第二十話 「不意」
睡魔に襲われ時間に魘され……。
助けて〇ラえもん!
……では、始まりまーす。
ドッキリ系のホラービデオよろしく登場した悪魔――――いや妹は嗤いて曰く。
「どうしたんです兄さん?
そろそろ来る頃合いだとは思ってましたよ。
ホラ。
鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔をしていないで――――
――――何か私に言う事はありませんか、兄さん?」
俺、屈辱的に体を九十度に折り曲げて曰く。
「嗚呼。私ノ可愛イ妹、希ヨ……ドウカ私メノ弁当ヲ返シテイタダケナイデセウカ?」
妹、再び嗤いて曰く。
「今日の兄さんは素直さんです……ふふふ」
そして。
いいんちょさん(平仮名が正義)、忘れられ曰く。
「ええっと……あのー、入り口前で立ち止まってるのは他の方に迷惑が……」
回想終了。
そして世界は動き出す。
+ + +
「結構違うだろ!!」
# # #
いいんちょさんな彼女――御園あかりの粋(?)な計らいにより、二人に連れられて俺は一年一組の教室に入った。
即座に胃が痛くなった。
何かあちらやこちらから痛々しく刺々しい視線が俺に突き刺さって来るんですケド……。
まるで冷蔵庫、いや液体窒素の充満した密室に閉じ込めたかのような絶対零度な冷気が届いて来て、思わず中学校の合唱コンクールで急遽指揮に抜擢された時以上に吐き気に襲われた。寧ろ見舞われた。
……いいんちょさんからはそんな寒波が訪れていないのが唯一の救いだった。
もう弁当貰ってさっさと帰りたい。というよりこの場から立ち去りたい。既にごはんが喉を通るのか怪しくなってきた。妹のクラスに来ただけで火曜サスペンスに巻き込まれた気分になるとか、どういう事なの?
そんな肩身の狭いっていうか削られている気がする俺の心情を知らず、いいんちょさんは立ち止まり治癒魔法でも発動しているかのような雰囲気を以って言った。
「さぁ、希ちゃんもお話はここでどうぞ」
妹のお気に入りな理由が解った気がする……血筋か。
「あーちゃんはやっぱりあーちゃんですね」
そう言って二人は辿り着いた席に着席する。机をくっつけている辺り、どうやら二人でランチタイムを過ごしていたようだ。二人の苗字を考えれば席が近い訳でもないし、幾分か気心の知れた仲にでもなっているのだろう事が窺えて兄である俺としては嬉しく思う。今は癪だったり他の要件があったりするので言わないが(ちなみに癪が九割で、正に尺をくっている感じだ)。
さて。
「希、それで弁当は?」
「頭が高いですよ兄さん」
「今日のお前の俺への当たりキツくね!?」
「にーいさんっ♪」
ウインクされた。綺麗なのに体が震えて鳥肌が立った。
「……弁当を返していただけないでしょうか」
再びの直角な姿勢での嘆願。最早空腹云々以前に目的を達成して、この針の筵から脱出したかった。良心が字氏の大半の冷気に首を傾げる少なめな男子と目の前のいいんちょさん位だからな。
しかし、妹の返答は――――
「一つ条件があります」
――――実質的にはNOを意味するものだった。
……こいつの条件とか嫌な予感がするなー。
そう思って顔を上げると――――普段は見せない真剣みを帯びた、至極真面目な表情の妹がそこにはいた。思わず見蕩れてしまった。妹なのに。
「……条件って何だよ?」
空気の変容っぷりに俺も身の引き締まる思いで尋ねる。
凛々しささえ出す妹は言う。
「条件は、そうですね――――」
# # #
「はぁぁぁぁぁ~~~~……」
重く長い溜息をはく。
胃が痛くなった理由が変わってしまった。
今日の妹は日中辛辣が予想されます、気の疲れに十分ご注意下さい――って感じだ。そんな「条件」だった。
「と、言われてもだな……」
はぁ……とまた溜め息。溜め息は幸せが逃げると聞くが、それが本当なら今の俺は貧〇田紅葉級の不幸エナジーの持ち主になるよね、はい論破。
というワケで、折角弁当も奪還(?)したし目的の屋上での昼食が今日も実現出来たのに気分はブルーだった。屋上でメシ食うのには結構な憧憬があったんだけどなぁ……以前の学校ではサチと教室で食ってたし、屋上に鍵掛かってたからな。
あ、今一人なのはアレだよ?別に友達がいないとかそういうのじゃなくてさ、ほ、ホラ、アレだよアレ……嘘です独りボッチです。はい。
「はぁ……」
ボチボチと今日の弁当・青椒肉絲をお箸で啄むように独り寂しく食べる。
ムムム!
青椒肉絲は細い肉の凝縮された旨味とピーマンならではの苦味が良いんだよね!!
うん、美味い!!!
前言撤回、箸が進んだ。
ちなみに我が家の青椒肉絲は『C〇OKDO』のあのパッケージの赤と黄のパプリカをそれぞれニンジンとジャガイモに変えたものなので日持ちはしづらいが栄養価と美味さは抜群だ。
そう一人、いや独りごちしていると。
――――キィイイイ……。
屋上への唯一の出入り口である錆びれた扉が開いた音が聞こえた。
扉に背を向け景色を楽しみながら食事していた俺は、人気ゼロ(俺除く)の世界への突然の来訪に驚いて振り返る。
すると。
「お、おはよー……あはは」
苦笑したミサがそこにいた。
…………………………。
………………。
…………。
……こんにちは(cv.〇木隆之介)
日頃なら癒し要員なミサなのだが、なまじさっき妹に言われた「条件」の所為でミサへの応対にちょっと違和感が出そうで怖い。
で。
「トール君、」
そういう時に限って、
「少し話したい事があるんだけど……いいかな?」
何かあるんだよなー……。
……実は上目遣いにキュンと来ました、なんて言えない雰囲気だった。
アレ、今日はシリアスな日とか何かなのか?
唐突ですが、私は炭酸飲料が飲めません。小学生の頃に従姉に『〇ァンタ』のグレープ2Lを一気飲みさせられたのがトラウマで、今では飲んだら即吐いちゃうという……。
そんな私が今日知った事。
『〇レンジーナ』って炭酸入ってたのね……知らんかった。てっきり『〇ンジュース』の親戚だと思ってたよ……恥ずか死ぬ。
勿論自販機前でゲロっちゃいました☆
お読みいただきありがとうございました。
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随時修正致します。
引き続き、『おさどう』をよろしくお願い致します。




