第05話 「対面」
ホントは正午に出そうと思ってましたが急遽書き直しました――。
お久し振りです、一橋最中です。
今回は第04話の後編といった形なので、ちょっと分量が少な目(?)な気がする私です。……だからと言って内容が濃縮されているという訳ではないのであしからず。
本当に(数少ないかもしれない待っていてくれた方には)お待たせして申し訳ありませんでした!
orz
お詫び、という話になりますが、この回の直前の『……』の本文に、VSSを書きました。
それでは、どうぞ。
「いただきます」
「どうぞ~」
さて。
俺は、折角友花さんに差し出された、紅茶が注がれ湯気が収まってきた純白のティーカップを顔に近付けた。オレンジと言うかブラウンと言うか――そんな紅茶を、俺は音を立てないよう注意を払いながら口に含んだ。レモンでも搾ったのだろうか、香りと味わいにも爽やかさにも似た酸っぱさが拡がっていた。シンプルに言えば、美味い。
つくづく目の前のこの女性には適わない――そんな事を改めて俺は、味覚から思い知らされてしまっていた。……それともここは「味わった」と言うべきだろうか?
何にせよ、人間、胃袋を掴まれると弱いというのは、れっきとした事実なのかもしれない。それよか俺の食レポ(?)酷過ぎるだろ。
……さて。
心行くまで上等(少なくとも俺が今までに飲んだ紅茶の中では最も)な紅茶を嗜み、また音を立てないようにティーカップを最大限丁寧に置き、
「 イ・ヤ・で・す 」
小学生の我儘のような、いやそれよりもっと考えなしでアホっぽい口調で、却下した。
「え~?」
と言って小首を傾げているのは、他でもない。友花さんだった。
「とおるクンだったら、『仕方ねぇな、フッ』とか何とか言っちゃって、からの即実行してくれるとばっかり思ってたのに~」
「……少なくともそんな中二病の塊みたいな台詞を恥ずかし気もなく言える自分なんて知りませんし、心当たり、ましてや記憶にすら皆無なん――」
「ちなみにコレは七年前の小っちゃいとおるクンが言ってた事よ~?」
「言ってたんかいっ!」
「あとは~、」
「いやもう結構ですから――!!」
「そうね~ 右腕と右足がどうのこうのとか~」
「ぎぃいいい!!!!」
「他にも眼帯をつけてて~」
「ちょっ、待っ――」
「病気か怪我かと思って『どうしたの~?』って訊いたら~」
「あのホントに止めて下さ――」
「『これは封印だ』とか言ってたとか~」
「キヤァアアアアアッ!!!? 鬼ぃいいいいいいいいいい!!!!!!」
「それと~」
「うがぁああああああああああああああああああああっ!!!!!?」
【以下略】
「…………………………」
ガッツリ過去に爪痕を残してやがったじゃねぇか、俺。
盛大に爆発しやがった羞恥心のおかげで、俺は思わずテーブルに顔を押し付けた。それから頭を抱えてイヤイヤと首を振って悶えた。
中二病に罹るの早過ぎるだろ。ヤバいヤバい恥ずかし過ぎる。もし俺の精神が画面上辺りにバーとして表示されているとしたら、多分毒状態より速くガリガリと削られていってる、と俺は思う。ちなみに今はゼロだ。
……ってか、今サラッと小さい頃から既に俺に『お願い』をしていた事実を遠回しに暴露された気がするんですがそれは…………。
流石に話も進まな過ぎるので、辱めを受けた(いやただの自爆だろ)俺は、テーブルに押し付けていた顔を上げた。なぜだか視界がぼやけて見えた。あれ、おかしいな……。
友花さんを見ると、こちらを微笑ましそうに――――チクショウ。
「ふふふっ。まぁ、それはさておいて~」
もっと早く「さておいて」欲しかったのですが……。
「それで~、どうしてダメなのかしら~?」
「え? あ、えっと」
俺の心の叫びはカットなのか。それはさておき、本筋に切り替えられ、思わず言い淀む。
「……、」
「ん~?」
友花さんが不思議そうに(どっちかって言うとあなたの方が色々と不思議だとツッコみたいのはグッと堪えて)小首を傾げてこちらを見つめる。
ぶっちゃけ、不吉な予感しかしない。以前だが、『向こう』でも似たり寄ったりな経験があったのだ。だから解る。特に、別に俺じゃなくてもいいところがキーポイントだ。
「ね~?」
だが。
でも、
「…………………………、」
俺は友花さんの前屈み(哺乳類の象徴、すなわ――の辺りが凄い事になってる)での『お願い』に、
「……解りましたよ」
「そう~ よろしくね~」
苦渋の表情で申し訳なさそうに断っ――――
――――あれ?
