第十五話 「横逸」
5000PVありがとう!!
感謝感謝です!!!!
さて、シリアス回です(大嘘)。
考えてみれば、ひどく単純で想像のつく『話』だった。
「女性は人の視線に敏感」だという事はよく耳にするだろう。
正直に言って、アレは嘘だと俺は思う。何も女性に限った事ではない、男性だって様々な視線を受け、時には嬉しく思い、時には胃が痛む思いをするのだ。
正しくは、「人は人の視線に敏感」だと俺は言いたい。
さて、何の事だ?と思うかもしれないが、要するに俺も人の視線で何かを感じ取ることだってあるというわけだ。
――例えば頭髪だったり。
――例えば一人称だったり。
――例えば切り貼りした映像を再生したようにしか憶えていない『過去』だったり。
つまるところ。
チカが訊いてきたのは、そういう『話』だった。
# # #
「あのさ、」
チカはそう言いながら、俺に顔を近づけ近い近い!え、何、やっぱり『そういう事』なの?ちょっと汗かいてるからシャワーを先に……。
ぐいっ。
「えっ、痛っ!!」
アホな事を考えている間に彼女は俺の前髪を引っ張るように掻き上げてきていた。そして何かを見つけたのか合点が入ったように呟いた。
「……やっぱり」
チカは俺の前髪を引っ張りながらそう言っ痛い痛いから!この歳で毛根を気にしたくないから優しく扱ったげて!!
俺の心の意見は大いに無視をして彼女は「今度こそはっきり訊くわね」と前置きをして俺に尋ねた。
「この傷は一体どうしたのよ?」
それは。
俺の額の中央から右耳の所まで、前髪の生え際に沿って細く長く刻まれた傷痕を見つめての問いだった。
空気が重くなった気がした。
# # #
「えー、っと……」
……流石の幼馴染みにも、あんまりコレは話題にしたくないのだ。少しずつ逸らしていこう。
目線を横に逸らし頬を掻きながら、俺はその質問に疑問文で返す事にした。
「その、いつ気づいたんだ?」
「朝よ。アンタ今朝、いつもより急いで登校して来たでしょ?」
「ああ」
「だから髪の毛がドライヤーでもあてたみたいに浮いてたから見えたのよ」
「は、そうだったの?」
「アンタ、気づかなかったの?……その調子じゃ、その所為でその傷が皆に見られてた事にも気づいてないのかしら?」
え、アレってこの伏線だったの!?流石にもうちょっと以前からだと思ってたぜ……。
「い、いや、でもさ普通は傷なんて気にしなくないか?そんなアクシデント?にでも見舞われなければ気づかなかったワケだし」
「そう……アンタは気づいてほしくなかったのね」
「別にそういう――」
「確かに、普通は一つの傷如きで目くじらなんて立てないわね」
ただし、と少し間を開けて、
「私が気になったのは、七年前にはそんな傷痕なかったからよ」
チカはそんな事を言った。
「い、いや以前からあったろこの傷は」
「ないわよ。アンタがそんな大怪我した記憶なんてないもの」
――何より、確認したもの。
そう言って俺の方にズイっと差し向けてきたのは、一枚の写真だった。
「アンタに五時までって言ったのも、証拠を集める為だったのよ。なのにそれよりも早く来ちゃうから、一枚しか見つけられなかったわ」
簡素な写真用のスリーブに覆われているそれは七年前の俺が、いや『僕』が……
……「CHIKA」と黒のネームペンで書かれた白いカチューシャで前髪を留めて黒いソファの上で寝ていた写真であった。
……………………なにこれ。
場違いにも口をあんぐりと開けて呆けたままチカを見やる。するとチカはビクゥッ!!と尻尾を踏まれた猫みたいに飛び上がると、顔を真っ赤にして捲し立てるように早口で言った。
というか自白した。
「そそそそれはお姉ちゃんが撮っただけでたまたまアルバムにあって、……えーっと、えーっと、とととにかく私は関係ないわにょ!!!!」
あんまり過ぎて思わずジト目になってしまい、チカは「ううっ」とか唸っていた。
……友花さんは何してくれてんのさ。でも追求しに行ったら俺が返り討ちに遭う気しかしないので止めよう。
ジワジワと来る立場の逆転に恐れをなしたのかチカは慌てて話の軌道を戻しにかかった。
「ほ、ホラそんな事よりこの写真!おでこに傷がないじゃない!!」
必死になって写真の額を指差すチカ。何かハゲ指摘されてるみたいで嫌なんですが。
だが確かにその写真には、今の俺に刻まれた痕は欠片も映っていない。
「それによ、ホラ!」
そう言って今度は首を――俺が動くから回そうとすんな!人形じゃねぇんだぞ!!いや人形でもやるなよ!!!
