第二十二話 「志気」
私の嗜好が投影された気がする……。
ではどぞどぞ。
ミサと教室に戻る途中、俺は寄り道する旨を伝え北校舎二階の渡り廊下で彼女と別れた。「じゃ、教室でね!」と笑顔で手を振り応える姿を微笑ましく思いながら同じように手を振り返した。とてとてと早歩きするミサの後ろ姿が遠ざかるのを見ながら、あと十分で始業の時刻なので足早に一階に下りて購買スペースに向かう。
購買スペースは時間帯も相俟って既に人気はゼロで購買自体も軒並みシャッターを閉じていた。さながら寂れた商店街を切り取った光景に苦笑を零しながら俺は足の速度を落とさず自販機に向かう。自販機横のゴミ箱に空になった『〇菜生活』の紙パックを投げ入れる。
「やっぱないんだよな…………」
自販機に飾られている(?)商品を眺めて呟く。
俺は『野〇生活』はペットボトルなリフレッシュ派だ。ホントあれ自販機で中々お目にかかれないんだよなぁ……今んとこスーパーとかショッピングモールで見かけた事しかなくて非常に残念に思っている。あの喉越しと控えめで程好い野菜由来な甘さが導く爽快感が良い。とても。俺がおめない炭酸飲料を「カァーッ!」とか言って飲んでる奴とかいるけど正にそんな感じだ。ってかマジ炭酸飲料の奴「清涼飲料水」呼ばわりすんの止めろ。中学の時知らずに買って家で思いっ切り吐いちまったじゃねーか。つーか家族も気づいてたんなら言ってくれよ……。
俺は苦い過去を思い出し溜め息をつきながら、仕方なしに『〇右衛門』のボタンを押す。自販機で困ったらお茶。これは炭酸飲料飲めない奴の常識だ。絶対あるしな。
ガコンッ!と容器凹んだんじゃね?とさえ思える音を立て出て来た『伊〇衛門』を取り、俺は再び――今度は教室に戻る為に――足早になる。自販機から吐き出されたばかりの商品独特のひんやりとした冷たさが手のひらを刺激した。
# # #
四時限目は数学だった。昨日と大して変わらない内容に俺は欠伸を零して、
「では一番――明日葉、練習十のカッコ二の答えは?」
「商が二エックスプラス六で余りが二エックスマイナス三です」
「うぅむ……」
小姑の詰問にさっさと答えて、俺は外の景色をボンヤリと見つめていた。
「zzz…………」
何せ横見たら俺も寝ちゃいそうだから。この気配遮断スキルは是非とも見習いたい……よく寝顔が絵になるよなコイツ……顔が良いって得で良いよな……頬とか唇とか柔らかそうだよ――――
――――ゾクゾクゥッ!!!!
「!?」
――――な…………………………。
今の一瞬。
凄い殺気が――確実に俺の背中に突き刺さっていた。自意識過剰であったらいいがコレはどう考えても同じ列の一番後ろ、大山さん家の次女さんからだった。理由までは判らないが。
兎にも角にも。一気に目が醒める寒気に襲われ、俺はランドセルのCMの背筋ピーンを実践する事となった。
# # #
人類の三大欲求とはよく言ったもので、お隣さん程ではないが一時の寒波如きで睡魔に抗うのは唯の〇ンスターボールでレベル百の〇ケモンを無傷で捕まえるのと同等かそれ以上だと思い知った。まぁ、俺は『〇ラチナ』しかプレイした事がない上に〇ッチャマがレベル十になった辺りで飽き始めて『〇しぎなアメ』使いまくった経験しかないんだけどね。いつか真正の人に刺されそうで怖い。
閑話休題。
要するに五時限目の有紀子女史の授業でまたもや熟睡してたので宿題がもう一個増えるドン!という話だった。正にノルマクリア失敗。やっぱり隣は無罪放免どころか発覚すらしていない有様だったが。最早睡魔を飼い馴らし、味方につけているまである。
六時限もHRも終わり、昼休みに購入した『伊右〇門』のキャップを回して開け、一口含む。軽い渋みがアクセントだと思うのですが皆どうでしょう?なんとなくミサの方に視線を向ければアッチも気づいたようでニコッとしてうんうんと首を縦に振って肯いてくれた。嬉しいけどこの主義主張は届いてないよねやっぱ。
……ぶっちゃけ俺はお茶『生〇』派だしね。やっぱり爽やかさ目当てだった。『〇茶』の茶〇ンダ先生のキーホルダーと弁当入れは今も使ってたりする。今日は妹の機嫌が(本当に本当に珍しく)アレだったので違うやつだったが。ちょっとショック。ホント自販機の品揃え頼むわ上ヶ崎……また茶パ〇ダ先生のあのパッケージで飲みたいです……。
脳内でイタい自論を展開させながら今度はチカの方を見やる。
するとチカは、
「………………」
無言で席を立つやいなや速攻で教室を後ろの扉から出て行ってしまった。愛なき時代に生まれたワケじゃないんだが……。流石は『雪女』(笑)。ありのままの自分とか風刺効き過ぎだろ。いっそ『女王』まである。余談だが俺は日本語派――を親父がかけてたのを聞かせられた。観させられた。……親父ェ……。
「帰るか」
俺も教室を立ち去る事にした。
……だからボッチじゃねぇし……多分…………。
# # #
「「希ちゃん?」」
「どーもです」
「待たせたな」
俺の〇ネーク(意味深)はなかった事にされた。ミサだけはてなとリアクションをとってくれた。二重の意味で泣きそうだった。
それはさておき、いつものメンバーに妹が混ざっていた。理由は朝妹が自転車を駐輪場に止めてくれたのだが、如何せん鍵がきっかりしっかり施錠されていたので妹を待つしかなかったのである。二重ロックな上に結構な重さを誇るので持ち運ぶという案はもとよりなかったし。
で、やって来た妹と一緒に校門まで向かえばお馴染みというか幼馴染みな二人が待っていた。
説明終了。
別に尋ねられたのも煙たがられているからではなく、寧ろ合流した途端に二人と『がーるず☆とーく』に花を咲かせていた。俺は最早(自転車の籠にブチ込まれた)妹の荷物持ちと化していた。確かに妹は何だかんだで対人性能が何処かのボッチ兄貴と正反対な優秀さを発揮するのは知ってたし人と仲良く出来ているのは兄として嬉しいが、その、…………泣くぞ?
そんな事を考えて、俺は気を紛らわそうと『伊右衛〇』に口をつけ
「あ、ところでチカちゃんとトール君って朝どうしたの?」
「ぶっ」
『〇右衛門』噴いた。
お読みいただきありがとうございました。
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随時修正致します。
引き続き、『おさどう』をよろしくお願い致します。




