!?」
「いいからアンタは黙ってなさいよ……で、何なのよお姉ちゃん?」
本気で止めてもらいたいのですかさずそう言――おうとすると、チカに口を封じられた。なんでさ!? なんでそんな食い付きがいいのよ、この大山さん家の次女さんは!!?
……あ、でもこの手結構柔らかいかも…………。
「多分ね~、とおるクンはね~」
ハッ!?
しまった、チカの手の柔らかさに気を取られている隙に着々と話が進展しそうなっていた。なんて策士なんだ大山智香――――
――――とか考えている内に、
「可憐ちゃんのおっぱいに目が釘付けだったのよ~」
そう、あっさり言われた。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
さっきまでなんやかんやで騒がしかったこのリビングが、言葉という爆弾で荒野と化したのか、静寂に包まれた。不気味なほどの沈黙。思いの他強い力で口に栓をしていたチカの手が、電池切れを起こしたかのように急に解放してくれたぐらいだった。
……そしてなにより図星だった。
多分ここで俺がNOと言えば良かったのだろうが、痛いぐらい的確に、明瞭に正解を言い当てられた所為で、とっさの反論が全くもって構築できなかったのだ。
だって、ねぇ。あんなたわわに、チカより大きく友花さんに追いつかんばかりに豊満なそれが……しかも2人とも同じ学校に通っているらしくチカの部屋で見覚えがあるそれをミサも着用していて、その制服をそれが押し上げているものだから…………ホラ、ねぇ?
後、(一応とか言ったら殺されそうなので)れっきとした女子である友花さんが「おっぱい」って言っていいの? 俺でさえ精々が「胸」とか「メロン」って考えていたのにこの人は……っ――あ、でもちょっと友花さんの雰囲気としてはOKかなとか思ってしまう辺り、俺の頭も相当にやヴぁい。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
とにかく、この怖過ぎる無音が耐えられない。痛い痛い胃が痛過ぎる本当に胃に穴が開きそうなぐらい痛いし頭痛も眩暈もするからこのまま気絶して楽になりたい――なんて考えてしまうのは、やっぱりダメなのだろうか。
どうしてくれるんだ、友花さん…………。
「あら~、どうしちゃったのかな3人とも~?」
当の言葉の爆弾魔は平然とそんな事を言ってきやがった。同時に、ピクリと肩を震わせた同学年ってか幼馴染みが2人。特に、見るからにミサの顔が蒸気でも上がりそうなほどに真っ赤に染まっていく。ゴメン、ホントにゴメン。
「…………、」
いたたまれなくなり思わず顔を上方に向けると、シミひとつない真っ新で真っ白天井が視界いっぱいに映った。
「……………………………………………………………………………………………、あー」
これは、もう……アレだ。
どうせこの後俺が執るべき行動の最適解も、それをしてでも変更不可な末路は大体の予想がつく。要するに『詰み』。
だから、もう敬意なんて微塵も出さずに友花さんに対して(後が怖いので心の中でだけ)言いたい事だけ言わせてもらって締めくくろうと思う。
……この悪魔めぇええええええええええ!!!!!!!!!!
次回は02月04日(時間は未定)更新です。
引き続き、応援よろしくお願いします。