俺は(本当に)必死の抵抗を見せ、自分からおそらく言及するのであろう後ろ首を晒すようにチカに背を向いて制服の襟をはだけさせた。……誰得だよ。
そんな事を考えていると、息を呑む音が聞こえた気がした。
「やっぱり……」
そう、こちらにも傷痕。
しかし。
「でもおでこの傷よりは浅そうね……と言うよりもおでこの方は怪我だけじゃなくて手術した跡も重なってるのよね……」
その理解力に俺ぁびっくりだよ。
「「やっぱり」ってお前、首の方はいつ気づいたんだよ?」
「アンタがお昼寝してた時よ」
え?アレもなの?
って、言うか。
「何でお前いちいち俺の事見てんのさ?」
「しょ、しょんにゃ事ないわよ!!」
めがっさ慌ててた。より具体的に言えばミサみたいに顔の前で手をパタパタと振っていた。
「いや、何処の世界に人の額とか首とかをチェックする奴がいるんだ」
局所主義かよ。
「にゃ、にゃにおう!?あ、アンタだって人の事ジロジロ見てたじゃない!!」
「それは番外編の話だろ!!?」
「は?何よその『バンガイヘン』って?」
「え、あ、いや――」
「やっぱり心当たりあるじゃないのよ!!」
「お、おい、話が変わってるぞ――」
【しばらくお待ちください】
# # #
「「はぁ……、はぁ……」」
二人して荒げた息を整わせる。
閑話休題。
「で、でもよ?」
本来の呼吸を取り戻したチカが言った。
どもりながらも途端、先程までとは一転してチカは雰囲気をガラリと変えた。
「久し振りに会ったと思ったら、さ……」
その表情は何処か悲しく、寂しそうだった。泣きそうでもある。
「見憶えのない傷が出来てた……なんて、心配するじゃないっ……」
「ぁ、」
そうだ、『あの時』と全く同じだ。
茜色に染まる世界で、パンドラが匣を開けてしまったような表情を、しかも二人に強いてしまったあの瞬間と。
――――何故自分から言ってくれないのか。
その潤んだ瞳はそう俺を責め立てるようでもあった。
……ふざけて騙し騙しで言い逃れる時間は終わりのようだ。
胃の痛みや喉の渇きを呑み込んで、俺はいよいよ覚悟を決めた。
遠回しに、後回しに。
後手にあぐね、誤魔化すのはもう止めよう。
臆病なのは卒業しよう。
出来るだけあっさり――――そう心掛けて、俺は告げた。
――――なぁ。
「お前も信用してくれるか?」
遠くから。
雷が鳴り響く轟音に紛れて、少女の戸惑いが聞こえて来た、気がした。
稚拙な表現で申し訳ない。
……次こそ説明回!!
P.S.
次回の「独白」は未読でも構いません。
その次の「動揺」にジャンプしても物語(と呼べるのかコレ?)はお楽しみ(?)いただけます。
……なかった事にして下さい(泣)
お読みいただきありがとうございました。
※誤字脱字表現の誤り等がありましたら感想にてご連絡ください。
随時修正致します。
引き続き、『おさどう』をよろしくお願い致します。