「えっ、あっ、ちょっ」
「よろしくね~」
そう言ったっきり、友花さんは台所の方へいつの間にやら回収していたティーカップ達を運び終え、洗い物開始の合図である蛇口を捻る音を奏でてしまっていた。
……まぁ、アレだ。
男は――少なくとも俺、明日葉透は馬鹿だという事だ。
#06
そんなこんなで。
しばしば『体は正直』という理論がアノ手のもので使われるが、少なくとも自分(の本意)には正直ではなかった事を証明してしまった俺は、大変不本意ながらも無意識で了承してしまった案件を消化すべく、二階へと向かった。いや、既に説明された彼女の部屋の前まで足を運び終えていた。
……ホントに何で自分で行かないのやら。
「はぁ……」
嘆息。
とはいえここまで来たし、挨拶だと思って一丁腹を括ろう――そう思い直し、俺は扉をノックした。
ノックをする――これで大抵の不幸は回避できると言っても過言ではないどころか各界の『主人公』達には是非ともお勧めしたい行動を、俺は以前の経験を基に実行に移した。
ハッキリ言って、俺は別に妹や『向こう』でよくつるんでた彼女(甘酸っぱさゼロのただの三人称)と駄弁っていたし駄弁っているからといって、女性慣れをしている訳ではない。第一に妹は『女性』の認識ではないしな。それは限りなくアウトだしな。ましてやこの扉の向こう側におわすのは他でもない、七年振りの『幼馴染』だ。なので扉をノックするのにも勇気を総動員したし、今も心臓が握り潰されそうな緊張っぷりだ。手汗とかかきそうだ。
「何?」
と、ここで向こう側から声が聞こえて来た。
息を呑みこんでから、俺は「入るぞ」と声を掛け
「…………え?」
てドアノブを捻って扉を開いた――――え?
「「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」」
時間が急停止した。
確かに、少女が――月日相応に美しく成長したいつかの『幼馴染』が、そこにはいる。
記憶の奥底の少女は、背は大体一六〇センチは超え、髪も腰ほどまで伸びて、成長と歳月を実感させてくれた。
…………………………なぜか下着一丁の姿で。
「…………えーと、」
朝『向こう』のマンションを出る時にネットで見た天気予報通りの高温だったのだろう(俺は車に乗って来たから実感がなかったが)、薄い青紫色をしたワイシャツは肌に張り付き、友花さんほどとまではいかないが、薄い生地からそれを盛り上げていた白い水玉模様のブラジャーやら肌色やらが透けて見えていた。
着替え途中なのか、さっきまで着ていただろう上着とネクタイは手に引っ掛けて、深緑のチェック柄のスカートを脱いでいる状態で硬直していた――つまりお尻を扉側にやや突き出す体勢で止まっていた。同じ水玉模様のパンツは心なしか『きゅっ』と効果音を出しているようだった。違った、正式にはパンティーだったか。
「…………………………」
アホみたいに口を開けてアホみたいな理解をして、ようやく全体像が見えてきた。
アレだ――おおかた俺のノックを友花さんのものだと勘違いしたのだろう。現に友花さんの声も聞こえなかったようだし、誰かが来ていたのも気付いていなかったのかもしれない。目の前の彼女は目を真ん丸にして思考すら停止しているようだった。
「きっ――――」
二階に一階の音が聞こえないのは防犯上大丈夫なのか、そんな心配もあったがそれは場違いだ。問題はこの状況からどう穏便に和やかに解決するかだ――――
「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?」
――――瞬間的に視界がブレて、同時に俺の意識がもっていかれた。
これが。
七年振りの『幼馴染』――大山智香との、最低で最悪の再会だった。
次回第06話は11月05日正午更新予定です。一応言っておきますが今年の話ですよ、ええ。
ほぼ二ヶ月もの間待って、しかも読んで下さった皆様には感謝感謝です!
Thank you! 謝謝!
次回も見て下されば幸いです。では。




