【番外編】鐘の音が鳴る【前編】
「ホラ、兄さん。あともうすぐで新年ですよ」
「?」
妹が作った年越しそばを啜りながら、観ていたテレビの上に掛けられている円盤型のデジタル時計を見やる。確かにもうすぐで――今は11時45分を指していた。『紅白歌合戦』が丁度終わった戸頃か。
「そうだな」
「年賀状は書き終わりました?」
「もう先週出しに行ってたろ」
「とか言って幸姉さんの家行ってたじゃないですか」
「「ぶっ!?」」
「「はい?」」
そんなとんでもない事をリビングにぶちまけられ、俺――とサチは啜っていた年越しそばのつゆを噴き出しそうになった。俺らはシンクロしたかのように同時に口を押さえた。
「ちょ、ちょっとちょっとアンタ!」
「とととトール君!?」
即座に突っ込んできた両隣りに座るチカとミサ、それから対面に座るサチから視線を感じて、顔が不自然に熱くなって……、って違う。
「ち、違うわ。私がここ、こっ、こんな変態と一緒に家になんか――」
噎せた俺の代打とばかりにサチが弁明しにかかっ……アレ? 俺がボロクッソ言われてるだけじゃね?
必死に注ぎ足されていた麦茶を飲み干して、喉のつまりを胃袋へと消してから俺が弁明を図る事にした。
「いやホントに違うからな!? いやだってコイツが下着とか生理用品とかで荷物がいっぱいだったから俺が家まで運びにいっただけなんだって!」
――――一瞬で。
「「「……………………………………………………………………………………………………………………」」」
騒々しかったリビングに、静寂が舞い下りた。
「だからそれを運んだだけだから、ホントに何も――」
そこで、気付いた。
「「「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」」
その静寂が、とてもとても痛々しい事に。
「あ、アレ? み、みなさんどうしたんでせう?」
ギギギ、と。
ブリキの人形のように、サチの方へと視線を向ける。
と、
「…………ッ!!」
彼女は震えて、
「こんのっ、馬鹿ぁあああああああああああっ!!!!!!」
次の瞬間、俺の視界がブレた。
同時に。
新年を知らせる鐘の音が鳴った。




